権能の時間
「竜王……」
そう名乗った女性を今一度眺める新太。
(この小っちゃい見た目でほんとに竜王……?)
「あんた今『こんなちっちゃいのが竜王とか(笑)』とか考えてるでしょ」
「いやいや、そんなこと考えてませんって!」
(笑以外はあってるんだけど)
口に出すと竜に襲われかねないので、口が裂けても言えない新太なのだった。
「そう?なら良いけど。それじゃ気を取り直して、私の権能について説明するわね」
シュレイデルはそう言うと、口に手を持っていき、指笛を吹いた。すると、空を飛んでいた竜のうちに一匹が、新太たちの元へと降りてきた。
「とはいってもシンプルなんだけど。私はありとあらゆる竜を従わせることができるの」
「ありとあらゆるってどのくらいの範囲なんです?」
「全部。普通の竜から神話に出てくる邪竜まで」
「……はい?」
新太はシュレイデルの言ってる意味を理解するのに数秒かかった。彼女がさも当然のように口にしたのもあるだろうが、それにしたって新太には意味不明だった。
(神話って言った?え?神話の邪竜とか単体で世界滅ぼせるレベルだったはず……。それを従わせる?この人魔王にも引けを取らないんじゃ?)
「ま、邪竜とかはまだ力を貸してくれないんだけどね」
「あ、そうなんですか」
「なんかめんどくさくてねーあいつら。あれこれ理由をつけてはあしらってくるのよね」
文句を垂れながら、地平線の先を眺めるシュレイデル。新太も視線を追うと、そこには「ここにいるのは邪竜です」と言わんばかりの黒い繭のようなものが、3つあった。
「左から順に、バハムート、アジ・ダハーカ、テュフォン」
(ジークフリートの話に出てくる邪竜に、三つ首の竜、そして全能神に負けたけど、戦えるほどに力を持つ竜。……やっばぁ)
多少そういったものに詳しい新太は、自分の知識と名前を照らし合わせれば合わせるほど、シュレイデルがバカげたことを言っているのを実感した。
「ちょっと近くまで行ってみる?」
「いいんですか?」
「ここに人が来ること滅多にないから、気になってあいつらも出て来てくんないかな~って」
「なるほど……」
どうやらシュレイデルはどうにかして邪竜たちに力を貸してほしいらしい。断る理由もないので、新太は言われるがままにシュレイデルについていった。
3分ほど歩くと、先ほどの繭の麓に到達した。
「ほらー、今日は珍しくお客さんが来てるわよー!」
「――――――――――――」
「……反応ないですね」
シュレイデルの予想も空しく、邪竜たちはこれといった反応を示さなかった。表向きには。
(あー、あー、聞こえるか、人間)
突如として、新太の脳内に声が響く。
(こいつ、脳内に直接!?)
(すばらしい反応ありがとう。小娘にぐちぐち言われるのが面倒でな、悪いがテレパシーで話させてもらう)
「こんのぉ!なんか言いなさいよ!!」
テレパシーで会話している横で、声を荒げながら繭を蹴っている小さい影が一つ。
(めっちゃ怒ってますけど)
(まああいつはほっといて、少し話をしようじゃないか)
そう告げたテレパシーの相手に、新太は気まずそうな顔をして聞く。
(……すいません、誰が誰ですか)
テレパシーでは姿が見えないので本当に誰が誰だかわからない。新太がこうなるのも当然だろう。
(む、確かに分かりにくいか。ならセリフの前に名前の頭文字を付けよう)
(え)
バ(これでいいか?)
新(うわホントについてる……って私も!?)
ア(せっかくならな)
テ(これでわかりやすくなっただろう)
新
どうやっているのか、なぜ誰が喋ってるのか分かるようになったのかが、新太にはいまいちわからなかった。
ア(まあ面倒なのは、今までバトルシーンが全くなくて焦ってるやつに任せればいいさ)
新(???)
テ(こっちの話だ。それより、話の続きをしようか)
新(話って言われても……)
そう言い、いまだ横で暴れているシュレイデルを一瞥する新太。そろそろ何も言わない新太を不思議に思う頃ではないのだろうか。
「いーわよ、そっちがその気なら私だって今日はずっとここにいてあげるわよ!」
どうやらその心配はないらしい。
新(大丈夫そうですね)
バ(こいつバカだから)
新(ひどい言われよう)
邪竜たちのシュレイデルに対する評価に対し、思わず苦笑する新太。しかし、新太には彼らの言っていることもわからなくはないのもまた事実。
新(それで話って)
ア(そんな畏まったものじゃないさ。ただ君の意見が聞きたくてな)
新(意見って……私そんなお三方が知りたいようなこと言えませんよ?)
