第5話 ゴブリン討伐
翌朝。
俺は冒険者ギルドへ向かった。
昨日、遭遇したゴブリン。
あいつを倒せれば、もう少し稼げる。
そう思った。
けれど。
「その前に……」
武器が必要だ。
俺はギルドへ入ると、受付へ向かった。
「ゴブリン討伐の依頼を受けたいんですが」
「ゴブリン討伐ですね」
別の受付嬢が依頼書を確認する。
「武器はお持ちですか?」
「……ありません」
「防具は?」
「ありません」
受付嬢が少し困った顔をした。
「ゴブリンとはいえ、魔物です。素手で戦うのは危険ですよ」
「分かっています」
昨日。
実際にゴブリンと遭遇した。
戦闘ダイスを使えば、戦えたかもしれない。
でも。
出目が低ければ危険だった。
だから、俺は逃げた。
「なので、これから武器を買おうと思っています」
「それなら、ギルドの向かいに武器屋がありますよ」
「ありがとうございます」
「武器を買ったら、もう一度こちらへ来てください。そこで依頼を受けていただけます」
「分かりました」
俺は礼を言って、ギルドを出た。
◇
ギルドの向かいにある武器屋。
店内には、剣や槍、盾などが並んでいる。
「……高いな」
値札を見る。
安いものでも、それなりの金額だ。
薬草採取で稼いだとはいえ、まだ大した金額ではない。
それでも。
「これなら買えそうだ」
俺が手に取ったのは、短めの片手剣だった。
少し古い。
傷もある。
でも。
「使えればいいか」
値段も、今の俺なら手が届く。
「これください」
「毎度あり」
店主に金を渡す。
剣を受け取った。
「……重いな」
両手で持ってみる。
思っていたより、ずっと重い。
「これを振り回すのか……」
でも。
武器があるだけで、昨日までとは違う。
俺は剣を腰に差した。
「よし」
これで戦える。
◇
俺は再びギルドへ戻った。
「武器、買ってきました」
「確認しました」
受付嬢が頷く。
「では、ゴブリン討伐の依頼を受けていただけます」
「お願いします」
依頼を受ける。
俺はギルドを出た。
向かう場所は決まっている。
昨日、ゴブリンを見かけた場所だ。
◇
街を出る。
昨日と同じ道を歩いていく。
「いるかな……」
周囲を警戒する。
しばらく歩いていると。
「……いた」
前方にゴブリンが一匹。
昨日と同じように、棍棒を持っている。
「……」
ゴブリンも俺に気づいた。
こちらへ向かってくる。
「来るか……」
俺は剣を抜いた。
心臓が早くなる。
昨日までは逃げるしかなかった。
でも。
今日は違う。
武器がある。
それに。
昨日よりステータスも上がっている。
「……やるしかない」
ゴブリンが棍棒を振り上げる。
「うおっ!」
俺は横へ飛んだ。
棍棒が地面を叩く。
ドンッ!
「危なっ……」
俺は距離を取る。
そして。
「せいっ!」
剣を振る。
ガキッ!
「……硬い!」
浅く傷がついただけだった。
ゴブリンが怒ったように叫ぶ。
「ギャッ!」
再び棍棒が飛んでくる。
「くっ!」
俺は必死に避ける。
剣を振る。
避ける。
また振る。
「はぁ……はぁ……」
思ったより、ずっときつい。
剣を持っているだけでは、簡単には勝てない。
それでも。
何度も剣を振った。
ゴブリンの攻撃を避ける。
剣を振る。
また避ける。
少しずつ。
少しずつ。
ゴブリンの動きが鈍くなっていく。
「これで……!」
俺は力いっぱい剣を振り下ろした。
ザンッ!
