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ハコニワの王  作者: ウエハース
第一章 冥王の目覚め
10/12

外道と外道

 フレールの目に映るのは、壁のように連なる職員だったものを蹴散らす冥王。ほとんどの苗床は新太より戦闘能力は低く、個々の力はさほど脅威ではない。

 ならばどうするか。数でカバーする。一階だけで50人程度の職員がおり、それに加えて、警備の騎士数名に自分の攻撃。まだ冥王の力の半分も引き出せていない新太にとっては、十分きつい戦いになるとフレールは予測していたが、すぐに考えを改めさせられた。


「爆ぜろ」


 冥王がそう唱えるだけで、軍勢の一部に閃光が走る。遅れて、数体が轟音と共に吹き飛んでいく。未熟といえど、さすがは冥王だと何度目かの感心をしつつ、フレールは種子を飛ばしちょっかいをかける。

 この種子は人体に当たると即座に生気を吸収し、苗床にしてしまう代物だ。火にも耐性があり、新太の霊炎を貫いて届く攻撃である。


(あれ多分、当たっちゃダメなやつだ)


 それを直感で理解した新太は、職員の残骸を引き寄せ盾にする。もちろんすでに生気を失っている為、種子は発芽しない。


「えげつない戦い方だな。ほんとにこの前まで一般人だったのか?裏社会で生きてたって言われた方がまだ納得できるぞ」

「どの口が言ってんだか……!」


 人を傀儡にして戦わせるほうが外道度合いでは上だろう。文句を言いながら戦闘を続けていると、少しずつ道が開けてきた。目の前にいるのを倒せば、フレールに届く。

 おそらく壁を抜けた瞬間に攻撃をしてくるだろう。それを対処するためにはどうすればいいのか。新太が出した結論は―――。


(出てきた瞬間に種子を飛ばす。速度より範囲を重視すれば避けれないだろう。それでゲームセットだ)


 新太にとどめを刺す方法を考えていたフレールは、今まで以上に新太の動きに注目する。

 花王を倒さんと迫る冥王は、最後の障壁の首を刎ねる。これで二人の間に邪魔なものは無くなった。それを確認したフレールは、攻撃態勢に入る。対して新太は、シュート態勢に入る。


(――――――シュート態勢?)


 フレールが疑問に思ったのも束の間、何かが眼前に迫ってきていた。


「!?」


 反射的に腕で防ぐと、乾いた土のような感触がした。この感触を彼は知っている。苗床たちの頭だ。そう、あろうことか新太は先程刎ねた頭をフレール目掛けて蹴ったのだ。前言撤回しよう、外道度合いは同じだったらしい。


「倫理観どうなって―――っ!」


 シュートを防いだことによって生まれた隙に、新太はフレールとの距離を詰めていた。彼が気付いた時にはすでに新太の間合いの中。


「っらぁ!」


 フレールが抵抗する間もなく、新太は目の前の男を逆袈裟切りにした。


(あ、忘れてた)


 剣から伝わる感触が新太を冷静にさせたことにより、目の前の男が分身だったことを思い出す。


『はー、人の頭でサッカーするとか頭いかれてるのか?』

「お前に言われたくないんだけど」


 心外とでも言いたそうにスピーカーを睨む新太。誰がどう見たってフレールと同じ感想が出てくる気がするのは気のせいだろう。


『俺に言われるくらいなんだよ。冥王のくせに魂を慈しまずバカスカ殺すし。まあいいか、どうせここから出るには本物の俺を倒さなきゃいけないんだし』

「なら、片っ端からぶっ壊せばいつかアタリを引けるってことか」


 バーサーカーじみた考えを口にしながら、襲ってくる職員を対処する新太。


『やってみたらいいんじゃないか?』

(……これなんかあるな)


 含みのある物言いに何か裏があると考えた新太は、王域の主を出し抜く方法を思案する。


(十中八九私の位置はあいつにバレてるから、意表を突くのは難しい。かといってそうしなきゃイタチごっこだ。この花だらけの建物で追跡するのは、現実的じゃない。なら―――)


 秘策を思いついた新太は、自分の足元に小さな霊炎の塊を浮かべる。どうやら炎が圧縮されてるため、高温を有しているらしい。その熱は半径2mの植物や職員を焼き尽くすほどだ。


『セーフティエリアってところか。まさかほんとに全部叩くつもりか?』

「やってみればって言ったのはそっちでしょ?」

『ハハッ!いいね、やろうか』


 無機質な声に呼応し、建物に存在する花が絡まりあい、鞭のように体をしならせる。数は2つ。1つは新太の頭目掛けてフルスイング。もう1つは地面を抉りながら下半身に狙いを定めて迫る。

 迫りくる死の威力を持った攻撃に、新太がとった行動は、前進。上下の鞭の間に生まれた隙間を狙い、走高跳びの要領で背面飛びをして避ける。


( “ない”ってのもこういうときは便利だなあ)


 自分の体つきを内心褒めながら、彼女は次の部署へと足を進めた。

 そこから新太は、建物に存在するすべての部署や部屋を走り回り、分身を切ってはセーフティエリアを作り、分身を切ってはセーフティエリアを作り……を繰り返し続けた。

 どれほどの時間が経ったのかはわからないが、いつの間にか新太は最後の分身を切り伏せていた。


(ここが最後……だけど全部分身だった。下から順番に、屋上まで見たけど何もなかった。なら、予想通り……!)


