新型万能薬を売ろう
新型万能薬シープシャンクについてザッと説明すると、ペネロペは一つ頷き、声を潜めて言った。
「脱法エリクサーですね」
「いや。新型万能薬シープシャンクだ」
俺は首を振り断言する。
実際のところ、エリクサーを飲んだときとは明らかに感覚が違うのだ。健康的に言えば強めのコーヒーがそれにあたるだろうか。
しかしペネロペは怪訝顔だ。
「製造許可は下りたんですか?」
「まだ私的利用の範囲内だからな」
「販売なさるおつもりなら、将来的に許可は必須のはずですが」
俺はペネロペの黄色い瞳を覗き込んで微笑んだ。視線の奥には商売人特有の警戒心が砂金のように細かく光っていた。それが気に入ってこの少女と友情を結ぼうと思ったのだ。
「許可せざるを得ない状況にするのさ」
左右の指を組みながら記憶を辿り、話を始める。
「昔の友人が教えてくれたことなんだが、俺も手伝ったことがあってね。まず友人を増やすだろ。7人から始めようか。その7人の選ばれた友人たちに無償で薬を与えるんだ。それをしばらく続ける。シープシャンクは魔法の薬。建前として秘密にはするが、口を閉ざせば閉ざすほど噂は止められなくなるんだよ。優越感に飢えてる奴がいるといいな。ソイツが薬を流してくれる。すぐにどんどん溢れて止められなくなるよ。そして」
バチンッと合わせた手をまた開いて、中を見た。そこには空っぽの掌があるだけだ。
「供給を止める」
「はあ」
「何事もスピードが大事なんだ。レシピが流れたらすぐに複製できるからな」
「そうですねえ」
ペネロペは曖昧に相槌を打つ。彼女にしては曇った、奇妙な表情をしていた。
市場に迷い込んだ林檎売りの子どもの話を見るような目をして、一つ頷く。
「ちょっとシナリオが合ってませんね」
「シナリオ?」
聞き返すと、彼女は困った顔をして、ポケットからメモ帳とペンを取り出すとサラサラと図を描き始める。
簡易的なピラミッド図だ。頂点に丸をつけ、
「この国の最高地位にあたる人々が通うのが皇都学園です。それで今のお話は、ここ」
下の方を大きく囲んだ。深刻な事態。俺は息を吸って、止める。
「通用しないか」
「想定が庶民的すぎるって話です」
ペネロペの指摘は至って明快だった。
「シープシャンク、貴重な薬ですよね。もはや革命的です。無償で分け与えていいレベルじゃありません」
「販売するには許可が必要じゃないのか?」
「皇都学園には特例があるんです。まず……」
彼女は細い指を一つ一つ折りながら懇切丁寧に説明してくれる。
特例として、学園内に限れば国の許可なしで『部活動の成果物』を販売できること。
部活動を始めるには部員が5人以上と、顧問が必要なこと。
「人を揃えれば売れるのか」
「秘密主義サークルにすることになると思いますけど、大体はそうですかねえ」
「商売は君に任せる。人を揃えるところまでは俺に任せてくれ」
ペネロペはまた怪訝そうに、少し遠慮がちに声を上げた。
「まさかご自身で?」
「もちろん」
「ついこの間死刑宣告されたばかりじゃないですか」
「許していただけたじゃないか」
「二度目はありませんよ……まさか」
「そうだよ」
商売人の嗅覚は敏感だ。
ペネロペはもはや隠しもせず俺の言葉を警戒している。
俺は両手を広げた。友好の証だ。
「第二皇子殿下を勧誘する」
少女はとうとう片手で顔を覆い、腹の底からため息を吐いたらしかった。




