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ハコニワの王  作者: ウエハース
第一章 冥王の目覚め
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新たな刺客

 新太の初戦闘から約一週間後、ついに養成学校に編入する日がやってきた。緊張からか夜中に目が覚めてしまった新太は、気分を落ち着かせるために、散歩に出かけることにした。


(緊張するなぁやっぱ。それに権能も隠さないといけないから霊炎で武器を作ることもできないし……)


 養成学校の生徒は基本的に“聖遺物”を用いて戦う。 “聖遺物”とは鍛治王であるヴェルンドが設立した鍛冶組織『フォルジュロン』が作り出す特殊な武器。

 鍛冶王の権能を用いることで既存の武器に属性を付与することで生み出される。付与できる属性は基本的に1つまで。稀に2つ以上付くこともあるらしいが、滅多にないとのこと。

 円卓から学校用の聖遺物は支給されているものの、ふとした時に権能を出してしまう気しかしないため、新太はナーバスになっている。

 そんな新太に、後ろから近づく影が1つ。


「こんな時間に何してるんだいおねーさん」

「ひゃあ!?」


 誰かに話しかけられるなんて微塵も思ってなかった新太は、素っ頓狂な声を上げてしまう。

 慌てて振り向くと、そこには眼鏡をかけた黒髪の女性が立っていた。セミロングの髪をたなびかせながら、にへらと笑う女性。陽気な雰囲気だというのに、どこかミステリアスに感じるのは街灯の光のせいだろうか。


「ど、どちら様……?」

「ボクはただの通りすがりだよ。おねーさんが落ち込んでる顔してたからね」

「は、はあ」


 少しづつ警戒を解いていた新太は、とあることに気づく。


(この人、たぶん王だ)


 円卓での訓練を受けて、新太は相手のエーテル量や濃度などからある程度の実力を測れるようになっていた。目の前にいる女性はまず間違いなく王だと言えるが、所属が分からない。居住区にいるのなら円卓の可能性が高いが、魔王軍がふらっと来た可能性も捨てきれない。


「で、なんで落ち込んでたのさ」


 結論を出せない新太は、とりあえず話してみてから判別することにした。


「別に、明日から新天地で生活することになるから緊張してただけですよ」

「奇遇だね、ボクも明日から新しいところで生活するんだ」

「の割にはあまり緊張していないように見えますけど」

「ワクワクのほうが勝ってるからね」


 腕を後ろで組み、前かがみになりながら満面の笑みでそう答える女性。そしてその仕草に思わず新太は可愛いと思ってしまった。


(か、かわいっ。いやいやいや、待て待て私。敵か味方かもわからないのにそんなことを考えてどうする。落ち着こう、な?)


 新太が自分を宥めている間にも、女性は話し続ける。


「どんな人がいるんだろう、どんな関係を築けるんだろうって新鮮な気持ちでいっぱいになるんだ」

(くっ……生粋の陽キャだこれ。私とは住んでる世界が違いすぎる!)


 小中と、あまり人と関わらずに生きてきた新太にとっては、彼女の考えはあまりにも眩しすぎた。


「そのメンタルうらやまし……」

「もー、おねーさん!絶対楽しいことが待ってるから元気出して?」

「まあ、うん、そうですね。ナーバスになっても仕方ないですし、そう思うことにします」


 女性のポジティブさに影響されて、新太の心の中にもポジティブな考えが生まれだした。


「うんうんその調子!元気になってよかった」

「ありがとうございます」

「それじゃ、ボクはここらへんでさよならさせてもらうね。バイバーイ!」

「あ……行っちゃった」


 元気になった新太を見て満足したのか、女性は手を振りながら走って行ってしまった。


(嵐みたいな人だったなぁ。……にしても黒髪ロング眼鏡ボクっ娘なんて存在したんだ。それに安心したら眠くなってきた。よし寝よう)


 謎の女性の、属性の多さに若干驚愕しつつも、吹っ切れた新太は、睡魔に従って帰路についた。




 ▢




 いつもの目覚ましの音が朝を告げる。目覚ましを止め、新太は体を起こす。すでに日常となっていた朝の支度を終え、制服に身を通す。黒と赤を基調とした制服は威厳を感じるデザインとなっている。


「あ、忘れてた」


 最後に、聖遺物を鞄に入れたら準備完了。職員室に寄らないといけないので、少し時間は早いが、新太は家を出ることにした。

 学校は新太の家から徒歩15分ほどの位置にある。ここに来たばかりの頃は15分歩いただけでへとへとになっていたが、特訓で力を付けた今の彼女にとっては特に苦も無く、あっという間に着いてしまった。


「えーっと、職員室は……」


 校内マップと照らし合わせながら、ほとんど生徒のいない校舎を歩いていく。普通の設備に加え、騎士の養成学校らしい専門の設備もたくさんあり、なかなかの広さになっている。


