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ハコニワの王  作者: ウエハース
第一章 冥王の目覚め
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座学の時間

「新太、かくれんぼしよっか」

「かくれんぼ!する!かくれんぼする!」

「それじゃ、新太がおにさんね。10秒数えてね」

「うん!いーち、にーい、さーん……じゅーう!もーいいかーい!」

「もーいいよ!」

「よーし、ここはちがう、ここもちがう、―――あれ?いない……。おかーさん、どこー?おかーさん!どこー!おかーーさん!!」


『ピピピピ、ピピピピ』


「ん……」


 新太は聞き慣れたアラームの音で目を覚ました。寝ぼけ眼を擦りながら時間を確認する。


(7時か……。なんか眩しい。いつもは全然眩しくないのに)


 徐々に覚醒してきた頭が、今までの情報を新太に与える。


「ああ、そういや私、円卓に来たんだっけ」


 そのことを思い出すと、様々な疑問にも納得がいく。いつもと違い眩しいのも、部屋の内装が違うのも、引っ越したからである。


(まさか勝手に家具が配置されてるとは。もう配置し直すのもめんどくさいから、慣れていくしかないんだけど。それに何か夢を見ていたような……、もう思い出せないや)


 頭を振り、新太はリビングへと階段を降りていく。

 そう、実は新太の新住居は一軒家なのだ。二階建ての2LDK。円卓所属の王ならばこれがタダである。破格にも程があるというもの。


 部屋は寝室と、壁一面に本棚がある書斎の二つ。書斎にはおそらく学術的な本が新しく住むのだろう予感が、新太にはしていた。


(メインタワーまで20分くらいだから……8時半くらいに出ようかな)


 朝ごはんを作りながら、先の行動を計画する。中学生から一人暮らしをしていた新太にとって、ご飯を作ることなど朝飯前である。

 テレビをつけると、いつもの朝のニュースが聞こえてくる。非日常だらけのこの場所で、ここだけは変わらない。その事実に、新太の胸が少し暖かくなった。


「行ってきまーす」


 誰もいない家に挨拶をし、新太は家を出た。

 8時半ともなると、ほとんどの人が起きており、ゴミを出す人や、着崩れたスーツで走るサラリーマンもいる。


(ここだけ切り取るとホントにただの日常だよね……)


 居住区は円卓の敷地外にも広がっており、ぱっと見は一般人もそれなりに見うけられる。もちろん円卓に勤めている人もいるらしく、新太と同じ方向に進む車や人が横を通り過ぎていく。


 そんな人の流れや街並みを眺めながら歩いているうちに、新太はあっという間にメインタワーに着いてしまった。時間がたつ速さに驚きつつも、彼女は自分のライセンスを機械にかざす。エントランスは、ライセンスをかざすと小さな電子音が鳴り、ゲートが開く仕組みになっており、あちこちから『ピピッ』という音が聞こえる。


 新太は開いたゲートを通り、例の高そうな椅子に座って時間まで待つ。待ってる間に周りを見渡すと、昨日とは違い、多種多様な人があちこちを行き来しているのが分かった。


(人多。昨日来たときは昼休みを過ぎてたから誰とも会わなかったのよね)


 昨日のエントランスの様子を思い返していると、新太の両肩に誰かが手を置いた。耳に触れる髪につられ、顔をそのまま上に向けると、そこには灰色のカーテンに囲われた見知った顔があった。


「おはよう、新太」

「お、おはようございます、リーアさん」


 二人はリーアの髪で作られた空間で見つめ合う形になっていた。


(初対面の時も思ったけど、マジで顔綺麗だなこの人。もはや一種の絵画でしょこれ)


