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ハコニワの王  作者: ウエハース
第一章 冥王の目覚め
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戦いの後始末

 どこからか風が吹き、花の海から色を奪っていく。気づいた時には、新太は現実世界に戻って来ていた。状況を把握しようとする彼女を、橙色の光が照らす。光の方向を見ると、既に日が沈み始めていた。


「もうそんな時間か……」


 王域内で戦っている間に、それなりに時間が経っていたらしい。新太の腕のデバイスによると、現在の時刻は午後6時過ぎ。もう少し時間が経っていたら、帰りを心配したリーアが動いていただろう。


(まぁこれからもっと心配させるんだけど)


 風が新太を仰ぐ。先の戦闘で、奥多摩支部は全壊。王域内だからノーカウントとはいかず、随分とスッキリとしてしまった。


「怒られるだろうなぁ……」


 苦笑しつつ、新太はデバイスに搭載されているボタンを押し、救難信号を送る。信号を受理した本部から誰かさんがすっ飛んでくるだろう未来が、彼女には容易に想像できた。

 待っている間に、支部だったものの中心に膝をつく。新太にはやっておきたいことがあったのだ。


(戦い方は『冥王』の『め』の字もなかったけど、これくらいはしておきたい)


 新太は瞳を閉じ、この場所にあったであろう光景を想像する。書類仕事に追われる事務。資料部屋でサボるダメ職員。平和で暇を持て余している騎士。そんな人々が作り上げていた『生活』に思いを馳せ、言葉を紡ぐ。


「願わくば、あなたたちの眠りが安らかであらんことを」


 冥王は数秒祈り、立ち上がる。すると、既に限界を迎えていた脚から力が抜け、バランスを崩す。


「おっ、とっと。ありがとアヌビス」


 後ろに倒れ込む主人を、良狼は自分の身体で支える。お礼に頭を撫でると、気持ちいいのか目を細めて頬擦りをしてきた。


「ふふっ、くすぐったいって」


 新太がアヌビスとじゃれていると、忘れていたものが視界に映る。彼女に顔を殴られて伸びているフレールだ。気絶してからそう時間は経ってないが、いつ目を覚ますか分からない。拘束しなければ。


(とは言っても、もう脚動かないんだよなぁ……)


 限界を迎えた身体に許されているのは、モフモフの毛並みを堪能することだけだった。

 どうやって拘束しようかとフレールを見つめながら考えていると、突如、高速で何かがフレールの上に降ってきた。


「うおお!?」


 轟音とともに瓦礫が吹き飛ぶ。新太は咄嗟に腕で顔を覆い防御する。脆くなっていた瓦礫は粉々になり、破片が"コツコツ"と新太の頭に当たる。

 パラパラという音が止んでから、何が起きたのかを把握しようと新太は目を開ける。見覚えのある灰色の長髪が風に靡いている。透き通るような灰色の瞳が新太を視界に捉える。


「新太!」

「リーアさん!?」


 早すぎる登場に新太はデバイスを確認すると、救難信号を送ってから5分しか経っていない。本部からここ奥多摩までは直線距離で約70km。それを5分で走りきるとなると、秒速は驚異の233m。音速が340mなので、その約0,7倍となる。


「―――――――――」


 リーアの速度を導き出した新太は、その速さに絶句する。新太がリーアに抱いていたイメージは、権能で強化された頭脳を使って、スマートに戦うクールな姿。しかし蓋を開けてみると先程のイメージに、筋肉が加えられたインテリ系のパワータイプだった。


「ふぅ……よかった。無事だったか」


 新太の無事を確認したリーアは安堵し胸を撫でおろした。正確にはボロボロなので命以外無事ではないが。


「……速すぎません?」

「円卓の上位層ならこれくらい普通だぞ?」

「??????????????」


 畳みかけられる意味の分からない情報に、新太の頭はショートする。上位層がどれだけいるのか新太には分からないが、このレベルの人間がポンポンいていいレベルではないことは分かる。


(うん、深く考えるのはやめよう。考えてたらキリがない)


 諦めた新太は、話題を変えることにした。


「このあとってどうなるんですか?」

「うーん、とりあえずここは立ち入りを規制して再建工事。何があったかは新太に報告書を書いてもらう」

「うげっ」


 『報告書』という言葉を耳にした瞬間、あからさまに嫌そうな顔をする新太。そんな彼女を見て宥めるように微笑むリーア。


「そんな顔するな。書き方はこの前教えただろう?」

「だからこそなんですよ……」


 新太は少し前にリーアから報告書の書き方を教わったのだが……書くべき必須事項や形式、逆に何を書いてはいけないのかなどを叩き込まれ、脳がパンクしたことが若干トラウマになっている。


「で、今回の主犯の姿が見えないんだが……」

「リーアさん、下、下」

「下?」


 新太に言われるがままに下を向いたリーアの視界に、踏まれている男が映る。瞬きを数回繰り返した後、その男を指さしながらリーアは新太に確認する。


「……これが?」

「それです。それ花王です」

「花王!?」


 新太がその名を口にした途端、リーアが血相を変えてフレールの上から飛び降りる。


「今花王って言ったか!?」

「言いましたけど……」


 新太の元まで駆け寄り質問をするリーアの反応がおかしい。まるでそんなわけがないといわんばかりだ。


「有名なんですか?」

「ああ、魔王軍の中でもそれなりに名の通った王だ。普通なら上層部が派遣されるレベルの相手なんだが……」

(ん?今なんて? “上層部が派遣されるレベル”って言った?)


 もしかしたら自分はやってしまったのではと直感する新太。


「戦って勝ったのか?」

「は、はい」

「どうやって」

「あ、いや、その、それはー」


 言えない。言えるわけがない。 “自分もろとも建物を爆破して瓦礫の下敷きにしました”なんて新太には口が裂けても言えない。


「どうやって?」


 言い淀んだ新太に、何かを確信したリーアは追撃の手を緩めない。目の笑っていない笑顔で詰め寄り続ける。


「別にそんな大したことは……」

「どう、やって?」

「――――――自分もろとも建物を爆破して瓦礫の下敷きにしました」

「……ん?すまないもう一回頼めるか」


 あまりの荒唐無稽さに思わず聞き返すリーア。無理もない。弟子が『自分ごと爆破した』と言われたらフリーズするに決まっている。


「自分もろとも建物を爆破して瓦礫の下敷きにしました」

「何してるんだ?????」

(うん自分でも思ってるよ?ホントに何でこんなことしたんだろうね私!!)


 新太が自虐している間に、大きなため息をつきながら、リーアは辺りを見渡す。


「ならこの惨状も?」

「……はい」

「…………全部報告書に書いてくれ」

「……わかりました」


 報告書を読んだシュレイデルとリチャード、そして目の前のリーアに説教される未来が確定した新太は遠い目をして山を眺める。


「とりあえず、話はあとだ。レイとリチャードがハラハラしながら待ってるからな。さっさと帰ってやらないとあっちの身がもたない」

「はーーい」


 そう言ったリーアは、フレールを縄で拘束したあと、新太を背負って出発した。

 ゆっくりとしたスピードから生み出される適度な揺れが、新太の眠気を誘う。疲労も限界に達していた身体では抗えるはずもなく、そのまま深い眠りについた。

 そのあと、帰還した新太が3人にこっぴどく叱られたのは、言うまでもないだろう。

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