家族との朝食
翌朝。朝食の時間。
廊下を歩く。視界に入った召使共が慌てて頭を垂れるのが見えた。
冷や汗でびしょ濡れになった元俺付きの召使が両開きの扉を開ける。俺は中に立ち入った。
「父上、母上、ごきげんよう」
四人の目がこちらに吸い寄せられる。八つの赤い瞳。
「まぁ……トマスなの? 無事だったのね!」
最初に芝居がかった口を開いたのは母上だった。ヴェルディア=アクイナクス。絵画のように美しい女。
「ええ。おかげさまで」
「トマス、なんて優しくてかわいい我が子!」
彼女は目に涙を浮かべているが、グラスを片手に離しもせず、血色はずいぶんいい。日ごろから悪評続きの俺を疎んでいたから、俺が死んだと思って毎日大好きな酒でも飲んでいたんだろう。
「お兄様、ずいぶんお元気そうですね。ご病気は嘘でしたの?」
反面、刺々しい笑顔を隠しもしないのは妹のリリアだ。ふわりとウェーブがかった黒髪が麗しいが、性格は俺と変わらない毒蛇。
隣で深刻そうな顔して黙りこくっている弟がロバートだ。これが我が家にしては異常なほど大人しい奴で、俺はかねてよりいつか弟が暗黒魔術か何かをやらかして神聖冒涜罪で逮捕されると思っていた。同年代の友人にも馴染めないようだし。
もちろん客観的に考えてみると、ロバートは人畜無害な弟だ。コイツもアクイナクス家に生まれたことは一生後悔するだろうが、俺が客観的に排除する理由はない。
俺は空席だった自分の席に腰かけると、可哀想な弟に話しかけてやる。
「ロバートも。しばらく会えなくて悪かったな」
「あ、兄上。ご機嫌麗しゅう」
声の端が震えている。自分の行いを思い返してみると、俺は弟にしょっちゅう罵詈雑言を浴びせていた気がする。客観的に見ると非常によくない状態だ。俺の将来に関わる。
心なしか怯えて見える弟の前で十字を切って見せた。
「病にかかってから神の啓示を受けてな。自分自身を振り返ってみたんだ。お前にも悪いことをしたと思ってるよ」
「兄上」
弟が顔を上げる。ほろりと涙まで流しそうな表情だ。俺は気分が良くなって、ニコリと笑った。
「俺の召使は元気か?」
ロバートは真っ青になった。バッドコミュニケーション。
「いい加減にしろ。トマス」
「父上」
重苦しい声に笑顔を返す。父上は瞳を深い憂鬱に沈ませながらため息を吐いた。問題のある家庭環境を持つ人は大変だ。
この人こそアクイナクス公爵家の当主。皇国随一の魔法師、ドナルド=アクイナクスである。
「お前が突然食事の席に現れるのは話があるときだ。何の話で来た?」
「よくお分かりで!」
俺は手を打つ。父上は諦観を含んだ目で俺を見つめた。
「お前の奴隷と召使を皆殺しにするか? 処刑と狩りのための森が必要か?」
他の人から自分の過去の行いを提示されると結構しっかり『悪業』という感じがするものだ。だが俺は生まれ変わった。しっかりと首を横に振る。
「いいえ、俺はもう、神に誓ってそんな無益なことはしません」
「では何だ?」
「商売を始めたくて。資金を援助してください」
父上は今度こそ腹の底からため息を吐いたらしかった。
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