更生しよう
三日後。
俺は皇子殿下の前で『第二皇子万歳』と書かれたタスキをかけて深く頭を垂れていた。
「御慈悲に感謝します」
教室の席で板書をまとめながら、第二皇子はこちらをちらとも見ずに問いかける。
「あの薬は何だ?」
「新しく開発した薬の一つでございます。お身体に合ったようで何よりです」
「そうか」
少しあって、深いため息が聞こえた。
「学園内では身分のことは不問。以降は生徒間としての礼儀を弁えて話すように」
「承知しました」
俺は深く頭を下げる。
死は免れたらしい。免れなければ困るというものだ。
リヴに贈らせたのは『恋デレ』の第二皇子攻略用ポーションを改良したものだ。
睡眠障害故に皇位継承権すら危ういとされる第二皇子の実状を知った主人公。
心優しい彼女は甲斐甲斐しく第二皇子の世話をする中であるポーションのレシピを発見する――
それが今回の作品のプロトタイプだった。
試作品からいくつか改良し、即効性をプラスしたものだ。
俺だってこんな簡単に差し出したくなかったが、出し渋って取り入ることができるほど簡単な話ではなかった。医者でもないくせに変な親切心を出して行動療法から提案しようとして死にかけたという訳だ。最初から専門分野で解決すればよかった。
人生そう甘くないらしい。勤め人だった前世の記憶が蘇る。
両手を揉みながら第二皇子に笑顔を向けた。
「お贈りしたものは今後も使いの者を通じて届けさせますので……」
「そうしろ」
にべもない。嫌われたようだ。
面のいい心優しき女子であれば違っただろうが、俺は悪評高きトマス=アクイナクスだ。仕方ない。
まぁ俺の薬なしではまともに授業すら受けられない身体なのは確かなので、全体的にはプラスだろう。
主人公が来ても俺の薬の方が即効性もしっかりあるわけで……
そこまで考えてからはて、と思考を逸らす。
主人公、本当に来るだろうか。
『恋デレ』の主人公『サクラ』は一年後に入学してくる平民の女子だ。
レシピを知ったからと言ってすぐに効果のある薬を作れるような才能ある若者は少ない。
リヴに言って探させているが、皇都にはそれらしき薬師はいないようだ。
珍しい名前だからすぐ見つかると思ったのだが、どう思い出しても故郷に関する言及が原作にはなかった。
だから、俺は薄々来ないかもしれないと思っていた。来ない方が都合もいい。
そうであってくれないかな。と俺は席に着きながら儚い思いを胸にしまう。
俺の憂いを帯びた横顔を見て、隣の生徒が気味悪そうに席をずらした。
俺は平和主義なのでソイツの顔と名前を覚え、脳内の殺すノートに記載してことを終わりにする。
これは前世から変わらないことだ。
俺は更生した。