 新太は彼女の瞳に吸い込まれそうになるのを何とかこらえて、体を起こし、言葉を紡ぐ。


「今日は何するんですか?」

「これからの基本的な流れの説明と、実践だな」


リーアはそう言い、立ち上がった新太を連れて奥へと足を進めた。


「座学は私、体力作りや格闘術はリチャード、権能がシュレイデル。この振り分けでこれから君を鍛える」

「なるほど。今日から本格的に始めるんですね」

「ああ、まずは座学からだ。部屋は……ここが開いてそうだな」


 彼女はそう言うと、そこらへんにあった部屋の鍵を開け、新太に座るように促す。


「そうだな……初回は導入も兼ねて円卓の目標とこの世界の勢力図でも教えようか」


 データベースにアクセスしたリーアによって、ホログラムが投影されるのを見つめる新太。学校で使われていた電子黒板とは一線を画す技術力に驚いているようだ。


「まずは勢力図だな。勢力は大きく二つに分けられる。一つ目は我ら円卓。そしてもう一つが、魔王軍だ」


 “魔王軍”。それは『魔王』を中心とする、円卓の敵対組織。そこには様々な残虐性を持つ王や従者たちが集まっていると言われている激やば集団である。


「魔王はそれはそれは厄介でな。特殊な力でない限り、なんでもできる」

「なんでもできる?」


 その言葉に疑問を呈す新太。抽象的過ぎてあまりピンと来ていないらしく、頭の上に『?』を浮かべている。


「なんでもはなんでもさ。四大元素から量産的な権能まで、ほとんどの力を振るうことができる。ファンタジー世界では、どんな力を持っていようと、魔族などの長になれば魔王となる。そんな様々な種類の魔王が合わさってできた王。それが『魔王』という生命体だ」

「……はい?」


(つまり、チートじみたことはできないけど、それ以外なら何でもできる器用貧乏の究極体みたいなものってこと?―――無理じゃない?)


 新太にはどう頑張っても勝てるビジョンが思い浮かばなかった。けれどリーアには何か策があるようで。


「普通にやったら勝ち目はない。そこで、君の権能なんだ」


 自信満々にそう言い、新太を指さすリーア。


「なるほど。冥界なら冥王に勝てる生命体はいないですからね」

「あ、うん。そうだが……」


 得意げに説明しようとしていたリーアは出鼻をくじかれて、少し肩を落とす。


「ま、まあ理解してるならよしとしよう。そのためにも君には力の使い方を覚えてもらう必要があるが、構わないな?」

「ええ。やらなきゃいけないんでしょう?」


 新太には、首を縦に振る以外の選択肢は存在していない。


「ありがとう。そして、今日、8月1日から学校が始まる9月1日までの一ヶ月でやれるところまで叩き込む」

「あ、そのことなんですけど」

「なんだ?」


 新太は昨日からずっと疑問に思っていたことを聞く。


「わたしって学校どうなるんですか?元の高校通うわけにもいかないでしょう?」

「ああ、それなら騎士団の養成学校がある。あそこには騎士団を目指す者や、円卓の王に仕える従者なんかが通っているな」

「騎士団って、あれですよね?円卓管轄の」

「ああ。んー、一応説明しておくか」


 そう言うと、リーアはデータベースをいじり、新たなホログラムを出現させた。


「魔剣や魔道具といった聖遺物で戦う、王やその従者とも違う者達で構成された組織が『騎士団』だ」

「……ちなみに学校に私以外の王って」

「学園長である騎士王以外いないな。なので正体がバレないように頑張ってくれ」

「ですよねー」


 騎士見習いとして扮しながら、王としての力を磨く。想像するだけでやる気がなくなるような仕事だが、あいにく新太には拒否権がない。

 そんなことをしていると、リーアのデバイスが鳴った。どうやら座学の時間は終わりらしい。


「次はリチャードだな。地下2階に訓練場があるからそこに向かってくれ。彼は格闘のエキスパートだからな。権能を振るうのにふさわしい肉体にしてくれるさ」


 そう言って、新太をエレベーターまで見送ったリーアはどこかへ行ってしまった。


(リチャード……。名前から察するに獅子心王?ってそういやリーアさんの権能について何も聞いてないな。ついでにリチャードさんに聞けばいいか)


 期待と不安が入り混じりながら、新太は地下2階に止まった箱から、地獄へと足を踏み入れた。

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