第十四話 お見舞いとパーティのお誘い
どんどん更新ペースが落ちてるのよくない……(汗)
「本当に大丈夫なんですの、ヒルベリュカ様。」
渡されたフルーツの詰め合わせ。私の眠る白いベッドの隣の机に鎮座する見舞いの品。入学直後というこのめちゃくそ忙しい時期に、態々時間を割いて見舞いをしてくださった皆さんに、申し訳ないという気持ちが募っていきます。
「そうですわ、回復に二日掛かるなど尋常のことではございませんわ。」
今私の目の前にいるのはヨーシェリアさん、アザエリスさん、ヤーチャさんの三名。取り巻きとしてお見舞いにやってきてくださった三人です。
本来であれば、率先して皆さんの学園生活をサポートしなければいけない立場。だというのに私は一人快適な病室でこんな体たらく。思わず出そうになった溜息を堪えます。ただでさえ情けないのにこれ以上不安に思わせる必要はありません。
「えぇ、問題ないですわ。念のため大事をとって休んでいるだけだもの。態々忙しい時にこんな所に呼んでしまってごめんなさいね。」
「そんなっ、何を言うのですヒルベリュカ様!あなた様は誉れ高き我が国の始祖たる十三貴族!その閥の一端に加えていただいたものとして、その身を心配し、傍にお仕えするのは当然のことでございましょう!?」
私のそれよりも幾分明るい金髪を左右にたなびかせながら勢いよく力説するヨーシェリアさん。彼女も十三貴族には及ばないもののかなり古い家柄の人なのですがね。
そうした彼女の勢いに見慣れているのか、少し溜息を堪えるような仕草をアザエリスさんが見せ、ヤーチャさんは変わらずににこにこと笑っています。気づきませんでしたが、仲がよさそうですね、このお三方。もしかしたら私が知らなかっただけで以前から関係性があったのかもしれません。
「それで、何がお有りになったのです、ヒルベリュカ様?集団幻覚とのことでしたが……」
「ちょっとヤーチャさん!?何もお休みになられてるヒルベリュカ様にお聞きにならなくても!?」
「いえ、構いませんわ。当然気になることでしょうし。」
そう言って私は皆さんに起きたことを語りはじめました。とは言ってもコーアに話したほど正確なものではありません。彼女のことを詳しく話して恐怖させる必要はありませんし、関わりに行くような事態になったら目も当てられませんからね。学園側の説明に多少の感想を混ぜたものです。あれが事故であったことにした方がいいのは、いくら愚鈍な私であっても分かるのですよ。
「――――というわけで問題ありませんわ。心配かけてしまって悪かったわね。」
「いえ、お忙しいところありがとうございました。ほら、あまりご迷惑をおかけしすぎる前に退場しますよ。」
「「ありがとうございました。」」
アザエリスさんに促されて挨拶をするお二人。彼女はそのままこれ以上話すこともないでしょうと言うようにお二人を連れて病室を去っていきました。
どうやら私が思っていたよりも気を遣わせてしまったようで、その後も取り巻きの方々が私のお見舞いに来てくださりました。なんというか今まであまりこういった経験はなかったもので、自分なんかのためにという罪悪感とこれだけ心配してくださったという高揚感が入り混じりながら湧いてきました。
まあピリカさんがやたら細かく根掘り葉掘り尋ねてこられただとか、話してる際中にアスフェルドさんが体調不良で気絶しそうになっただとか、アーシャさんのお見舞いが半分ほどセールストークであったとか、ブレカさんに眼帯を外す許可を求められたりとか、ちょっとあれなことはあったのですけれど、それらを除けばありがたい話でございました。
そうして2日間の検査入院もそろそろ終わりという頃、私の病室のドアがノックされました。私がどうぞと答えればその先には見知った顔が二人。いえ、お一人はしばらく見ていなかった分多少の変化はありましたけれど。
「やっほ~!にししっ、元気してる~?」
「久しぶり。あなたが顔を出さないからこっちから来てあげたわよ。」
「リルカ!……とキャロル。」
部屋に入ってきたのは私の幼馴染二名。十三貴族でありながら私の取り巻きになったリルカと、十三貴族であり学園長の姪でもあるキャロル、キャロライン・ローグ・ミゲリス・アカデミア。あちらは普通に取り巻きの方がいるはずですがーーーああ、病室には入ってきていないだけですか。
「何よ、その反応。せっかく見舞いに来てあげたのに不満なのかしら?」
