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氷を溶かす存在

思いの外長くなってしまい、本格的な戦闘は明日になりそうです……すいません。

あと、ご感想・ご指摘お待ちしてます。

「……痛てえなあ!」

 しかし、苦痛を漏らしたのは拳銃を撃ったはずの男であった。彼は拳銃を持っていた右腕を押さえている。命中したのは右の二の腕だった。

 そこを後ろから押されたお陰で弾道が逸れたのには間違いないが、一体誰の仕業だろうか。

 まずその姿を見たのは愛理だった。

 銃弾が放たれる直前、ユークリッド人と名乗る男の向こうに見えたのは一人の青年だった。

 中肉中背で、眼鏡をかけた頼りなさそうな彼。年は愛理と同じかそれ以上だろう。服装はシンプルで、ジーパンに白いシャツという地味な感じだ。

 ただ、首から黒いひもで何かをぶら下げていた。決まった形のない、まるで鉱山から発掘してきたようなそれは、人の親指ほどの大きさしかないが、それでも大きな存在感を放っている。色は淡い青といった所で、それの中に穴を開けて紐を通しているようだ。

 こんな小さな鉱石に存在感で敗北している青年にも、愛理は助けて欲しいと最後の希望を求めた。

 そしてそれに答えるように、彼は腰のホルスターから愛銃のベレッタ90‐Twoを持ち、狙うこともなくしたから上に振り上げるような形で発砲した。

 この拳銃は、イタリアのピエトロ社が製造販売している自動拳銃である。2006年に発表された最新モデルで、9ミリパラベラム弾を17発装填できる。

 また、ここに置ける“自動拳銃”というのは1発銃弾を撃った際に、そのあと何の特別な操作なしに次弾が撃てるという意味である。

 つまり一回の動きで二回の動作(撃つ→次弾装填)を行ったことになる。これはダブルアクションと呼ばれ、これに対するのがシングルアクションというのだ。

 話を戻すと、愛理にはどのタイミングで撃ったのかは分からなかったが、コンマ数秒の間をおいて彼女を撃とうとした男がうごめくのを見るとどうやら助かったのだと彼女自身思ったのである。

 そう、白馬の王子様の登場だと。彼女の人生最大のピンチに現れるのは、これしかいないはずだ。

 しかし当の本人は

「あ……あたった?ほんとに。よかったー、半分どこで撃ったのか分かんなかったけど、ああそう!いや助かった~」

 50パーセントまぐれのようだ。

 しかし、たまたまといえども銃弾を受けた男は黙ってはいなかった。

「おいおいおいおい!舐めてんじゃねえぞ」

 青年の方を向いて立ち上がった男は吠えるような口調で言い放った。

 そして愛理が見たところによると心なしか、青年は少しビクついているような気がしてならなかった。そして彼女の予想通り、青年が返した一言は後頭部に手を当てながらの

「スミマセン」

 だったのだ。男はまさかの言葉に沈黙してしまった。そして苦笑いを浮かべる。

「そうかそうか、そんな詫びてえんだな?」

「はあ、一応人を撃っちゃたんでね。反省はしてるつもりです。本当はその女の子を保護しに来ただけなんだけどねー」

 保護ーーその単語が愛理の脳内を駆け抜けた。

 一瞬彼女は青年に対して疑問の表情を浮かべた。保護するということはどっち道、しばらく自由にはさせてもらえないのだから。しかし、彼女自身を助けてくれたのは紛れもない彼だ。

 彼女を撃とうとした男よりは信用できるが、それは完全ではなかった。

 また、保護について疑問を持っているのは彼女だけではなかった。

「お前……何様のつもりだ。言っておくが俺は“首都制府”に直接雇われた傭兵だ。つまり、俺が今やっていることは、制府の意向そのものだ。そしてお前のやっていることは逆に反逆罪もいいところ。ユークリッド人として身の程を弁えろ!」

 この言葉で青年の顔は険しくなる。

「僕がユークリッド人?何をいってるんですか。そんな証拠どこにもないし。しかも僕の髪の色は黒色なんですけど」

 青年の言う通り、人間とユークリッド人の見かけの違いと言ったら、はっきり言って髪の色くらいしかないのだ。しかし、海外に行けばユークリッド人のように灰色の髪をしている人はいくらでもいるだろう。そうなると外見では判別しづらいはずだ。

 青年の言葉に男はすかさず言い返す。

「証拠も何も、空間の掌握に耐性を持っているのがユークリッド人たる確証だ。髪の色なんぞいくらでも誤魔化せる。それに実際、他の傭兵には怪しまれないように髪を別の色に染めるやつもいんだよ。しかし我が種族が最も強く優秀であるのに違いはない。少しの例外はいるが」

