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二章

二章


紙束が宙を舞う。

銃声が何発か響いた。

クラウスに腕を引かれながらオルカは走る。

「いつから王宮は射的場になったの!」

「俺が知るか!」

悲鳴混じりの問いは、怒鳴り声で返された。

資料室を出て暫くは、人気のない廊下が続く。貴族やら使用人達が混乱しないように、クラウスも敢えて人気のない場所を通っているのだろう。逆に人気のある場所へ入り込めば、この襲撃は止むかもしれないがそんな博打打ちのような真似は出来ないということだろう。

「こんなことになるなんて聞いてないわよ?」

「今まで無かった」

上手く階段の陰に隠れることが出来た為、そこで息を整える。そんなオルカの横では、息ひとつ乱れていないクラウスが拳銃に実弾を追加していた。

偶々、特に予定はないと言われたから資料室で国の事が書かれている資料を漁っていた。そこをいきなり外から銃撃され、今に至る。

「そんな、まるでわたしの所為みたいじゃない」

「何かの気紛れだろ」

「気紛れでこんなことされてたら、命が有って無いようなものよ」

鍵姫になると決めてから、早くもひと月が過ぎていた。王宮内の上下関係も上流貴族の力関係も分かってきたところだ。季節は夏本番に差し掛かろうとしているところで、少し蒸し暑い。

「行くぞ」

「嘘でしょ?今出て行ったら、さっきの二の舞いよ」

「どの時機に出ても同じだ」

出て行こうとするクラウスの腕を引っ張りもう一度階段の陰に引き戻す。

もう一度出て行ってあんな思いをするのは、嫌だ。

「わたしは足手まといになるわ。貴方一人なら、襲撃者を捕まえられるのでしょう?」

「死にたいなら此処に残ればいい」

「死......?!」

「奴らが狙ってるのはお前だ。此処に残るのは結構だが、格好の餌食になるだけだ」

オルカは俯いてドレスの裾を掴んだ。ここで死んだら、代わりはもう居ない。セリスの時は本当に偶然が重なっただけだと聞いていたから、二度目のそれはないだろう。何より鍵姫の入れ替わりに関わった人達に、迷惑が掛かる。

そうこうしている内に、クラウスに思い切り置いていかれかけている事に気づいたオルカは、咄嗟に彼のシャツの背中を掴む。

迷惑だと言われるだろうか。

「わたしも、行くから。置いていかないで」

「その手離すなよ」

それだけ言ってクラウスは走り出す。その言葉に胸が鼓動を速くする。怖くて目を閉じている間に、銃撃戦は終わっていた。

「部屋戻るぞ」

「終わったの?」

「終わった。逃したのが心残りだが」

銃を仕舞う音がしてオルカは目を開ける。床に散らばった硝子片が、さっきまでの戦闘を物語っていた。

「資料室に行ってもいいかしら?まだ作業も途中だったのよ」

「明日にしろ」

「でも、まだ日が高いわ」

結局オルカが押し切る形で資料室に向かう。最初に襲撃された場所だけあって、少し生々しさを感じる。散らばっていた紙束を拾いながら、目的の資料を発見した。

「あったわ」

「さっさと戻るぞ」

「硝子片、片付けないと」

「お前が気にすることじゃない」

これ以上は長居無用とばかりに資料室から出され、仕方なく部屋に戻ることにする。部屋の前では、シュバルツが待ち構えていた。

「姫様は無事だったんだな」

「ご心配をかけしました、シュバルツ」

「色々と厄介だったがな」

皮肉混じりの一言に、オルカは聞こえなかった振りをする。部屋の扉を開けようとして、何故かいきなり手を離すなと言われたことを思い出す。頰に熱が集まった。

「姫様?」

「お前、とっとと中入れよ」

二人の声が耳に入り、扉の前に立っていることを再認識させられる。慌てて中に入ると、資料を置いてベールを取った。

暑いと思ったのはベールの所為か、それとも顔が赤く火照っていた所為か。

どちらにせよ、オルカにはまだ原因が分からない。



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