 「し、失礼しまーす」


 数分歩いて、目的の部屋にたどり着いた新太は、遠慮がちに扉を開ける。そこにいたのは、教師陣と思われる人たちと、一際存在感を放つ金髪の男がいた。


 「お、来たね」


入ってきたことに気づいた金髪の男が、新太の元へと歩いてくる。


 「リーアたちから話は聞いているよ。僕の名前はアーサー。君と同じ王の1人さ」


彼こそがこの学校における、新太と同じ例外。『騎士王』アーサー。騎士団を束ねる円卓最強と名高い男だ。温和な雰囲気をしているが侮るなかれ。リーア曰く、「私の演算にフィジカルで追いついてくる化け物」とのこと。

 円卓の王のほとんどを手玉に取るリーアにそう言わせるほどの実力を持つ男。そんな彼に、新太はなぜか親近感を感じていた。


「巾凪新太です。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく」


 そこからは、この学校の校則や設備、教師陣の紹介やどのような授業があるのかなどをアーサーが新太に説明した。


「―――という感じだね。大まかには理解できたかい?」

「ええ、なんとか」

「さすがはリーアの弟子だ。理解が速くて助かる。それじゃ、教室まで向かおうか」


 用事を済ませたアーサーは、新太を連れて教室へと向かう。いつの間にか授業開始時刻になっていたらしく、他の教室にはたくさんの生徒が和気あいあいとしているのが見える。


「そうそう、実はもう1人編入生がいるんだ」

「へえ、どんな人なんですか?」

「うーんと、確か黒色の長髪に眼鏡をかけていたよ」

(あれ?それって……いやいやまっさかぁ)


 見覚えのある特徴に、新太はとある人物が思い浮かぶ。しかし、ここは騎士を目指す者達が通う場所である。それにリーアから自分以外の王はいないと言われているし、ありえないと彼女は自分の馬鹿げた考えを一蹴する。


「着いたよ。ここがこれから君が授業を受ける教室だ」


 『1-1』と書かれた教室の扉を開け、アーサーは新太を連れて中に入っていく。特徴的な生徒たちが、教室に足を踏み入れた新太に注視しだす。開いている席に座る前に、新太は教壇に立つ必要がある。自己紹介だ。黒板に名前を書き、彼女は生徒たちに向き直る。


「こちらは、今日から新しくこのクラスの一員となる新太だ。自己紹介をどうぞ」

「えーっと、巾凪新太です。趣味はゲームや読書です。わからないことだらけだと思うので、教えてくれたら嬉しいです。よろしくお願いします」


 これと言って特徴のない自己紹介が終わると、教室中から拍手の音が聞こえてきだした。


「よろしくー!」

「わかんないことあったら聞いてねー!」

(よ、よかった……みんな良い人そう。これなら陰の者であっても何とかなる!)


 ボッチ回避はできそうだと新太が安堵していると、廊下から誰かが走る音が聞こえてきた。


「すみませーん!遅れました!」


 大声で謝罪しながら、とある生徒が教室に入ってくる。他の生徒がきょとんとしているということは、件のもう1人の編入生だろうか。そう思った新太は、どのような人かを確認するためにその生徒の容姿を観察する。


「…………まじかぁ」


 例の生徒の顔を見た途端、新太は苦笑がこぼれた。遅刻してきた生徒は、見覚えのある髪に見覚えのある眼鏡。そして見覚えのありすぎる顔をしていた。早朝に、散歩で会った女性だ。


「初日から遅刻してきた生徒は、さすがに初めてかな」

「すみませんすみません!えー、こほん。ボクは古野有栖ふるのありす。趣味は寝ること!趣味を優先しすぎて初日から遅刻してきたけど、素行が悪いとかじゃないので、安心してください。これからよろしく!」


 誤魔化すように自己紹介をした有栖は、先生の様子を見るために新太の方へと顔を向ける。


「あ、あのときの!新天地ってここだったんだ。奇遇だなぁ!」

「……そうだね」


 嬉しそうな有栖とは対照的に、心底嫌そうな顔をしている新太。

(状況を整理しよう。この人……有栖は王であり、この前は所属が分からなかった。でも今は違う。私以外の王は、この学校の生徒には居ないはずだし、居たらアーサーさんが気付くはず。現に有栖はエーテル総量や濃度を誤魔化している)


 つまり、これらの情報から導き出される結論は―――


(彼女は、敵だ。…………もう嫌!学校でも警戒しないといけないとかダルすぎるんですけど!!!)


 とはいえ、彼女がそうだという確たる証拠はない。なので、証拠が得られるまでは新太はクラスメイトを演じなければならない。


「よろしくね、えーっと、新太!」

「よ、よろしくね、有栖」


 元気いっぱいの有栖に対して、新太は引きつった笑みで答えたのだった。

 こうして、波乱しかないであろう学校生活が幕を開けたのだった。

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