学園に入学しよう
金は手に入った。そこからは省略する。
業務に追われるだけの退屈な話だし、機密事項も多いからだ。人に言うことでもない。
めぼしい成果と言えば、皇都の商売地区に小さな物件を購入したぐらいだろうか。あといくつかポーションも含めて小さな薬を市場に卸し始めたこと。
商売はまあまあな滑り出しを見せて、あっという間に皇都学園に入学する時期になった。
16歳の春だ。
入学式の朝。
身支度を済ませ、鏡の前に立つ。
黒髪に映える赤い瞳の、見慣れた姿だ。
アクイナクス家ではありふれた不健康そうな顔色をしているが前世の記憶からすると結構整った顔をしていると思う。
前世の自分がどういう顔をしていたのかは、よく思い出せなかった。
思い出さない方が幸せなのかもしれない。
ネクタイの位置を調整して、宙に手を出した。
「リヴ」
「こちらに」
リヴが手渡してきた銀色の薬瓶をぐいと煽る。
清涼な飲み心地と共に、頭がパッと冴え渡るような感触があった。
脳の奥でチカリとアイデアが閃く。俺はふと口元を緩めた。
「シープシャンク。どう思う?」
リヴは頭を垂れて答えた。
「ご学友を作られるのがよろしいかと」
悪評高いとはいえ公爵家長男。噂を流せば誰もが寄ってくるだろう。
成績によって今後の一生が左右される学園の中で、シープシャンクの効能は垂涎ものだ。
飲めば飲むほど強くなれる夢の薬。まさに環境破壊アイテム!
「教授に売るのはどうだ?」
「リスクが高すぎます」
「だろうな」
明朗なやり取りは俺たちの長い関係が作り上げた取り柄の一つだった。
「魔塔は?」
魔塔というのは、皇国の魔術機関の中枢にあたる組織だ。
基本的に秘密主義で、そのコミュニティにアクセスする方法すら定かではない。
リヴは口を噤み、少し考えていたようだったが、ややして顔を上げた。
「エリクサーと同一視されるでしょう」
「そうだ。それがあっちゃいけないな」
エリクサーと同一視されれば法規制は免れない。
俺は笑みを浮かべ、空き瓶をリヴに手渡す。
「俺たちが売るのは新型万能薬。シープシャンクだ」




