聴取しよう
『恋デレ』のハーレムルートには厳しい条件が存在する。
その条件をクリアするためには全員の好感度を一定まで上げなくてはならない。
具体的には、一緒にお茶が飲めるぐらいの関係性だ。
「茶会に行ったんだろ」
「はい」
「どうだった?」
「それは……えっと」
「抽象的すぎたな。何を話した?」
リヴが紅茶を淹れる横で、俺はにこやかに問いかけた。
向かいの席にはロバートが座っている。愛すべき弟は眠たそうにぱしぱしと目を瞬かせた。
「家の話と、好きな魔法の話です。兄上が最近優しくなったと話したら、サクラは驚いたようでした。信じていないみたいでした。彼女が嘘だと言うので、僕も最近はそうなんじゃないかと思ってます。入学式でサクラを殺しかけたらしいし……でも、兄上が殺す気ならもうとっくに殺してるんじゃないかな」
「そうか。一応聞いておくが、好きな魔法は?」
「黒魔術です」
「サクラに話したのか」
「はい。大丈夫だって言ってくれました。黒魔術もいい方法に使えるはずだって……」
可哀想なロバートはうつらうつら言葉を落としていく。
黒魔術にいい方法も何もない。過去起きた事件の凄惨さから公的に禁じられた技術なのだ。摘発されれば破門では済まされない禁忌。騙されたんだよお前と言ってやりたいが、今言ってもどうせ覚えていないだろうから止めた。
今は、ロバートを捕まえて事情聴取しているところだ。
最初は怯えて話にならなかったが、ちょっと自白剤を投与したら落ち着いてすぐ話してくれたのでもう安心。
「茶会では何を飲んだ?」
「東部で作られた紅茶です。彼女が淹れてくれて……少し甘かったけど、珍しい味で美味しかった」
「お前、サクラを愛しているのか?」
「愛しています。彼女が僕のことを選ぶかどうかは分からないけど、僕は彼女のためなら何でもできるんです」
「いつから?」
「いつ、だろう」
「質問を変えようか。恋に落ちたのは?」
「茶会の日です」
「分かった。もう十分だ。リヴ。解放しろ」
リヴがロバートを縛り付けていた縄を解く。
「部屋に帰れ」と命令すると、弟はふらふら立ち上がって自分で部屋を出て行った。
ドアがパタンと閉じる。
俺は熱い紅茶を一口飲んだ。胃にゆっくりと液体が落ちていく感触。
事実としては、サクラが急速にハーレムを形成しつつあるということだ。
まだ完全に取り込まれていないのは第二皇子殿下とエルメス教授、隣国から来た留学生。
この留学生はもちろんただの生徒ではなく隣国の第四王子であるので、サクラが手を出せば外交問題に発展しかねない問題だった。危ないところで方策を立てられた。
ただ、すでに皇国主要部の子息たちが彼女の手にかかった以上、事は国難である。
「行くぞ」
「承知しました」
召使は目を伏せて答える。
ティーカップを置いて、俺は席を立った。
向かうべき場所は明らかだ。事は急を要する。




