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ハコニワの王  作者: ウエハース
第一章 冥王の目覚め
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報告 連絡 相談

「よし、今日はこれくらいにしておくか。……大丈夫か?」

「大丈夫なように、はぁ、見えます、はぁ、これが……」


 地面に仰向けで倒れている新太は、何とかして乱れた呼吸を整えようとしていた。あれから彼は地獄のメニューを死にかけながらもこなし、何とか完遂することに成功した。本人曰く走馬灯が10回は見えたとのこと。


「まさか全部通しで完遂しちまうとは、恐れ入った」

「はい?」


 リチャードの言い回しに、新太は違和感を感じた。その言い方だと、まるで完遂することを前提にされていないと言っているようなものだ。


「これ、途中でギブアップすること前提のメニューなんですか!?」


 整えたばかりの呼吸を荒げながら、新太は真意を尋ねる。


「あ、ああ。途中で音を上げると思ってめちゃくちゃなメニューにしてみたんだが」

「それなら言ってくださいよ!馬鹿正直に全部真面目にやったのが馬鹿みたいじゃないですか!」


(どうして王ってのはどいつもこいつも言わなきゃいけないことを言わないの!報連相は社会の常識でしょ!)


「まあまあ、いいトレーニングになっただろ?」

「それは!そう、ですけど……」


 新太は、自分をなだめるリチャードの言い分も正しかったので、あまり強く出れないもどかしさを感じつつも、やっぱりムカつくので愚痴を言い続けた。


「ん?電話か」


 すると、新太の愚痴を聞いているリチャードに一本の電話がかかってきた。


「もしもし」

『おっそーーーい!!!!!もう時間過ぎてるんですけどー!!!』


 離れた新太の耳にも届くほどの声量。叫んでいるのはおそらくシュレイデルだろうことは新太にもすぐに分かった。


「うっさ!!!んな大声出さなくても聞こえてるっての!今からそっちに送るから準備してろ!!!!」

『準備終わってるから急かしてんのよこの馬鹿!』

「チッ」


 面倒くさくなったのか、電話を切るリチャード。


(ほんとに仲いいんだよね?この2人)


 若干不安になりながらも、先ほど見たリチャードのドヤ顔を信じることにした新太は、これ以上事態が悪化しないようにそそくさとシュレイデルのもとへ向かった。



  ▢



「お待たせしました~……」

「やっと来た!まあどーせあいつに何か言われてたんでしょう?あとできつく言っておくわよ」

「あ、ありがとうございます」


 自分が散々愚痴っていたせいだとは口が裂けても言えない新太は、頷くことしかできなかった。


「時間もないし、さっさと本題に入りましょうか。権能の使い方、その基本を教ええるわ」


 そう言って新太の胸に手を置くシュレイデル。しばらくすると手が淡く光り、その光は新太の全身を包んだ。


「今光っているように見えるのは、身体に流れる『エーテル』。私達が権能を使う際に消費する代物よ。本来は見えないものなんだけど、戦う身としては見えなきゃ死活問題だからみんな何とかして見えるようにしてるってわけ。あんたにも見えるようになってもらうわよ」


 新太は今一度、自身の光る身体を見つめる。


(これが、エーテル。こんなのが私の身体に流れているのか。……ん?心臓のあたりに一際強いものを感じるような)


 新太は直観で悟る。これが、これこそが王の権能なのだと。そして、その部分へと意識を集中させる。


(深い闇。冷たい土。全ての魂がたどり着く、終着点。けれど、どこか暖かい。これが、冥府。もっと深く……)


 新太がさらに深く権能の奥へと落ちていると、フッと、世界が闇に包まれた。


「え?」


 慌ててあたりを見渡すも、闇しかない。先ほどまで新太のすぐ傍にいたシュレイデルもいなくなっている。


「ここは、いったい……」


 突然のことに焦っていると、新太の視界の端に淡い白光が走った。それは次第に増えていき、あっという間にこの不思議な世界一面を満たすほどの数となった。


「え、ええ!?」


 二転三転する視界に驚く新太。そしていつの間にか光は新太の元までやってきていた。それに、彼女は恐る恐る触れてみる。


「暖かい……」


 その光には、人の温もりが確かにあった。


(これ、多分魂だ。冥府にあるすべての魂が、この空間に集まってるんだ)


 ふと周りを見渡すと、光たちは新太の周りに集まっていた。まるで新しい冥王の誕生を祝福するようにくるくる回っている。


「ふふっ、これからよろしくお願いしますね」


 先達たちに新太が挨拶すると、魂たちの光が強くなり彼女を包み込んだ。そして、目を開くと、現実世界に戻っていた。


「う、うそお!?!?」


 意識が戻って安心したのも束の間、シュレイデルが驚きの声をあげた。彼女の方を見ると、口をあんぐりと開けたまま、新太の頭の上を指さしていた。

 反応が気になった新太は持っていた鏡で確認する。


「……なにこれ?」


 そこにあったのは、頭を囲むように浮いている冠だった。冠といっても突起部分が3つしかない未完成の冠だ。


「なんなんです?これ」


 いまだ口が開いたままのシュレイデルに、新太は謎の冠について聞いてみる。


「冥王が権能をアクティブにしたときに出てくるやつ!まだエーテルしか教えてないのに、どうやったの!?」

「どうって……なんか出ちゃったんですよね」

「センスの化け物!」


 私の時はめちゃくちゃ時間かかったのに、と非情な現実にしょんぼりしだしたシュレイデル。そうは言われても新太はこれと言って何もしていないので、慰めることしかできない。


「はあ……まあ手間が省けたからいいや。もともと今日はこれをなんとかして物にしてもらおうと思ってたから、やることなくなっちゃったなあ」


 残りの時間をどうしようかと悩んでいるシュレイデルを尻目に、新太は自分の力を確認していた。


(うーん、今はこの炎しか使えないっぽい?)


 どうやら今の彼女が使えるのは、あの時見た灰色の炎だけのようだ。


「よし、それじゃ私の王域を見てもらおうかな」

「へ?」


 新太がシュレイデルの発言を理解する前に、彼女は権能を発動させた。すると、さっきとは違う、とても明るい光に新太は包まれた。

 しばらく目を瞑っていると、強い風に体を煽られる感触がして、新太は目を開ける。

 そこにあったのは――――――


「えええええええええええええ!?!?!?」


 空島というべきだろうか、一面草原しかない島が大空にポツンとあった。しかし、新太が驚いたのはそれだけではない。島のそこら中を竜らしき生き物が飛び回っているのだ。


「シュレイデルさんって……」


 権能について予想がたった新太は、確かめるためにシュレイデルに聞いてみる。


「改めて自己紹介といきますか!―――私は円卓所属の王が一人。『竜王』シュレイデル。以後、お見知りおきを」


 質問に対してシュレイデルは、子供のような笑顔でとんでもない経歴を口にしたのだった。

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