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「この国の情勢は、悪くなる一方だ。何故か分かるかい?」
「まさか、セリス様の所為......?」
「周りも認めては居ないが、薄々そうではないかって勘付いている」
この国の政に関する案件の最終決定権は、鍵姫にある。前世の記憶を持つものであれば正しくこの国を導いてくれるだろうと言う、ある意味都合のいい理由でそう決められているのだ。
「確かにセリスティアーナ様以前の鍵姫は、上手く国を導いてきていたんだ」
「それは、前世の記憶があったからってことですよね」
「勿論、前世の記憶だけが全てではなかったがね」
そこまで話して、コリストスは紅茶のカップを持ち上げる。話を聞いていたオルカは、鍵姫がどれだけ重要な存在なのかを改めて知った。
「大分、重要な存在の身代わりを任されてしまいましたね、わたし」
「代わりはそう見つからない。オルカ、本物の鍵姫にならないか?」
真剣な面持ちで、コリストスが言う。代わりが見つかりにくいのは、確かだと思う。黒髪なんて珍しがられるくらいだし、いくら同い年といえど容姿まで近くなければ代わりなんて務まらない。その上、立場が立場なだけに貴族の娘から代わりを呼ぶことが出来ないとなるとかなり難解だろう。
「わたしより聡明な方を探すべきだと思います」
「オルカは十分素質があると思うよ。所作も言葉遣いも問題ない」
「それは、叔父様の情込みで見た場合でしょう?他の方から見たら」
「俺も問題ないと思う」
突然割り込んできた声に、オルカは顔を上げる。扉を背もたれにして寄りかかったクラウスが真っ直ぐにこちらを見ていた。
彼が言うなら問題ないとコリストスが後押しする。クラウスは鍵姫専属騎士だから、真近で鍵姫を見て行動も共にしている。
「彼もそう言ってることだし、どうかな?」
「でも、前世の記憶なんて持ち合わせてないですよ」
「それだけが全てじゃないだろ」
クラウスの一言に、前世の記憶を活用しなくても、国を導いてきた鍵姫も多くいるとコリストスに畳み掛けられ、オルカはドレスの裾を握りしめた。それが、不安定な時のオルカの癖だと知っているコリストスは、体の力を抜いて柔らかい笑みを浮かべた。
「今日の会議で決めてみたらどうかな?」
「会議があるのですか?」
「あれは今日だったよな、クラウス?」
「今日だな」
短いながらも確実な回答に、コリストスは頷いて再びオルカに向き直る。
「会議次第、ですからね......?」




