09.死者の
「この文章から読み取れるのは〜」
6時間目は『国語』
のんびりとした優しい声が教科書を読むたびに、鼓膜を揺らす。
この国語の先生はとても人気なのだが、如何せん声が良い。しかも6時間目となると、全員の疲れがピークに達しているので、完全に先生の声が眠りに誘っている。
かくいう僕も、半分寝そうだ。
日差しが強いので、カーテンは閉められている。エアコンの風がゆっくりと教室の室温を下げてくれて、今とてもちょうどいい気温なのだ。
そのせいで、クラスメイトの大半が眠っている。
起きているのは真面目な生徒ばかり。
隣にいる落花は、必死に起きてるみたいだが、あと30分も耐えられるか怪しいところだ。
結果だけ言うと、頑張っていた。
と、いうのも完全に寝落ちたと思ったら、思いっきりおでこを机にぶつけたのだ。本当にとてもいい音がした。
そのおかげもあってか、眠気がどこかに吹っ飛んでいったらしく、痛みに悶えながら何とか授業を終えられたようだった。
余談だが、落花がおでこを机にぶつけた音で、寝ていた何人かも起きたらしい。斬新なアラームだなと思った。
「痛い…」
「凄い音したからね、赤くなってるんじゃない?」
「え、なってるの?」
「いや、見えないからわかんないけど」
「そうだった。響くんが見えてないこと忘れる」
おでこを摩る音を聞きながら、ホームルームが終わるのを待つ。
今日、落花は白峰と一緒に部活を回るようだったから、久しぶりに一人だ。ゆっくりできると、少し嬉しくなる。
一緒に行くかとは、もちろん誘われたが丁重にお断りをした。
断られると思ってなかった落花は、大袈裟に驚いていたが無視した。
その後も、なんでなんで?としつこく聞いてこられたが、ことごとく無視した。
今だって、「ねぇ、行こ?一緒行こ?」と小声で誘われているが、全て聞こえないふり。
「落花さん、準備いい?」
「あ、白峰さん!うん、大丈夫」
「良かった。それじゃあ行こっか」
「うん!」
嬉しそうな声を出しながら席を立つ落花から視線を感じたが、ひらりと手を振って見送る。
最後まで騒がしい奴だ。
久しぶりに静かな放課後だ。
落花の声が無いだけで、こんなにも静かになるとは…と、少し驚くと同時に、どこか寂しさを覚えた。
……はやく、いこ
…ぶかつ、おくれるよ〜?
死者たちは、落花がいてもいなくても変わらない。
好き勝手話しながら、死者の癖して生者の真似事をしている。
部活に行ったところで、居場所なんてないのに。
ガリガリと机を引っ掻く音。
キーキーと耳障りな悲鳴のような音。
トタトタと走り回る音。
外で部活をしている生徒の声に混じって、異音が響く。
(いつもなら、落花が祓うから静かなのに…)
そんなことを思いながら、自分の席に座っていた。
「それで凄いんだよ!もう、カッコよくって!」
次の日の放課後。
落花は、昨日見てきたことを興奮気味に話している。
時折、布が擦れる音も聞こえるから、身振り手振りでダイナミックに表現しながら話しているのだろう。
見えなくてよかった。普段もうるさいのに、身振り手振りも加わったら余計にうるさくなるところだったから。
それでも、頬が緩んでしまうのは気のせいだと思いたい。
「響くんは、どう思う?」
「白峰はカッコイイと思うよ」
「だよね!もう、響くんも来れば良かったのに〜」
「知ってる僕が言ったところで、意味無いよ。てか、見えないし」
「あ、そうだった!やっぱり見えないこと忘れちゃうや」
申し訳なさそうな音を出しながら、「ごめんね」と謝られるが気にしてない。
そう伝えると、すぐに安心した音に変わった。
「響くんってさ、見えてないのになんでそんなに死者のことが分かるの?」
「ずっと聞いてきたから」
「ずっとって?」
「君が思ってるよりもずっと」
名前を呼ばない、明らかな線引きをしたはずだった。
なのに……
「君じゃなくて、千鶴ね。はい、リピートアフターミー!ち・づ・る!」
軽々と飛び越えてくる。
わざとなのか、鈍感なのか分かりはしない。
「はいはい、千鶴、千鶴」
「軽〜い!発泡スチロールよりも軽くない?でも、呼んでくれたから良いや!」
「落花って、今までよく生きてこれたね」
「苗字呼びに戻ってるし、突然のディスり?!五体満足で、しっかり生きてますけど!?」
騒がしい。
本当に、落花が居るだけで騒がしい。
わーわー喚く落花を無視して、他の音を聞く。
異音は聞こえてこなかった。ただ、落花の綺麗な音だけが、教室内に響いていた。




