廉価版を作ろう
廉価版シープシャンクの製作は順調に進み、ある暑い夏の日に完成した。
部室の実験机の上に完成品が数種類並べられてぴかぴか光っている。
俺はこの期に及んでまだこの成果物を信じられないでいた。
「一時的なバフの効果程度で本当に問題ないのか?」
「君は心配しすぎだ。商業的なことはペネロペ嬢に任せておけばいいだろう」
「そうですよ! 大体、一時的じゃないと健全なリピーターがつきません!」
ペネロペが黄色い瞳を野心に輝かせる。実際、完成した廉価版は都合が良すぎるほどの出来だった。飲めばそこそこのバフがつき、副作用も少なく、服用を止めればすぐ元の状態に戻る。理想的な薬だ。
だがこの程度で客が来るだろうか?
すでにペネロペによって噂は回っている。回っているし概ね順調だが……
「もっと効果を盛った方がいいんじゃないか」
「はいはい。君の理想が高いのは分かったよ」
「お前俺への対応が雑じゃないか?」
「君の心配性に付き合うのが何カ月目だと思ってるんだ? 早く解放してくれ」
アルベルトは投げやりにひらひらと手を振った。聖人にしては珍しい疲れた仕草で、彼の仕事量を踏まえると当然なのかもしれなかった。
俺たちはここのところほとんど寝ずに作業していて、ようやっと完成品が手元に並んだところなのだ。
シープシャンクを常飲している俺は問題なかったが、助手を務めていたアルベルトと効能の把握に努めていたペネロペは疲弊していた。ちなみに第二皇子殿下を一連の実験に参加させることは虐待行為にあたる可能性があったため叶わなかった。
つきっきりで実験にあたっていた教授は完成品を目視した瞬間その場に倒れて起きないし、異変がないのはリヴぐらいのものだ。リヴは要領のいい男で、こういうときパフォーマンスが落ちない。
目の下を黒くしたペネロペが徹夜明けのテンション感で両手を上に突き出す。
「とにかく! これを文化祭で売り出しますから! 量産の準備に取り掛かってくださいね!」
文化祭。
皇都学園の文化祭は国内外の一般市民にも公開される大規模な祭りだ。
1~3年生や教授陣の出店が学園中に並び、官僚や商会、報道機関が青田買いのために目を皿にして原石を探し回っている。
ここで成果を打ち立てれば出世コース間違いなしのイベントなのだ。どの団体も気合が入っている。
3年のホラーハウスはすでに予約サイトが立ち上がっているし、1年のレストランは食材として寮で大型の深海魚を飼育している。
俺たちの部活はそこで廉価版シープシャンクを売り出すことに決めた。
廉価版が売れて認可が下りればオリジナルの許可も速やかに取りやすくなる。
文化祭で成功するまでが俺たちのチュートリアルだ。
俺はにこやかに両手を広げる。
「それで、量産作業のマニュアルは誰が作るんだ?」
全員が俺を見たので、俺は軽く肩を竦めた。




