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第十五話 魔導決闘学の体験授業

はい、ごめんなさい。

しばらくサボってました。


「『我が内なる魔力よ、炎へと変じ、球となりて、前方へと進め!』」

「っ!」


 初級魔導決闘学の体験授業。放たれた火球を横に転がりながら躱し、着弾点から巻き上がる熱風が(わたくし)のエナジーアーマーの残量を削ります。


「このっ――――!」

「ぐっ―――」


 反撃に放ったヴァンパイアガンの銃弾――当たらないのは仕方ないので牽制と割り切ったそれ――を避けようと相手が大きく跳躍しました。


 思ったよりも身体強化魔法の精度が良い。いえ脚力に力を回してるのでしょう。見たところ実用レベルで使える魔法はファイアーボールと身体強化のみ。実技試験に合わせてその二つだけ磨いたのでしょうね。肉体の速度においては私より明らかに速いです。


 対してこちらは体験授業であるがゆえに不幸の連鎖を持たぬ身。成り代わりの薔薇はあくまで耐久用ですし、ヴァンパイアガンは静止目標以外には至近距離まで詰めないと当たりません。身体強化で敗北している以上、残る手札は突風魔法しかありませんね。



「『我が内なる魔力よ、炎へと変じ、球となりて、前方へと進め!』」

「『大いなる風よ、私を導いて!』」


 デバイスと共に構築された炎球。それに対し自動化された私の魔法。詠唱を付け加える形でよりその出力を増した魔法により、左斜め前方へと加速し攻撃を回避。


「『大いなる風よ、再度私を導いて!』」


 そのままさらにもう一度突風の魔法を放ちます。けれどこれは悪くはなくとも少し無茶であったらしく―――


「ぐっ、さすがに無事とはいきませんか!」


 勢いよく角度を変えて打ち出される私の身体。何度か行ったことはあるとはいえ、その急加速に身体が悲鳴を上げ、代償に私のエナジーアーマーが削れて行きます。これで私のエナジアーマーのゲージの残量はおおよそ3割ほど。対して相手の残量は――5割程度ですか。やはり無茶をしないと追いつけそうにありませんでしたわね。けれど2割の差もこの奇襲で――――



「『炎よ!!』」

「短縮詠唱!?」



 突然目の前で花開き、私を包み込む炎。予備動作を見せぬ刹那の魔法行使。


 その技法の名は短縮詠唱、すなわち詠唱を短くして魔法を発動する技法です。発展させたものが無詠唱であり、デバイスによる自動化によって私が成し得ているもので、いずれにせよ戦いの中で素早く相手に悟られずに魔法を行使できるというアドバンテージが大きいことは言うまでもありません。


 とはいえ上澄みの相手ならばともかく、私と授業で戦わせられるような相手と考えるのであれば、地力で短縮詠唱をモノにしているとは思えません。恐らくは私と同じようにデバイスに予め自動化を行わせていたのでしょう。


「しかし残念!初見殺しですわ!!」

「嘘っ、薔薇になって攻撃を避けたの!?」


 その攻撃で恐らくは削り切れるはずだった私のエナジーアーマーの代わりに成り代わりの薔薇が炎に燃え、その隙に試合相手の懐へと潜り込みます。雑な使い方に心が痛まないと言えば嘘になりますが、今はそれよりも勝利こそを希求すべきです。


「喰らってくださいまし!!」


 相手の腹部へとヴァンパイアガンを勢いよく叩きつけ、そのまま至近距離で発砲!使い方が下手であろうとアンティークはそう簡単には壊れませんのよ!!


「くぁ……」


 よろめく相手。そこへさらに近づいて発砲!発砲!!発砲!!!ついでに殴打!!!!