テ(いや、これは君にしかできないことだ)
あまり自信がない新太に対し、これといって根拠のない励ましをしてくるテュフォン。それが新太の不安をさらに助長させる。
新(なおさらふさわしくないような気がしてくるんですけど)
バ(リチャードと小娘の仲につい)
新(すいません詳しくお願いします)
さっきまで緊張していた姿はどこへやら。若干食い気味で詳細説明を求める新太。昔から他人の色恋沙汰が大好物の彼女にとって、見逃せない話題だったらしい。
バ(あ、ああ。実は2人は割といい感じの関係なのはわかるよな?)
新(もちろん。あ、でもシュレイデルさんがどう思っているのかは知らないですね)
テ(なら聞いてみるといい。ちょうどそこにいることだし)
言われた通り、新太は横でぷんすかしているシュレイデルに聞いてみる
「シュレイデルさん」
「なに?」
「シュレイデルさんってリチャードさんのことどう思ってるんですか?」
『リチャード』という単語が聞こえた途端、一気にシュレイデルの表情が冷たくなる。
「自殺願望があるなら話聞くわよ」
「違くて!シンプルに興味本位なんですよ。あんな場面見たら気になるでしょ」
「……それもそうね。はぁ、どこから話せばいいのかしら」
そこから話されたのは、リチャードの感情云々を除けば、彼が語ったのと同じ内容だった。
「ほうほう、で?」
「で?ってあんたねぇ……。別に幼馴染で戦友よ。それ以外の何者でもないわ」
普通ならリチャードの片想いで終わるのだが、新太は見逃さなかった。彼女が語る際に零した微笑みを。
「……シュレイデルさん」
「なによ」
「もしかして、リチャードさんといるときが一番心地いいとか思ってたりしません?」
「……………………ない」
明らかに怪しい間。確信を得た新太は追撃の手を緩めず、さらに問い質す。
「ふとした時に『あいつなにしてんだろ』とか考えたり?」
「してない」
「見かけたときに目で追ったり?」
「してない」
「なるほどなるほど」
「今何に納得した?」
新太には、先ほどまでものすごい剣幕だった女性がとても可愛く見えた。
「リチャードさんに対するシュレイデルさんの気持ちですけど」
「だからそんなんじゃないわ!!!それに―――」
シュレイデルは小さな声で、言い聞かせるようにこぼす。
「そう思うと、失ったときに辛いから」
もちろん、新太は聞き逃さなかったが、追及するのはやめておいた。気遣いもできるいい女(自称)なので。
「それに?」
「なんでもない」
隠すように笑い、彼女は繭に視線を戻した。どうやら本当に時間いっぱいまで粘るつもりのようだ。
バ(意見を聞きたい)
新(言葉を選ばなくていいなら。……逃げてるんですね、この人)
失うことを恐れるからこそ、距離を作る。そっちの方が、守る努力をして守れなかった時より辛くない。彼女は最初から、自分で守ることを放棄している。彼女の過去がそうさせるのだろう。どうやっても守れないものがあると知ってしまったから。
テ(ズバッと言うなぁ。まあこれをどうにかしない限り、2人が結ばれることはないんだがな)
新(シュレイデルさんがピンチの時に、リチャードさんが颯爽と助けるくらいしかないんじゃないですか?)
ア(それは考えたんだが、我らを抜きにしても竜王の権能は化け物みたいに強いからな。まずまずピンチにならん)
新(強さが仇になってますね……。ならほかの方法を考えないと)
1人と3匹が代替案を真剣に考えていると、シュレイデルのデバイスが電子音を奏でた。どうやら時間らしい。
「結局出てこなかったし。どうすればいいのかしらこいつら」
新(もうそんな時間ですか)
バ(ここまでだな。人間、いや新太よ。2人のことをよろしく頼む)
文句を垂れながら、シュレイデルが指を鳴らす。すると、新太の視界は一瞬で最初にいた訓練場に変化した。
「今日はこれでおしまい。明日からは権能で何ができるのか、そして権能を基にした戦闘スタイルの確立とかをやっていくから。それじゃ、お疲れ様」
そう言って訓練場を後にするシュレイデル。その背中を見て、王域内での出来事を思い返し、軽く炎を出してみる新太。
(なんか権能がどうとかより、邪竜が恋愛ROM専みたいなことしてたことのほうが衝撃的だったな。あの2人は……うん私ができることないや!こればっかりは2人の問題だし)
帰路につきながら今日あったことについて考える新太。半分くらいが恋バナだったような気もするが、おそらく気のせいだろう。
「ふぁ~あ、さすがに疲れた。明日もあるしさっさと帰って寝よ」
あくびをする彼女を、遠くから見つめる怪しい影が1つ。
「これがお前の選択か、魔王よ」
その影に、力を得たばかりの新太には気づけるはずもなかった。




