謹慎しよう
俺は3週間の自室謹慎を食らった。
罪状は学園内における殺人未遂だ。冤罪だった。
「これ俺が悪いの?」
「悪いかと」
自室で薬品を調合しながらリヴに問いかける。彼はグリーンの目を伏せて薬草を千切りながら答えた。
「ずいぶんと事を急がれましたね」
「流石におかしかったからな。あの変わりよう……」
俺は手を止めずに、火の勢いを調整する。
自宅謹慎中にすることと言ったら研究実験しかないので、俺は殿下の薬を改良していた。
今は味をオレンジ味にしているところだ。
「調査した限りでは、彼女が本物のサクラであることに変わりないようです」
「貴族や不明な人物との繋がりは?」
「ございませんでした。ただ」
リヴはそこで一度言葉を切った。
包丁でトントンと花を刻みながら、ゆっくりと口を開く。
「入学3日前から自室に籠り、何やら一人で会話していたとの話がございました」
「情報は」
「彼女が当時住んでいた家の大家からです。現在は引き払い、寮で暮らしています」
「何か言っていなかったか」
トン、トン、とリズミカルに薬草が刻まれていく。淡い緑色の汁が滲んでいく。
召使は顔を上げずに、静かに答えた。
「『人が変わったようだった』と」
「怖すぎる……」
俺は詰めていた息を一気に吐き出した。怖すぎるのだ。
あの心優しいサクラが、たとえ殺されそうになったとしても魔法で人に危害を加えるなんてありえない。
先日の雷撃魔法、常人なら確実に殺す気で撃たないと出ない威力だった。
俺もシープシャンクを常飲していなければ死んでいただろう。
そんな威力の魔法を咄嗟に撃ったとすれば流石の主人公スペックである。
つまり、彼女は危険すぎるのだ。
「それで、魔法を使ったのはサクラなのにどうして俺が処分を受けているんだ?」
「信用かと」
親愛なる乳兄弟は簡潔に答えた。
俺がトマス=アクイナクスなので悪いのはたぶんこっちだろう、という訳だった。
ローマヴィア皇都学園の公平性を思って俺はほろりと涙を落とす。
「俺はオリジナルの自白剤で真実を明らかにしたかっただけだが?」
「十分かと」
リヴは薬草の汁を水に溶きながら端的に返した。
俺は憂鬱なため息を吐いて作業に戻る。今作った薬のレシピを記録に残さなくては。エルメス教授に反応を報告したい。
こうしていれば3週間もあっという間に過ぎるだろう。
研究の時間なんていくらあっても足りないのだから。
俺はこの休暇期間でロザリア嬢と文通したり、ペネロペに任せている商会の報告を受けたりして忙しく過ごしていた。
ので、問題が起きたことにはまったく気づいていなかったのだ。




