怪しすぎる先輩
新太が冥王となってから早くも三週間が過ぎた。リーアの頭脳、リチャードの格闘技術、シュレイデルの権能の扱い方をみっちり学んだ新太は、それなりには戦えるようになっていた。
王冠の突起は3つから4つになっており、灰色の炎――― “霊炎”と新太が名付けた―――以外にも、もう一つ使える力が増えた。その名は『アヌビス』。大層な名前がついてるが別に神そのものではない。新太が言うには冥府の神である“アヌビス”の力のほんの一握りしか有していないようで、戦力としては今の新太にも及ばない。
アヌビスの見た目はアフリカキンイロオオカミそのものであり、急に人型になることはないのだとか。体長は3m強で、3人くらいなら楽々乗せれるほどらしい。
そんな力を手に入れた新太は、現在何をしているのかというと……。
「はぁ!?もっかい言ってみなさいよ!」
「おう何度だって言ってやるよチビ!てめえのやり方はいい子ちゃん過ぎるんだよ!!」
「だからって馬鹿正直に突っ込むのも違うでしょ!IQも獣になったんじゃないの?」
「はぁ……アヌビス、レイさんお願い」
「今何て言ぐえっ」
「うわあ!?」
例の2人の喧嘩の仲裁である。
アヌビスは主に言われた通りシュレイデルの首根っこを咥え、持ち上げる。新太はもう片方の首根っこを掴んでそのまま2人の仕事部屋に向かった。
「ちょ、新太放せって!」
「放しなさいよ!」
「……お二方?」
ワ―キャー暴れる子供に、新太は笑顔で呼びかける。もちろん目は笑っていない。
「「はいすみません」」
途端に大人しくなる子供たち。以前、あまりにもうるさく、新太が本気で怒ったときがあった。それ以来、2人は新太に強く出れなくなってしまったのだ。彼ら曰く『本気で怒った新太マジで怖い』とのこと。幾多の戦場を駆け抜けてきた彼らにここまで言わせるとは、よほどのことなのだろう。
「よっと」
目的地に着いた途端、新太は彼らをそれぞれの部屋にぶん投げる。
「大人しく仕事しててください。次は、ないですからね?」
「「はい」」
先程の元気いっぱいだった様子は何処へやら。新太の前だと借りてきた猫のように大人しくなる2人。そんな2人を尻目に、新太はもう一人の師匠の元へ向かった。
「お待たせしましたー」
新太がリーアの仕事部屋に入ると、彼女はリチャードたちとは違い、熱心に仕事をしていた。書類の山とにらめっこしながら、ぱぱっと片づけている。
「またあの2人か?」
「毎回仲裁するこっちの身にもなってほしいですよホント」
「この前スタッフに聞いたんだが、一種の風物詩になってるらしいぞ」
「周りがそうやって面白がるから負担が減らないんですけどねぇ!?」
部屋に置かれているソファに寝転がりながら、文句を垂れる新太。まるで家にいるようなくつろぎ方だが、リーアは何も言わないどころか微笑ましそうに眺めている。まるで母と子のようだ。
「疲れてること悪いが、おつかいを頼んでもいいか?」
「おつかい?」
「ああ、これを届けてほしくてな」
そう言ってリーアが取り出したのは、それなりの大きさの箱だった。
「この中にはテレポートアンカーが入っている」
「なんですかその便利の極致みたいなアイテム名は」
“テレポート”という名前に反応するゲーマー新太。テレポートとつく物は便利であると知っている新太はあからさまに興奮しだした。
「テレポートできるんですか円卓って!」
「あ、ああ。先代の発明王が作ったシステムでな、円卓支部と本部を行き来することができる。これを奥多摩支部に届けてほしい」
「お、奥多摩ですか……」
円卓の本部があるのは東京都中央区。奥多摩まではそれなりに距離があるが、いつかのリーアのように権能による身体強化を活かして、建物を経由し飛んでいけばいいのではないだろうか。
「精密機器だから走っていくなよ」
「うそーん」
そんな新太の考えは一瞬で打ち砕かれた。往復3時間コース確定である。現在時刻は午後3時。全てが終わった頃には空がオレンジ色に染まっているだろう。
「しゃーない、バイクで行きますか」
「せっかくのオフなのにすまないな。お詫びに美味しいイチゴ大福あげるから」
「1時間で帰ってきます!」
そう言って新太は荷物を抱え、爆速でリーアの部屋を後にした。彼女が向かうのは円卓の車庫。そこに彼女の愛車が収納されている。
「おや、新太君ではありませんか」
「げっ」
車庫にたどり着いた新太に、とある男性が話しかける。
「 『げっ』とは何ですか」
「いや、別に……」
彼の名は須藤渚。青い長髪に糸目が特徴的な人物。顔の他のパーツも整っており、美男という言葉がよく似合う。なぜそんな彼に、新太があまりいい印象を持っていないのかというと―――。
(言っちゃ悪いけどさ、糸目で敬語はさ、いつか裏切るじゃん!絶対一回は裏切るタイプじゃん!)
“敬語の糸目キャラ”という属性がそうさせているらしい。確かに新太の言う通り、このタイプのキャラは裏切りやすい傾向にある。とはいえ、容姿だけで判断するのはいかがなものか。
(たしかに人を見た目で判断するのはよくない。でもさ……!)
どうやら新太にはまだ思うところがあるようだ。
「今から奥多摩でしたっけ?ならここで耳寄りな情報を差し上げましょう」
「それですよそれ」
「それって……何がです?」
「その情報源が怪しすぎるやつが、私……というかみんなからいい印象持たれてない理由ですよ!さすがに怪しすぎる!!」
そう、この男、ワンポイントアドバイスのようなノリでしれっと大事でためになる情報を教えてくるのだ。しかも情報源は『秘密ですよ。相手方との契約なので』と言って誤魔化している。もちろん円卓の人間のほとんどから怪しまれており、彼を信頼しているのは上層部の数人だけだ。
「仕方ないじゃないですかそれは。そういう契約なんですから。で、情報聞きます?」
「そりゃ聞きますけど……」
新太自身、須藤は信用していないが、教えてくれる情報は信用しているため、聞かないという選択肢はない。
「では僭越ながら。最近、奥多摩支部付近では、何かの花の香りがするとのことです。これが何を示すのか分かりませんがね」
「花の香り……?」
「では、仕事があるので私はここで。お仕事、頑張ってください」
「ちょっと!……行っちゃった」
意味深なことを言うだけ言って、須藤は車庫を後にした。
(よくわからないけど、一応心の隅にでも留めておこう。にしても花の香りねぇ……。支部が花で埋め尽くされてたりして。いやないない)
馬鹿げた考えを否定しながら、新太はカードリーダーにライセンスをかざす。すると、車庫の一画が動き出し、中から新太の愛車が出てきた。黒を基調としたストリートモデルの大型バイクだ。
愛車に荷物を積み、ヘルメットを被ってクラッチを切る。そしてエンジンをかけて、車庫を飛び出した。