 ここが勝負所とラッシュを仕掛け、敵側のエナジーアーマーの残量が瞬く間に減少していきます。残りはおよそ1割!しかもヴァンパイアガンの魔弾は魔力を奪います。こんな状況で反撃なんて精々足を動かす程度の悪あがき程度―――――


「って、足ぃ!?」


 ぐわんっ、と顎に響く痛みと視界の揺れ。背中への衝撃。晴れ晴れと澄んだ空に、憎らしい太陽の微笑み。



「何が―――」



 ――起こったのかと前を見れば思い切り上へと振り上げたまま止まっている対戦相手の彼女の足。あら柔軟。……なんて感想を言ってる場合ではありません。早く体勢を立て直―――



「『炎よ!最後の煌めき、ありったけをここに!!』」

「ぎゃふん!?」



 またしても放たれる短縮詠唱。恐らく私の攻勢を凌ぎながらもデバイスを動かしていたのでしょう。魔力枯渇寸前の中放たれた恐らく最後の一撃が私の顔面にクリーンヒットします。彼女の渾身のファイアーボールを人体の急所の一つに受けたことで私のエナジーアーマーが全損し、脱出機構により勢いよく吹き飛ばされました。



「うぐっ……ありがとうございましたわ。」

「ありがとうございました!」



 ……私の負けですわね。溜息を押しとどめて埃を払って互いに礼をし、模擬戦フィールドから退場します。あちらの顔は晴れ晴れとした笑顔。対して私の顔は苦々しげに歪むのをなんとか矯正した形。()()()負けてしまいましたわね。















「納得いきませんわ!!」

「同意いたします!明らかにお嬢様に不利すぎるでしょう。」

「いやぁ、仕方ないんじゃないです?」


 前回で通算9戦9敗。初級魔導決闘学の体験授業を受けに行った私はそこで行われた模擬戦において度重なる敗北を喫してしまいました。


 魔導学園の決闘学は道場に近いシステムで、多くの教師が教室を受け持ちその中で決闘の基礎となるマナーや決闘における戦い方を学び、定期的に行われる大会において自身が参戦する教室の名を背負って戦う、というものです。


 単位だけを考えるのであれば別にどの教室だって良いのでしょうが、やはり誰だって勝ちや強さを求めたくなるもの。生徒たちの多くはどの授業が良いか、どの教室ならば集団決闘を行った時に勝てそうかなどを体験授業――大抵の場合軽い決闘に関する説明と体験決闘です――を通して探すのです。ただ今回の問題はその体験授業の決闘で毎回毎回敗北しているということであり―――



「やっぱりマッチングが上手く行ってないのではないかしら!?」



 ―――そうなるとマッチングを組んでいる教師陣の組み合わせが上手くないということになるのではないでしょうか!?普通に考えて上手く機能しているのならおおよそ勝率は5割程度になるでしょうし!私はもっとフェアな戦闘を望みますわ!!


 そんな愚痴を込めた言葉をペリミターエリアのカフェの個室で私の信頼する従者二名に言いました。寮で言うと他の方々に聞かれてしまいますもの。こういう情けない姿は、まあある程度は仕方ないとはいえ積極的に見せるものではありません。あ、もちろんこの部屋の防音性があることも確認済みですわよ?


「仕方ありませんよ、お嬢様カタログスペックと実際のスペックの差異が大きいですし。」

「ぐふぅ!?」

「コーア!?お嬢様になんてことを言うのですか!?」


 え、えぇ、そうですわ。そうなんですわ。私は最高級のデバイスを持ち、二種の魔道具を使う存在。魔法の質だって杖であるデバイスの影響を強く受けるもの。身体強化もエナジーアーマーの性能や容量もデバイスの質が上がればその分だけ上がります。であれば送ったデータを見れば私の強さは実際よりもある程度上に見られてしまう、とそういうことなのでしょう。


 だからこそ私は今の私よりも強い相手と戦わせられて敗北するのです。一番上手く行った時でも上手くラッシュを凌がれて炎を短縮詠唱で出されて逆転されてしまいましたし。もっとあっけなく倒されたこともちらほらありました。……まあ敵が私より強いなんて今に始まった話ではありませんけれど。



