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生者の音と死者の音  作者: 狐久里 あみ
死者の音は静寂に似ている
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08.死者

「ねえ!本当にあれは生きてるの!?」


 小さな声で空き教室を指さしながら落花が言う。

 旧校舎の2階の死者はあらかた祓い終わったところだ。

 そして今、空き教室の前にいる。ただのやばい生者と言ったが、本当に変な人過ぎて落花が困惑しているのが分かる。

 扉は開けないまま、廊下に面した窓から少し覗くが、机の上のノートに何かを書きながら、ブツブツと呟いている。


「あ……く…、あ…ひくん」


「……ねぇ!やっぱりヤバいって」


「うるさいよ、バレるから」


「でもでも、死者よりもやばい生者ってなに!?」


「人間の中には、理解できないほどやばい精神の人がいるから……」


「人間怖い…」


 ドン引きした声がしたが、同感だ。

 これは流石の僕でも引く。

 落花に言った言葉は嘘ではない。人付き合いが苦手な落花は知らないだろうけど、生きてる人間の中には本当にやばい人がゴロゴロいる。

 居なければ、不審者情報なんて無いし、もっと世界は平和になるだろう。

 …特に世界平和は願ってないけど。


 関わるだけ無駄だと思い、落花を置いて旧校舎の1階を目指して歩く。

 僕が居なくなったのに驚いて、慌てて着いてくる音を聞きながら階段を降りようとした時…


「あれ?落花さん?」


 落花よりも後ろから声がかかる。


「あ、えっと…」


 僕と落花は同時に振り向いた。

 …僕は振り向く必要なかったのだが、何となく振り向かなきゃって思ったのだ。

 声をかけられた落花は、相手の名前が出てこなくて困った音を出している。


「白峰だよ。クラス委員長」


 仕方がないから、助け舟を出してやる。

 落花の記憶力はいい方だから、次回以降は大丈夫だろう。


「白峰、さん?ど、どうしたの?」


「覚えててくれたの?ありがとう

 私は今から第1図書室に行くところなの。落花さんは?」


「あ、えっとぉ〜?私は、ちょっと探検?」


 語尾を震わせながら何とか絞り出した答えを言う落花に、笑いそうになる。

 白峰はクラス委員長で、薙刀部に所属している女子生徒。大人しい見た目とは裏腹に、薙刀を振る姿はカッコイイらしい。ギャップ萌え?とかなんとかクラスメイトたちが言ってるのを聞いたことがあった。

 白峰本人は自覚がないが、ファンも結構いるらしい。


「そっか、ごめんね。本当なら私が学校を案内しないとなのに

 今から案内しようか?時間はあるよ」


「え、あ、嬉しいけど、その…今度!今度お願いしたいな!

 えーっと、部活とか?見てみたいなって思ってて」


「わかった。今度、部活紹介に合わせて案内するね。この学校、珍しい部活多いから」


「ありがとう、嬉しいな」


 本当に嬉しそうな声で答える落花に、「普通に話せるじゃん」と小さく呟いた。

 今お願いしなかったのは、死者を祓って回ってるからである。流石に祓い屋だとは言わないようだ。


「それじゃあ、またね」


「うん、またね」


 白峰は落花の隣を通り過ぎて、階段に足をかける。

 僕は1歩だけ後ろに下がって道を開ける。

 タッタッタッ…と、ゆっくりとした足音を聞きながら、落花に向き直ると、凄い音が聞こえた。喜びと興奮で音が大きい。


「うるさい」


「まだ何も言ってないけど!?」


 見えていたら、多分顔がうるさいとか言ってた気がするけど、見えないからただうるさいとしか言えない。


「ねぇ!ねぇ!私普通に話してた!?話せてたよね?」


「はいはい、すごいすごい」


「適当すぎるんですけど!でもいいや!白峰さん、優しい、嬉しい」


 落花の足音的に、クルクル回っているようだ。

 この様子だと、お友達第1号は白峰になりそうだなと、心の中で思った。

 人当たりも良く、クラスメイトたちをよく見ているため、人間関係初心者には難易度は低いだろう。


「下に行く?このままだと、白峰に会うけど」


「あ、それはダメだ。変人だと思われたら私が泣く」


「落花しか泣かないから大丈夫」


「響くんも泣いてよ!」


「なんで僕が泣かなきゃなのさ」


 行かないとなると、今日は終わりだろう。

 来た道を戻るように、新校舎へと続く渡り廊下へ向かう。

 その途中で空き教室を覗いてみたら、女子生徒はもう居なかった。

 彼女が犯罪を犯さないことだけを願う。



 次の日、いつものように自分の席でクラスメイトたちの会話を聞いている。


「落花さん、おはよう」


「あ、し、白峰さん、おはよう」


 ぎこちない挨拶が聞こえたかと思うと、早足で隣の席に向かってくる。


「やばい!挨拶しちゃった!」


「良かったね」


「あ、響くんもおはよう」


「おはよう」


 嬉しいです!と全面に出して報告してくる落花に、少しだけ苦笑いをしながら挨拶をする。


 その様子を白峰が見ていたことには、ちゃんと気づいていた。

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