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「感謝祭?」
「鍵姫は信仰の対象でもあるからね、ただ座ってるだけでいい」
夏も本番になった頃。
突然部屋を訪れたコリストスは言った。感謝祭とは、半年ごとに行われるものだそうで、半年分の感謝を鍵姫様に伝えよう。というものらしい。
「わたし感謝されることは何も」
「いいんだ、鍵姫が居ることこそが彼らにとっての安寧だから」
「そういうものですか?」
ようやく鍵姫としての仕事も板についてきた。悪化していた国の情勢は、元に戻りつつあるし他の上流貴族に頼られることも多くなったと思う。きちんと鍵姫になれているだろうか。
「そういうことだから、よろしくね」
「はい、叔父様」
コリストスを見送り、クラウスを振り返る。当の本人は相変わらず興味なさそうに、別の作業に没頭していた。彼に期待しない方がいいのかななんて考えながら、オルカはため息を吐く。
「クラウス、怪我はもう平気?あれからきちんとしているの?」
「あんなの一日もすれば治るだろ」
平然と構えるクラウスに、もう一度ため息を吐く。もう少し、自分のことを気にかけて欲しい。そうでないと、見ているこちらが怖くて仕方ない。
「心配しているのに」
「余計なお世話」
「もう手当しないわよ」
「勝手に引き止めた癖に」
言いあっている内に堪えられなくなって、オルカは吹き出す。肩を震わせる彼女にクラウスは何とも言えない表情を見せた。何か思い詰めたような、迷っているようなそんな表情。
「クラウス?」
「何でもない」
何処か様子のおかしい彼に首を傾げるが、知りたいと思っても教えてくれないのがクラウスだからと無理矢理納得して、さっきの表情は忘れることにする。
「感謝祭だって。わたし参加したことないのよね、クラウスは?」
「鍵姫の護衛としてなら」
「お互い内気なのね」
「俺は普通に仕事だっただけだ、一緒にするな」
人々が大騒ぎをして、出店なんかも出るのだっけ。参加はしてみたかったけれど、ひとりだったし臆病だしで結局出られず仕舞いだった。コリストスによれば、鍵姫の出番は夜かららしいから、少しは見て歩けるだろうか。
「言えるわけないわね」
「何が?」
「何でもないわ。ただのひとり言」
クラウスと一緒に歩けたらいいな何て、言えるわけも叶うわけもない。