「い、いえ!?そ、そういうことではないのですけれど……。」
彼女のツンとした紅い瞳から私は思わず目を背けました。実を言うと彼女、キャロルとこうして会うのは随分と久しぶりなことなのです。時折文章でのやり取りはしていたものの、すっかり家に引きこもりがちになってしまい、学園へと通う意欲もなくなってしまった私にとって、その、彼女は、何というか……学園であったり立派な貴族であったりと嫌なものを思い出させる存在であって、少し避けていた、と言われると否定できないのです。
「まったく……学園に取り巻き連れてやってきたから少しはマシになったのかと思ったら、はぁ。相変わらずなのかしら?友達甲斐のない奴ね、そろそろいじけるわよ?」
「まあ明らかに避けてたからね、キャロルちゃんのこと。」
「うぐっ、い、いえ、その、全面的に私が悪いのですけれど!!」
これ見よがしにぷくーと頬を膨らませるキャロル。「自分に疚しいところがあるからって、それで避けるとか傷つくわー」などと詰ってくる彼女に、私は言葉にならない言い訳と謝罪をしどろもどろに繰り返すしかありませんでした。
実際こちらの反応が鈍いにも関わらずに関係を保ち続けてくれたのですから――どうして私などのためにそこまでと思うものの――私は友人に恵まれているのだと思います。
「……はぁ、まあいいわ。それより本題の話をしましょうか。」
「本題?」
見舞い品であろう、ラッピングされたジュースの瓶を机に置き、キャロルは不満気に背けていた顔を私の方へと向きなおしました。
「貴族向けの入学記念パーティが開かれるから出席しなさい、二人とも。」
「うぇっ!?」
「……ぐっ。」
私とリルカが苦々しげに呟く中、キャロルが差し出したのは綺麗な封筒に入った招待状でした。宛先はもちろん私たちで、受け取って封を開ければ日時と場所が指定してあります。……せ、せめて郵送で送って頂ければ見なかった振りも出来ましたのに、こうして直接渡されては見ないわけにはいかないではありませんか。
「学園に入学するということは、貴族としての社交場に足を踏み入れるということ。もちろん分かっているわよね?……はぁ、そんな顔しないでよ。」
「だってぇ。人それも貴族がいっぱいいるところとかプレッシャーやばいんだよぉ、食事の味もよくわからなくなるしさぁ。」
「えぇ、もちろん分かってはいます、必要なことだと言うのは。分かっていますとも。ただ理解できるということと受け入れられるということには大きな隔たりがあると思うのですわ。……一般論ですけれど。」
「ったく、あんたら本当に……」
私達の発言に溜息を吐くキャロル。……まあ仕方ありません。リルカは露骨に嫌だと表現した上でベッドに居た私の影にそそくさと隠れてしまいましたし、私も、その、なんというか視線がキャロルではなくて、白い壁の方へ移動していると言いますか、頬を冷たい汗が今まさに流れていると言いますか……。
「まあ苦手なのは分かってるわよ。だからサポートしてあげるから従いなさい。ある程度でいいから。」
「従う、とはええと、何をすれば……?」
「とりあえずリルは基本ヒルベと一緒に行動してなさい、隠れてもいいから。」
「本当っ!?いやぁ、ごめんねぇヒルベちゃん。えっへっへ……。」
「ちょっ、ちょっとキャロル!?どうしてこれ以上私の負担を増やすのかしら!?私だってパーティ会場に行くだけで精一杯なんですのよ!?」
「とりあえず行く気があるのは褒めてあげる。で、あんたの影にリルを隠れさせるのはあれよ。リルがパーティで変なことしてその対応しなきゃいけなくなったらあんたが何とかできるの?」
「……確かに隠れられた方がマシですわね。」
「私の友人たちからの信用が低いよ~!?」
当たり前ですわ。私まだ覚えてますわよ?あなたがパーティで人と話すを嫌がった挙句に建物に火をつけたこと。幸いすぐに消火されましたけど、あのせいで暗殺者がいるのではないかとそれはひどい騒ぎに……。
「いや、それは~ほら、あれだよ、昔のことじゃん?もう10年近く前のことだしさ~!」
「はっ、たかだか10年程度で人間の本質が変わるものですか!それなら私もう少し立派になっていましてよ!!」
「ツッコミづらい自虐で追い詰めるのやめてくれない!?」
私、これでもそれなりには人間の弱さは知っていますのよ!?時間を掛ければ人が進歩するなんて大嘘です。私なんて何でしたら10年前の方が努力が多い分まともだったかもしれませんわ!!
