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悪役がエリクサーで覚醒する話  作者: 小林
皇都学園 一年生編
12/16

ライバルと友達になろう

教室の中心には誰がいる?

第二皇子殿下じゃない。彼はついこの間まで眠り姫だった。最近は金と権力の匂いを察した奴らが擦り寄ってきているようだが、殿下もまだ慣れていないようだ。じきに中心になるだろうけど。

俺とリヴは第二皇子の隣に陣取っているから中心には居ない。大体俺の周囲には第二皇子とリヴ以外誰も座らない。

ペネロペでもない。彼女は貴族の序列に従って隅の方に席を取り、魔術グラスで板書を取っている。

臆病な零細貴族でもない。じゃあ誰だ?


性格のいい奴だ。


「久しぶり、アルベルト」


俺は教室でソイツに声をかけた。周囲には俺とリヴのほかに誰も居ない。

目の前の白髪の男は反射的に振り返って、少し間があったが、すぐに聖人らしくオパール色の目も穏やかにニコリと微笑んでくださった。

アルベルト・マグナス。神学に造詣の深いマグナス侯爵家の長男である。

俺とは幼少期からの付き合いだ。彼にとっては腐れ縁だろう。


「久しぶり。何の用? 君が話しかけてくれるなんて珍しいね」

「心境の変化だよ、最近神の啓示を受けてさ」

「神の啓示?」


彼は困ったみたいに苦笑した。これはアルベルトのグループにいる子息どもがよくやる仕草で、かつての俺は愚かだったのでこうして笑われる度に劣等感を刺激されて何度か嫌がらせをしたこともあるわけだが……


「更生したんだよ。信じてくれ。神がそうするように」

「神なんか嫌いだと言っていただろ」

「間違いだった。俺は敬虔な信徒だよ。お前の隣人だ」


畳みかけると、アルベルトはオパールの瞳をわずかに曇らせた。

俺は胸に手を当てて訴えかける。


「汝、隣人を慈しみたまえ。そうだろ?」

「君から聖書の言葉を聞くとはね」


彼はため息を吐いて、教科書を机に置いた。話をする体勢だ。


「汝、横たわる悪魔の涙に惑わされることなかれ」

「神が助けた悪魔ガリオンはどうなった? 忠実な使徒として働いたじゃないか」

「いくつもの試練があった」

「俺はそれを乗り越える。お前が信じてくれなくてもやるつもりだ」

「どうやって?」


厳しい視線が俺に向けられる。俺は机に腰を下ろすと、彼に微笑みかけた。


「妹さんの調子はどうだ?」


彼の瞳に一瞬燃え上がるような怒りが散った。

当たりだ。俺は笑みを深めかけて、ふと正気に戻る。バッドコミュニケーション。


「待て。お前を傷つけようとして言ったわけじゃない」

「では何のつもりでフローラの話を持ち出した?」


声色が一気に刺々しくなった。無理もない。

妹の件は彼のアキレス腱だ。

彼の妹フローラは生まれた頃から重度のB型魔力離脱症に罹っている。これは魔力が常に流れ出すために自力で生命を維持することができず、不治の病とされているのだ。彼女は魔力補給用のチューブに繋がれていて、ベッドから抜け出すことすらできはしない。

その悲惨な話をかつての俺はアルベルトを傷つけるためだけに度々持ち出す嫌がらせを続けていたので、彼が怒るのも無理はなかった。というか絶対に嫌われている。


「今のは良くなかったよな、ただ大いに関係ある話なんだよ」


顔の前で軽く両手を振って、俺はひとまずの不穏な考えを払う。

アルベルトはその仕草にすら警戒心を持ったらしかった。


「どう関係がある?」

「治せるよ」

「は……?」

「治せるよ。助かるんだ。お前の妹」


アルベルトは何も言わず、しばらく呆けた表情をしていた。

オパール色の目が俺の影を映している。

俺は両手を広げて至って親切そうに笑いかけた。


「おめでとう!」


俺は殴られた。


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