 例外というのは恐らく愛理を指すのであろう。彼女は人間ながら空間掌握に耐性を持っているというグレーな存在なのである。

 そして残念なことに青年は男の力説に納得してしまったのか何度も頷いている。うまく丸め込まれてしまったようだ。

「分かったなら帰れ!二度と我々の邪魔をするな!」

 そう言った男は青年に向けて警告と言わんばかりに銃を向けた。先程男は腕に銃弾を受けたのだが、それも今となってはそれも修復されている。これが種族としての力だろうか。

 また青年に撃たれてまで男が反撃しないのは、ユークリッド人同士という同胞精神、そしてここで死なせてしまうと、処理をしなければならないからである。

 死んで力を失った彼らは、人間と何ら変わらなくなるのだ。するともちろん掌握された空間から強制ドロップアウトし、元の世界に戻るので、一般市民にその死に姿をさらすことになるのだ。

 自身の種族に絶大な誇りを持っている男としは、なるべくならやりたくないことだった。

「邪魔はしたくないんだけどー、目的が重なっちゃったからどっちかが譲るしかないよね。ちなみに僕が譲るという選択肢はないんだ」

喧嘩を売るような口調で青年は言う。

「ッ……テメエ。ここまで慈悲を引っ張らせておいて、譲らねえだ?いい加減にしないと本当に殺るぞ」

 それに対してドスの効いた強い口調で男は迫った。

 それにかなり青年の顔は青くなった。冷や汗も顔から出まくっていた。しかし水面下ではちゃんと物事は進んでいたのである。

(あーきこえてますか、本織さん)

 愛理の脳内にそんな声が響いた。聞こえるのは自分の苗字を言う声。しかもその低くて頼りなさそうな音程は、まさしく彼女の目と鼻の先にいる青年のものだったのだ。しかし彼女は直感的にこれがおかしいと思った。

 なぜなら、青年は男と他愛ない?話の真っ最中だったからだ。青年が一方的に最近の面白かったことなどをマシンガンごとく喋っているので男のほうも正直言って苦笑いである。

 その姿を見ると彼女自身わけがわからなくなっていた。しかし、脳内でさらに言葉は響きわたる。

(聞こえてるなら返事を、ってこの会話僕からしか送れないんだった……まあいいや。これから楽に本織さんを助けるために、してほしいことがあるんだ。)

 次々に押し寄せてくる声。でも混乱するほどでもなかった。きっと青年の緊張感の全くない口調などがあると思うが、漫画によくあるテレパシーだと思えば、まだ理解することはできた。

(すぐにこの場から逃げてほしい。壊れたドアからどうにか反対方向に向かって、僕がこのおっさんを倒すまでここでまってて)

 その言葉に愛理は思わず青年を見上げる。そして彼の方はこちらを見ると、目線で訴えてきた。

 愛理としても冷静に考えてみれば、逃げたほうがいいのは何より明らかである。しかし、この青年を信用していいものなのか、それが心残りであった。

(所詮他人は他人だよね。本織さんからみて僕はただの人。でもね、僕から見て本織さんが大切な人のように、君を思う人はたくさんいるんだよ。そんな人たちを泣かせちゃいけないと思うんだ。だから、生きて!)

 愛理は氷の世界に囚われて忘れかけていたことに気がついたのだ。青年による彼女への言葉が、脳ではなく心に届いた。まだやり残したことがある。パーティーもこれからだし、友達もきっと彼女を待っているだろう。そしてこれからの未来は、もっと明るくなるだろう。

 そして、そのためは今、何をすべきなのか。それは一つしかなかった。

 愛理はゆっくりと立ち上がり、勇気をくれた青年に対して微笑んだ後、行動を起こした。

「何逃げてやがる!」

 そう言って男が後ろを向いた瞬間に、青年はベレッタ90‐Twoの銃口を真っ直ぐ前に伸ばした。

 そして大胆不敵に笑うと一言

「ばーか、よそ見してるんじゃねーよ」

 そう言ってのけた。本音を言うと青年は内心かなりビクビクしていた。でもここで男を惹き付けられなければどうしようもないのである。

 一方の愛理は無数にあるガラスを踏みながらドアを抜けて、車両の奥へ奥へと走り去っていった。これで彼女に危害が及ぶことはないだろう。

「おいお前……よくここまで俺をコケにできたもんだ。対価は払ってもらうぞ。まあ俺らの邪魔をする危険分子はどっち道消される運命だがなぁ!」

 そして青年と遠ざかったいく愛理の間には、ゆで上がったタコのように顔を真っ赤にした黒制服の男が鎮座している。

 もうお互いに言うことは何もない。ただ今はお互いをぶつけ合うのみーー

 戦闘開始。

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