ゴブリンが倒れた。
「……」
しばらく動けなかった。
「……倒した?」
ゴブリンは動かない。
「……勝った」
俺はその場に座り込んだ。
「はぁ……」
怖かった。
疲れた。
でも。
「俺でも……倒せたんだ」
昨日は逃げた相手だ。
それを今日は。
自分の力で倒した。
◇
そのときだった。
目の前に文字が浮かんだ。
【レベルが上がりました】
「……え?」
続いて。
【レベル】1 → 2
「レベルが……上がった」
俺は自分のステータスを確認する。
【名前】カイ
【職業】ギャンブラー
【レベル】2
【HP】50
【MP】30
【攻撃力】30
【防御力】30
【魔力】30
【素早さ】30
【運】40
「……」
数字を見つめる。
全部、2ずつ上がっている。
「これが……ギャンブラーの成長か」
一般的な職業なら、レベルアップでもっと能力が上がる。
でも。
ギャンブラーは、その半分程度。
「本当に少ないな……」
それでも。
レベル1から2になった。
昨日より確実に強くなっている。
「まあ、いいか」
俺はステータスを閉じた。
そのときだった。
目の前に、別の表示が浮かんだ。
【イカサマ】
【発動】
「……?」
俺が何かする前に。
さらに文字が表示される。
【謎肉を獲得しました】
「……」
俺は無言で表示を見つめた。
「……何の肉だよ」
手元を見る。
そこには、よく分からない肉があった。
「……」
俺はしばらく眺める。
「食べられるのか?」
そもそも。
何の肉なのかも分からない。
俺にはどうしようもなかった。
「……これが【イカサマ】か」
説明では、魔物を倒したときに一定確率でアイテムをランダムに獲得する。
成功確率は十%。
「まさか、本当に発動するとはな……」
俺は謎肉を見つめる。
「これは……売れるのか?」
とりあえず。
食べるのはやめておこう。
◇
今日は。
昨日逃げたゴブリンを倒した。
レベルも上がった。
武器も手に入れた。
そして。
よく分からない肉まで手に入った。
「……冒険者って、大変だな」
俺は謎肉を袋に入れ、剣を握り直した。
そのとき。
ふと気づいた。
「……そういえば」
今日はまだ。
【戦闘ダイス】を使っていない。
昨日なら。
ゴブリンを見た瞬間に、戦闘ダイスを使うか逃げるかで迷っていた。
でも。
今日は違った。
武器を手に入れた。
ステータスも上がった。
そして。
自分の力だけでゴブリンを倒した。
「戦闘ダイスを使うまでもなかったな」
そう思うと。
少しだけ嬉しくなった。
もちろん。
今回の相手はゴブリン一匹だ。
もっと強い魔物が相手なら、戦闘ダイスに頼ることもあるだろう。
それでも。
昨日まで逃げていた相手を。
今日は自分の力で倒せた。
「……少しは強くなってるんだな」
俺はそう呟いた。
◇
町へ戻る。
今日は、もう十分だ。
けれど。
まだ一つ残っている。
「……そうだった」
俺には【ステータスダイス】がある。
そして。
今日はまだ振っていない。
俺は家へ戻る。
「【ステータスダイス】」
目の前に。
二十面のダイスが現れる。
いつものダイス。
そう思った。
けれど。
「……ん?」
何かがおかしい。
ダイスの横に、見慣れない表示が浮かんでいた。
【出目範囲:3~22】
「……3?」
俺は表示を見つめる。
「昨日までは……」
1から20だったはずだ。
それが。
今は。
「3から22……?」
俺は自分のステータスを見る。
運。
【運】40
「……運が40になったからか?」
昨日、ステータスダイスで15が出た。
その結果。
運は23から38になった。
そして。
今日、レベルアップで2上がった。
運40。
もしかすると。
「運が上がると……ダイスの出目も変わるのか」
まだ確信はない。
でも。
昨日までより、最低値が高くなっている。
それだけは間違いない。
「……面白いな」
俺はダイスを見つめる。
今日の出目は。
3から22。
なら。
「今日こそ、いい目を出してくれよ」
俺はダイスを振った。
コロコロ。
コロコロ。
二十面のダイスが、床の上を転がる。
そして。
止まった。
【出目:12】
「……12」
思わず笑ってしまう。
昨日の15には届かなかった。
でも。
12なら十分だ。
俺はステータスを確認する。
【名前】カイ
【職業】ギャンブラー
【レベル】2
【HP】62
【MP】42
【攻撃力】42
【防御力】42
【魔力】42
【素早さ】42
【運】52
「……また、一気に上がった」
全部12。
そして。
運は52。
ということは。
「次は……」
俺はダイスを見る。
もしかすると。
次はさらに最低値が上がるのかもしれない。
「……毎日振るだけで、どんどん強くなっていく」
最初は。
【ギャンブラー】なんて、外れ職業だと思っていた。
でも。
まだ始まったばかりだ。
俺はダイスを見つめた。
「……この職業、案外面白いかもしれないな」
俺は笑った。
そして。
今日も一歩。
強くなった。