 その瞬間、疑念が確信に変わる。新太は階段を駆け下り、エントランスまで戻った。そこには、倒したはずの分身が佇んでいた。


「掃討ご苦労さん。まあ意味ないんだけどな」

「お前は自由自在に分身と本体を切り替えれるんでしょ?」

「Exactly」


 そう、フレールは必ず分身のどれかが本体になるように動いていた。壊された端から新たに分身を作り、やられそうになったら意識をほかの分身に移すことで生き残る。


「俺を倒すなら分身を全部同時潰すしかない。しかしそれは不可能だ」


 “4階建ての建物のすべてを同時に攻撃”。 新太が知っている範囲なら、可能なのはシュレイデルくらいだろう。1階を爆破し、瓦礫で潰そうとしても花たちが生い茂り、崩壊を防ぐだろう。


「なら、全部丸ごと爆破すればいい」


 突如、新太の身体からエーテルと共に霊炎が溢れだす。経験豊富なフレールはその意味を瞬時に理解する。


「まさか、お前の炎で全部焼く気か?だが残念だったな。燃やすというなら燃えた先から修復すればいい。お前の炎と俺の花の我慢比べといこうじゃないか」

「……ハズレ」

「なんだと……?」


――――――――種は既に撒かれている。


「応えよ、小さき炎」


 新太の詠唱に呼応し、建物内の数十か所が淡く光る。その光の座標にあるのは、セーフティエリア。


「―――まさか」


 彼女は最初にこの結論に達していた。動かない、圧縮した炎を脅威でないと思わせ、敵の脳から除外する。それを何度も繰り返す、分身がいるすべての部屋に。あとは圧縮を止めるだけ。解放された炎によって何が起きるのかは……言うまでもないだろう。

 準備を終えた冥王は親指と薬指の腹を合わせる。それに対し、花王は最悪の未来を防ぐために数百の種子を飛ばすが、すべて届くことなく燃え尽きる。


「 『葬炎』 」

「っ―――!」


 “パチンッ!”という音を合図に、2人の視界は光に包まれた。続いて耳をつんざくような轟音と熱が襲う。そしてトドメに焼け溶けた瓦礫の雨が降り注いだ。




  ▢




 積みあがった瓦礫の山の中に、動くものが2つ。1つは花に囲まれているが、ほとんどが黒く炭化している。もう1つは灰色の炎が揺らめいているのが見える。煙が引くと、血だらけの2人の姿が露になった。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「はぁ……ゴホッゴホッ」


 互いに息を整えようと息を吸うが、喉を焼かれたフレールだけは咳き込む。戦況は……霊炎の影響を受けなかった分、新太のほうが若干有利だろうか。


「お前、マジで狂ってるよ」

「そりゃぁ、ね。一般人だった私は、狂わなきゃやってらんないから」


 眼前の敵を見据え、2人は武器を構える。色とりどりの花で作られた直剣。それに相対するは揺らめく灰色の炎。示し合わしたように、同タイミングで駆け出した。

 鍔迫り合いから剣戟が開演した。廃墟と化した建物の中心を、残光が彩る。焼け焦げた床に鮮血が落ち、音を立てて蒸発していく。自らの怪我なぞ二の次に、ただ勝利のために剣を振るう。

 一進一退の攻防が続く中、一瞬の隙を突かれ、新太は剣を弾き落されてしまう。


「なっ……!?」


隙だらけの新太に、必殺の一撃が迫ってくる。その刹那、思い出したかのように新太はその名を呼ぶ。


「―――アヌビス!」


 影が蠢き、その中から、冥府の神の化身が姿を現す。現界したアヌビスは、即座に状況を理解しフレールに襲い掛かる。


「こんの……!」


 噛みつきを間一髪獲物で防ぐフレール。その隙を見逃す新太ではない。右拳を握り締め、腹に重い一撃をお見舞いする。


「はああああああ!」

「カハッ……!」


 均衡は崩れ去った。新太は攻撃を緩めず、決着を付けにかかる。


「させ、るかよ!!!」


 花王からの種子はんげきを、あろうことか新太は防がずに直進する。頬を、腕を、脚を、種子が掠めていく。傷を負った場所から花が生えるも、気にせずに進み続ける。


「バケモンが……!」

「アヌビス」


 瞬きの間に、両者の距離が縮まる。新太はアヌビスに自分を蹴らせ、強引に距離を詰めたのだ。新太はすでに拳を振りかぶっており、逃げる隙も、避ける気力もフレールにはなかった。


 「―――はっ」


 彼の口から出たのは、諦めから出る乾いた笑いだった。


「っらぁ!!」


 今までで最も重い一撃が、いつかの宣言通り、フレールの顔面に叩きつけられた。


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