「それよりも大切なのは講評の方でしょう?届いたものは何て書いてあったんですか?」



 講評、つまり私の決闘に対する評価であり、今後のアドバイスについてです。それは即ちそのままその決闘学を受ければどのように教えてくれるのか、という話になるのですが――――


「どこもかしこもまずは射撃を鍛えようとしかほとんど言ってないのですけれど!?」

「よかったじゃないですか、お嬢様の次の目標は明らかみたいですよ。」

「私のエイム力が低い事くらい言われなくても知ってましたわよ!?」

「でも出来てないからそうなってるんでしょう?」

「お黙りなさい!人間の欠点というのはそう簡単には埋まらないものなんですわよ!!!???」



 まあせっかくのヴァンパイアガンも当たらなければ宝の持ち腐れ、というのは私も分かっています。ですから毎朝時間を取ってこっそり射撃訓練はしていますし、それでも埋まらないであろう命中力をカバーする手段も現在用意している最中です。私の僅かばかりの努力の方はともかく、もう片方は恐らくそろそろ形になってくれると思うのですが……


「と、ともあれ射撃が課題であれば射撃能力が高い教員の決闘学を選べばいいのではないですか?それならすぐにこちらで候補を調べられますよ!」

「そうですね、それが正攻法かと。如何為さいます?」

「…………いえ、結構です。もちろん考慮の一項目ではありますけど。」


 私に足りていないのは射撃能力、それは間違いありませんし、ただ普通に単位を得るだけならそれでよかったと思います。けれど私は取り巻きを連れる魔導貴族、かつて国を統べていた高貴なる十三の血筋なのです。その血にふさわしい風格―――は無理にしても、せめて十三貴族にしては微妙、程度で収まるくらいの実力は身に着けなければ着いてきてくださっている皆さんに申し訳が立ちません。


 そう考えた時、果たして射撃能力を向上させ、仮に百発百中になったとして私がそのレベルに達しているか―――否です。まったくもって足りていません。取り巻きの皆さんより弱いのは言うに及ばず、スェマを相手にすればおそらく一秒すら持たないでしょう。


 戦うことからはすでに逃げ出しました。勝てないことはずっとよくわかっています。それでも、それでもきっと、私は、やはり、足元に及ぶくらいにはしなければ、そうしないと私のような存在は本当に―――――



「でしたら何を基準にお選びになるのですか?学院の決闘学は初級魔導決闘学だけでもかなりの数があります。ある程度人気の所はもう回ってしまいましたし、全てに体験授業をするには聊か数が多いと思われますが。」



 沈みかけていた思考が声によって起こされました。


 コーアの言う通りです。今考えるべきことは何を基準に受講する決闘学を探すのか、に他ならないでしょう。実践的?いえ対応力が付くのは良い事ですが多少実践的な程度で勝てるようになるとは到底……、いえこんなババくじをどうにか戦えるレベルにまで育てるのがまず無謀と言われればそれまでですけれど。


「えっと、まず基本的な初心者向けの方針以外の初級魔導決闘学ってあるのかしら?やっぱり初級だしカリキュラムはほとんど変わらない?それなら単純に教員の方の教え方で決める方がいいと思うのだけれど―――――」

「それでしたらいくつかお調べしてありますよ、御覧になりますか?」

「本当?なら見せてもらっていいかしら、コーア?」


 少し悔しそうな顔をするメイから視線を逸らし、タブレットに送ってもらった決闘学の講座に目を通します。相変わらず準備がいいですわね。……なるほど、決闘学の礼儀重視から戦略的なもの、商業的な決闘に特化などもありますか。


 一覧をスクロールしながら、その下の方記載されてあった講座にタッチし、詳細を確認します。なるほど、なるほど。予想通りの概要。体験授業も、よし全然空いていますわね。


「でしたらこの講座に申し込んでみますわ!」

「「えっ!?」」



次は受講先に行く前にもう少し別の授業を挟もうと思います。

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