死刑
「次の薬が決まったぞ」
「左様でございますか」
寮の部屋に荷物を解きながら、リヴは顔も上げずに答えた。自分の実験道具などを丁寧に片付けている。
彼も学園に通う一生徒で、俺と同室だ。結構金も払った。
「それでなんだが――」
俺は備え付けの椅子に腰を下ろして話の続きを始める。
反応としてはいつも通りで、俺たちは早速実験に取り掛かった。
翌日、俺は太鼓持ちをしていた。
「ネロ様! お荷物をこちらに置かれませんか?」
「ネロ様! 授業のペアを俺といかがでしょうか?」
「ネロ様! 板書を取っておきましたよ」
教室の喧騒の中、第二皇子に板書を見せる。
第二皇子は鬱陶しそうにそれを跳ねのけると、俺を睨みつけた。
「いい加減にしろ。何の用だ」
俺は床に落ちた筆記具を拾い、笑顔を向ける。
「皇子殿下のサポートにあたりたくて」
「サポート?」
「はい」
第二皇子は怪訝な顔を向ける。俺は板書をめくって、簡易的なスケジュール表を示した。
「部屋を一つ買い取りました。昼休みは昼寝に充てましょう」
「は」
「ネロ様のスケジュールは今後俺が調整します。俺は医学については専門外ですが知り合いから聞いたことがあるんです。ナルコレプシーは日中間の適度な休息も大事ですからね。薬物療法の前にひとまずは規則的な生活をしていくのがいいでしょう」
「お前」
「授業についても調整が必要ですね。座学は起きていらっしゃるときに俺がまとめてご説明しますから、実技の授業を中心に参加されるのがいいかと思われます。俺が教授たちを説得してきますよ」
どうですか、と両手を広げる俺を、第二皇子は形のいい人差し指でまっすぐ指した。
「死刑」
俺は護衛にひっ捕らえられた。
「これ俺が悪いの?」
学園の地下牢の中で、俺はさめざめと泣きながらリヴに事の全てを話した。
リヴは深く頷く。
「悪いかと」
「俺はナルコレプシーの一般的な対処法を伝えただけだが?」
「ナルコレプシー、が何かは存じ上げませんが、デリカシーがないかと」
ナルコレプシーというのは睡眠障害の一種だ。
この世界では知られていない病で、日中酷い眠気に襲われるなど複雑な症状がある。らしい。
詳しいことは俺も知らない。知らないのに口を出したので、
「俺デリカシーの話で死ぬの?」
「死ぬかと」
召使は淡々と答えた。死ぬらしい。
俺はカウンセラーってタイプじゃないし、前世の医者でもない一般人の記憶が蘇ったところで第二皇子殿下の睡眠障害を治すためには何の助けにもならない訳だ。
「仕方ない、か」
俺は舌打ちすると、握りしめていた鉄格子から手を離した。錆びた匂いが強い。
「殿下にプレゼントを」
リヴは頷いた。
「承知しました」




