新型万能薬シープシャンクを作ろう
実のところ『恋デレ』にもエリクサーという名のアイテムは存在する。
状態異常・体力魔力全回復。全ステータスに+10。経験値ボーナスつき。
その性能は留まることを知らず、ちょっとした科学のコツと錬金術系の知識さえあれば製造可能なのだ。
錬金術は科学だ。
そして俺は全レシピを暗記している。
材料を集めるのも公爵家の薬庫と財力さえあれば訳ないこと。
製造は成功した。
公爵家には高度な実験室がある。
普段はリヴにしか使わせていなかったが、今日は俺が使う番だ。
ゴポゴポと銀色の泡がフラスコの底で弾けている。
「意外と簡単だったな」
俺は火を止めると、溶けた銀のようにとろりと光る原液を瓶に移した。
このまま冷やして希釈すれば薬瓶一〇本分になる。
熱病から復帰して二四時間ほど実験室に引きこもった結果、俺たちは最終的な薬品の製造に成功した。
「しかしご主人様」
リヴが薬品を調合しながら呟いた。
コイツは本当に仕事のできる奴で、よく喋る割に手を止めるということを知らない。
「何だ?」
「許可のないエリクサーの製造・販売は違法ですが」
「エリクサーじゃない。『新型万能薬シープシャンク』だ」
俺は答えた。嘘じゃない。実際エリクサーは金色だが、作ってみると銀色の薬になった訳だし。
それでも死病のラットに飲ませたら元気になったし、元気なラットに飲ませてもそこそこ活発になった。いい兆候だ。
「大体、俺が飲む薬を作って何が悪いんだ?」
「左様で」
リヴは緑色の瞳に炎の揺れる影を映しながら、ちらりと俺の手元を見た。俺は黙って乾かした薬草を砕く。パリパリとした感触が心地よい。
俺は前世の頃から薬作りが好きだった。今世ではここ数年やっていなかったが、今からでも遅くないだろう。
「流石のお点前です」
「そうでもない。腕が鈍ったな」
「ご主人様が錬金術に再び目を向けてくださり、嬉しく思います」
リヴは目を伏せた。そういえば昔はコイツと色々実験やってたんだっけ、と思い出す。自分には才能がないと思って辞めてしまったのだ。継続すれば新しい研究ができていたかもしれないのに、愚かだった。
砕いた薬草を鍋に振り入れながら、ため息を吐く。
「お前のおかげだよ。リヴ。ありがとう」
薬草の欠片が鍋の底に沈んでいく。乳兄弟は一瞬の間黙っていたが、すぐに薄い笑い声を漏らした。
「わたくしにありがとうとおっしゃったのは五年ぶりでございます」
彼にしては珍しい冗談だった。それが面白くて、俺も少し笑った。
完成した薬品を自室の金庫に運び込み、泥のように眠った。
仕事の後の睡眠はここ数年のどんな眠りよりも達成感に満ちていて、清々しかった。