「……話を続けるわよ?リルはずっとヒルベの近くに居ていい、ストフェルノとデビライズが近くにいるのは意味があることだから。それからこっちもすぐ取り巻き連れて合流するから合わせなさい。そうすれば少なくとも私がサポートしてあげるから。」
「サポート……ありがたいですけれどいいのです?そちらにもやるべきことがあるのでは?」
「そりゃやることはあるけど。まっ、別に問題ないわ。あんたらを手中に納めるってんなら十分でしょ。」
「手中って……いえ、そうなる、のですわよね。」
貴族同士のパーティということはそこにはそれぞれの思惑があり勢力争いがあります。まずリルカが私の近く……私の下につくということはストフェルノ家が我がデビライズ家の下についたことをアピールすることになるでしょう。親世代からの路線を私達の世代でも続けるという表明に他なりませんわ。
そのうえでその私がキャロルの近くに行くとなるとデビライズ家としてはアカデミアの勢力に属する、ということになるのでしょう。これだけで次世代においてアカデミアが十三貴族のうち自身含めて三家を勢力内に納めたことになるでしょう。
「まあ今更貴族同士の縄張り争いにどの程度の意味があるかって話ではあるけどね。」
つまらなさそうにキャロルが言いました。
「い、いやでもまだまだ影響力はあるはずですわよ!?」
「でも政治家も企業も貴族の息がかかった者、貴族に挨拶する者の数はどんどん少なくなっているわ。傾向的に見てこのまま貴族の影響力が減っていくのはまず間違いない。仮に残るとしてもそれはあんたのとこみたいに上手く時流に乗れた貴族。要は権威ではなく一般庶民同様地盤と運と才覚の問題よ。実際貴族の中で影響力をほとんど失ってる連中なんてごまんといるし。」
「それは……」
「うちも経営傾いてデビライズに泣きつく嵌めになったしね~?」
「そういう上手く行かなかった連中でも貴族社会では家柄と魔法の実力だけで判断される。つまり社会一般における価値観とのズレが大きくなる。社会とのズレが大きくなるということは即ち力を失うということ。実際成功した下級貴族なんかには貴族社交界に顔をほとんど出さなくなってる家も結構多くなってきてるしね。」
「……………………。」
「―――なんてあなたたちに言ってもしょうがないわね。悪かったわね、変な話して。」
「いえ、お気になさらず。重要な話ではありましたから。」
そう、重要な話です。貴族なんてものは徐々にその意味を失っています。偉大な魔法使いを生み出せる教育のノウハウだったり、あるいは地盤や家の資料であったりと利点はありますから無価値になることはないにしろ、時代の流れとともにその価値は減っていくものなのでしょう。仮に優秀な魔法使いが誕生したとしてもそれはその個人が優れていただけのこと。事実魔導学園が多くの優秀な魔法使いを血の有無を問わずに輩出している以上、結局家柄よりも個の才能の方が重要なのは明らかです。
けれど、けれど私には家柄を重視する気持ちが分かってしまいます。痛いほどに分かってしまうのです。家柄に大きな価値がないのだと認めるということは、すなわち自身に大きな価値がないのだと認めるということに他なりません。
私からデビライズ家という家の歴史を、家の持つ財産という社会的な価値を、正妻の娘であるという立場に付随する意味を、取り払ってしまったらいったい何が残るというのでしょうか?そこにあるのはただただ無能なだけの小娘一人です。
付随する価値がなければ私はスェマの前に立つことすらできず、今この場にいる彼女たちと友情を育むことも、コーアやメイに忠誠心を向けられることもない、ただただ出来の悪い、何も持たない―――――
「ちょっと、私が悪かったからそんな顔するのやめてよ。」
「……何か暗い顔してました?」
「まあしてたね~。」
「滅茶苦茶してたわよ。……言っとくけど私別に家柄や能力で友人を選んでるわけじゃないわよ?」
「私もバリバリになんでもできますみたいな真っ当な貴族系お嬢様だったら距離取ってたかな~?」
「………………。」
落ち込んでる私に気を遣い、励ましの言葉を掛けてくださるお二人。その言葉に認められたという少しの嬉しさとそんな心を向けられるほど私は上等な存在ではないという後ろめたさを感じます。ああ、せめて何か一つでも彼女たちに胸を張れるものがあればこんなことを考えずに、心配かけずにいられたのでしょうか?
「まぁ、実際に距離取ったのはむしろこいつの方なのだけれどね!!」
「いだだだだだだだ!!!???頬を抓らないでください!?ごめんなさいっ!?謝りますっ、謝りますからっ!!??ごめんなさいってぇ!?で、でもほら、メッセージに返信はしてたでしょう!?」
「何十回既読スルーされたと思ってるのかしら!!??」
「ちょっ、私の頬は餅ではないのです!?そんなには伸びませんのよ!?」
「あはは、やれやれ~!!」
結局私はこのまま頬を抓られながらキャロルに必死に謝り続けることになるのでした。
……後から気づいたのですけれど、きっと落ち込み始めた私の意識を他に向けさせるためだったのでしょうね。
ヒルベは嫌だなぁって思いながらなんとかこなし、ある時耐えられなくなってパタンとやめちゃうタイプ。リルカはハナからサボるタイプ。




