・
やっぱり傷口は開いていて、その血を拭き取りながらオルカは手早く軟膏を塗りつけていく。
「痛くないの?」
「別に」
「鍵姫様時間です」
部屋の外から聞こえた声にオルカは立ち上がる。手が離せないから少し遅れると言おうとして、その手を掴まれる。
「鍵姫になるんだろ」
「そうだけど、これは」
「俺はいいから行け」
確かに鍵姫になるなら、ひとりの事より大勢の事を優先しなければならない。今がその選択の時だと言いたいのか。
オルカはベースを被り、ゆっくりと部屋を出た。鍵姫が遅れたとなれば、心配する人は沢山いる。そんな訳にはいかない。
「きちんと手当するのよ」
「あぁ」
案内されるまま座ると、既に教会内に居た人々が歓声をあげる。
司教が何事か言った時だった。教会の扉が大きく開き、ナイフを握った男が一直線にオルカを目指して走ってくる。
思わず目を閉じたオルカが感じたのは、痛みではなく重みだった。
「......クラウスっ?!」
目を開けると、胸に倒れこむ形でクラウスが居た。手当の途中のままのシャツ一枚の姿で。
その脇腹には、深々とナイフが突き刺さっている。
「すぐに医者を呼べ!」
「感謝祭は中止だ!」
混乱する人々を落ち着かせる声、この後の指示を出す声。
その声達はオルカの耳に遠く響いた。
「急所は外してるって」
「では、命に別状はないのね」
「そういうこと」
シュバルツが部屋から出て行く。
寝台に寝かされたクラウスは、痛み止めのお陰か落ち着いている。
命に別状はないと聞いて、オルカの目からは安心したのか涙が溢れた。
「......なんで、お前が、泣くんだ」
「クラウスがお馬鹿さんだから」
「俺は、馬鹿だな。好きになった相手に心配させてばっかで」
今、何て言った。
目を開けるのも億劫なのか、目を閉じたまま話すクラウスを思わず凝視する。
「今、何て」
「お前が、好きだって、言ったんだ。最初は、あの時の奴だと気がつかなかったが」
「どの時よ」
「何年か前に、骨折って重症の奴助けなかったか?」
言われてみて思い出す。
そういえば、そんなこともあった。
騎士に成り立てで、新人教育が最早拷問だった為に逃げ出してきたと。
あの時は、まだオルカもコリストスの元を離れたばかりだったっけ。
「故郷には、帰らなかったの?」
「あの後戻った。王都に居ればまた会えそうだったから」
「帰らないで、正解だったのね」




