友達に相談しよう
婚約者にここ1年会っていない。
「何かいい言い訳がないかな?」
話を持ち掛けるとアルベルトはギョッとした顔で俺を見た。
「君、正気か?」
俺は両手で顔を覆う。自分が情けなかった。
「薬の研究に夢中だったんだ、神の啓示があって……人生が変わって……」
「一体どうしたら自分の婚約者をそんなに疎かにできるんだい」
「婚約破棄の話があったから破棄されたと思ってたんだ」
「それで済む話じゃないよ、ご家族は君に何も……ああ、そうか」
彼はそこでやっと俺がすでに家族から見放されているという公然の事実を思い出したようである。
哀れみの目を向けてくるアルベルトに対して本能的にちょっと理不尽な苛立ちを感じながら、俺は涙を拭う真似をした。
「お前なら何か知ってるだろ? 何か令嬢が喜びそうなもの……」
「流石に1年挨拶も手紙もなしでいたお詫びに合うものなんて分からないよ」
「俺たち友達だろ?」
「君は都合のいいときばっかり……そうだ」
親愛なる友人くんはジトッとした目を中空に彷徨わせると、パッとペネロペを見た。
「ペネロペ嬢はどう思う? 女性としての意見が聞きたいな」
「エッ私ですか?」
ペネロペはまだアルベルトと話すのに慣れていないようで、視線をややキョロキョロさせてからおずおず答える。
「そもそも、それほど重大なことなんですかあ? 忙しかったなら仕方ないと思いますけど……」
「大事だよ。公爵家同士の婚約関係はほぼ国力増強の政策の一つ。同盟に近いんだ。さらに」
アルベルトはちらりと俺を見ると、ため息交じりに話を続けた。
「高位貴族の間柄ならこちらから令嬢に連絡を取るのがマナー。それをこんな風にするなんて……」
「はあ、じゃあロザリア様は恥をかかされた状態と」
「婚約破棄されていないのが奇跡だよ」
「じゃあどうすればいいんだ? 過ぎたことを言って何になるんだ? 俺は今からの話をしたいんだよ、未来の話をしてくれ。どうしたら許してもらえると思う?」
「自業自得だ」
鋭い指摘。俺は両手を挙げた。降参だ。
ヒリつく空気の中、ウーン、と考えていた友人一号の彼女がポンと手を打つ。
「花束とかどうでしょうか!」
俺とアルベルトは顔を見合わせる。悪くない提案だった。
「花。アリか?」
「あるかもね。いっそ古典的だ」
「じゃあそれで行こう。ありがとうペネロペ。助かった」
ペネロペはニコッと笑うと席を立つ。飾り気の少ない機能的なスカートが揺れた。
「じゃあ私、ロザリア様のサロンに行く時間なので、失礼しますね!」
「ん?」
「え?」
「何ですか?」
彼女はキョトンとしている。
いかにも、えっ私なんかしちゃいましたか? って感じの顔だ。
黄色い瞳がこちらを風景みたいに見つめている。俺は速やかに決断した。
「連れて行ってくれ」
「サロンは女子限定なんですが」
「ひと月分の生活費を俺に請求していい」
「結構ですから、今後とも何卒よろしくお願いしたく……」
「約束する」
「ご案内させていただきます!」
ペネロペがその場でぴょんと跳ねる。
チャリン、とコインの音がした気がした。




