商会を作ろう
『恋デレ』――正式名称『恋きゅん♡皇都シンデレラ物語』は、いわゆる乙女ゲームにあたる。
皇都学園に入学した主人公『サクラ』が、皇子や貴族令息を恋愛的に攻略していき、幸せになるまでを描いた物語だ。
攻略に必要なのは錬金術の知識と――プレイヤー的にはミニゲームだが、実際の世界なら高い技術。
サクラは皇都学園に入学するほどの学力を持つ、薬師として優れた人物であらねばならない。
いずれはあの店で会えると踏んでいたが、まさかすでに皇都に来ていたとは思わなかった。
「教会に献金しよう」
俺は寮の部屋で祈りを終えて呟いた。
夕刻。
リヴがガタガタと音を立てながら教会用セットを片付ける。俺は鋭く指摘した。
「神像を丁重に扱え」
「教会に行かれればよろしいのでは?」
「出禁なんだよ。知ってるだろ」
「自業自得かと」
俺は目許を片手で覆って俯く。ステンドグラス風ライトの灯りが視界をゆらゆらと神秘的に揺らした。
そう。俺は教会出入り禁止の身なのだ。
過去の俺は愚かなことに神を信じず、公爵家領地内の教会にほんの少しの戯れで火を放ったのだ。
あのとき失われた薔薇窓や神像がどれだけ崇高で価値あるものだったか、神の慈悲を受けた今なら分かる。
「だから、献金する」
俺は胸に手を当てて宣言した。
召使がふと灯りを消す。部屋の中に差し込む西日が俺たちの表情を仄明るく照らし出してくれた。
「どうなさるおつもりで?」
翌日。
俺たちは最愛の友人と個室で昼食を取っていた。
小さな弁当を一生懸命口に運びながらペネロペは頷く。
「商会を作るおつもりで!」
「そうだ。手伝ってくれ」
「そうですねえ……」
少女は黄色い目をぴかぴか光らせながら何か考えるような、巧妙な仕草を取った。
パッと顔を上げて人懐っこい笑みを浮かべる。その目には隠し切れない野心が宿っていた。
「報酬はいかほど?」
「好きなポストを」
「資金は?」
「俺が出す」
「拠点は?」
「そこの商売地区に店がある」
「商品は?」
「薬品。一年前から市場に卸し始めた。品数はこれから揃えていく予定だ」
「ヤッター!」
ペネロペは弁当を持ってぴょんと飛び跳ねた。
満足いったようだ。
「商会のお名前は?」
「君が決めていい。将来的にその商会の名前で教会に献金するつもりだから、冒涜的でないものにしてくれ」
「分かりました!」
「清廉で、神を称えるのにふさわしいものに」
「承知です!」
元気な返事をしながら友人はメモを取る。なんて仕事のできる友人だろう。
俺は感動した。やっぱりこういうとき頼れるのは友情だ。
金という揺るぎない縁が俺たちを繋いでくれている。
俺はその輪をもっと光で照らすために、懐から小瓶を取り出した。
銀色の薬剤がちゃぷりとガラス越しに揺れる。
「ところで、いい話があるんだが」




