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悪役がエリクサーで覚醒する話  作者: 小林
皇都学園 二年生編
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お茶会に行こう

「まあ、1ヵ月も地下牢に?」

「そうなんです。俺は悪いことなんて何もしていないのに……」

「可哀想なトマス様。こちらにいらして」


白い手に招かれて俺は席を立ち、ロザリア嬢の隣に跪いて落ち着いた。

金糸の髪が目の高さで揺れる。高地にしか咲かない花の香りが鼻先を掠めた。

ひやりと冷たい指先が柔らかく俺の頬を撫でる。


「問題を解決されたのですね」

「はい。もうあなたの身を脅かすものはありません」

「次の休みは卒業式の日に殺すための奴隷を選びに行きましょう」

「ああ、ロザリア嬢! 神が許せば――」

「貴族社会の男女っていっつもああいう感じなんですか?」

「同じにしないでくれ」


ペネロペとアルベルトの声が外野からうっすら聞こえてくる。

今日はお茶会だ。部活の学生と教授を交えて休憩である。

俺はロザリア嬢を椅子から抱え上げてクルクル回った。きらきらと星の舞うような笑い声が耳元で響く。


「ふふ、本当はどうなるはずだったのですか?」

「本当のところですか」

「もし成功していたら?」

「ええ、すべての男を虜にした彼女は受け取った贈り物で賢者の石を作るんです。そして」


『永遠の恋』を叶えた。

皇国のすべての存在が彼女に恋をし、その結末は語られない。


賢者の石とは錬金術師が求めてやまない物質のことである。

それを手に入れられればどんな願いも叶うと言われているのだ。

『サクラ』はそれを錬成することに成功するのだろう。


「大変ですね。止めなくてはならなかったのですね」


腕の中でロザリア嬢は藤色の目を細めた。

俺は彼女を元の椅子に下ろしながらニコリと笑いかける。


「これで解決です。ハッピーエンド」

「素敵」


コロコロ笑う令嬢は影の中で煌めいて見えた。

このひとこそ俺の幸福である。

神からの恩寵について考え始めたところ――ペネロペが「ハイ」と横から手を挙げた。


「お話一段落したみたいなんでちょっとご報告しますね」

「忙しい。後にしてくれるか?」

「商会のことなんですけど、献金の準備が終わりました」

「今すぐ手続きを進めてくれ」

「分かりました」


教会への献金! ちょうど俺が望んでいたことだった。

破門されてから幾年が経ったが何事も遅いということはない。神は寛大だ。

俺はアルベルトの肩にポンと手を置く。


「そうだよな神父様」

「どういう思考を挟んで言ったのか知らないけどその呼び方止めてくれる?」

「イヤ何、お前の利他性を隣人として見習いたいと思ってね……」

「君本当にそういうこと言ってるの似合わないな」


親愛なる隣人は眉を顰めて俺を中傷した。構わず両手を広げる。


「そろそろシープシャンクも売り出そう。新型万能薬だ」

「あ……トマスくん、それについてなんだけど」


エルメス教授がおずおずと左手を挙げた。

控えめな性格の教授が学生間のやり取りに交じって発言するのは珍しいことだ。

俺はパチンと手を合わせて、彼に向き直る。


「何ですか?」

「え、えっとね」


教授はチラリと隣のアルベルトに視線をやった。

アルベルトが神妙な顔で頷くと、また不安げな目を俺に向けて、


「やっぱり、シ、シープシャンクの性能、落とせないかな……?」


言いづらそうに口にした。


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