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生者の音と死者の音  作者: 狐久里 あみ
死者の音は静寂に似ている
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10.死者の音

「今日は、体育館の方に行こ!」


 日課になってしまった放課後の見回り。

 今日は体育館の方まで行くようだ。

 僕に選択肢は無いため、何も言わずに席を立つと、落花は嬉しそうに楽しそうに鼻歌を歌いながら、手を引いて歩き出した。

 今から死者を祓いに行くと言うのに、呑気なものだ。

 まるでピクニックに行くようなテンションである。


「機嫌がいいね」


「あ、気づいた?またスルーされるかと思った」


「スルーすればよかったって後悔してる」


「やだやだ、聞いてよ〜!」


 落花の前に出て、先を歩こうとすると、繋いでる手を引っ張られ左右に振ってくる。

 それに合わせて、体も揺れる。


「…で、ご機嫌な理由は?」


「えへへ、それがねぇ、凪ちゃんが今度一緒に遊びに行こって誘ってくれたの!」


「白峰が?

 良かったね」


「うん!遊びに行くなんて初めて!どんな服装がいいと思う?あ、メイクとかした方がいいのかな?私、リップくらいしかしたことないよ?」


「それも白峰と相談しなよ」


 思ったよりも浮かれているらしい。

 これまでの人間関係からしたら、この浮かれ具合も納得だ。

 それに、いつの間にか名前呼びになったようで、距離の詰め方が流石としか言いようがない。


「そうだ!響くんも、今度一緒に出かけよ?」


「やだ」


「なんで!?え、というか即答?もうちょっと考えてよ〜!」


 さっきよりも勢いよく腕が振られる。そろそろ取れそうだ。


「ただでさえ、毎日一緒にいるのになんで休みの日まで落花に会わなきゃなのさ」


「千鶴ね!

 え〜?なんでって、そりゃ会いたいからでしょ!

 私は毎日でも会いたいな!」


「三日に一回くらいのペースがいい」


「いや、少な!?」


 そんなことを話しながら歩いていると、体育館に着いた。

 この学校の体育館は2階にあり、1階には剣道場と柔道場、そして中ホールがある。中ホールは、学年の集まりとかでよく使われている。

 体育館の扉から落花が中を覗き、中の音を聞くと、バスケ部とバレー部が部活をしているようだ。

 ボールが跳ねる音、打つ音が聞こえ、それに混じり生徒たちの声も聞こえる。


 体育館を使う部活は多い。

 そのため、時間で交代だったり、日替わりだったりする。

 使えない日は、教室でできることをしているらしい。


 …ナイッサー


 …もういっぽん


「多いね」


「そうだね」


「ぎゃ!え、今ボールが顔に…首…」


 要らない情報だが、落花は実況能力も低いようだ。単語しか言ってくれない。本当に要らない情報だ。


 大方、バスケ部だかバレー部だかのボールが死者の頭に当たり、首から落ちてしまったのだろう。

 時折聞こえる鈍いゴンッ、という音は頭と床がぶつかった音だと思う。

 衝撃映像過ぎて、見てしまった落花にはドンマイという他ない。

 こればっかりは、見えなくてよかった。

 聞こえるのもやばい音しかないけれど。


「あ…」


「え?」


 ぐしゃりとトマトが潰れたような音が響き渡る。

 落花も僕も動きを止めた。

 そして、落花は流れるような動作で、死者を祓ってしまった。無駄な音が一切しなくて思わず拍手を送りたくなるような動き。

 なんだったかと言うと、いつもうるさい落花が黙るほどの衝撃的な光景だったと言うしかない。



「もうやだ…」


「うん、なんか、お疲れ様」


「今だけは、響くんの見えないのが羨ましい」


「今日のは酷かったね、見えないから詳しくは分からないけど」


「絶対夢に出てくるよ、これ」


 僕たちは体育館を出て、1階に降りてから外に出た。

 近くの木の下にしゃがみこんでしまった落花の背を優しく撫でながら、軽い雑談をする。


「祓い屋でも、無理なんだ」


「祓い屋でも、私は普通の女の子です」


「それは確かに」


 祓い屋の時点で、普通とはかけ離れている気がするが、本人が言うならそうなのだろう。

 普通の女の子が見たら号泣物の光景だったに違いない。


「泣かないんだね」


「泣いたら慰めてくれるの?」


「流石に泣いてる人に対して邪険にしないけど?」


「響くんなら、邪険にしそう」


「君は、僕にどんな印象を持ってるのさ」


「君じゃなくて、千鶴だってば…」


 相当応えたらしく、いつもの覇気がない。

 仕方がないから、背を撫でていた手を頭の方に移動させる。

 ビクリと驚いたらしく、肩が跳ね、困惑と喜びと羞恥の音が入り交じったような、何ともうるさい音がした。


「うるさい」


「なんにも言ってないもん!」


 しばらくそうしていると、落ち着いたようだ。

 遠慮なく、僕の方に身体を預けてくる。


「ねぇ、響くん。なんで目が見えないの?」


「さあ?」


「さあって、知らないの?」


「気づいたら見えなかったから、なんでとか知らない」


「え!?何それ怖い、病院とか行った?」


 無遠慮に頬を掴む落花は、多分僕の目を覗き込んでいるのだろう。

 呼吸の音がいつもより近い

 心臓の音が少し早い

 まつ毛が長いのだろう。一定の間隔でパサりと音がする。

 髪が肩から落ちる音がする。

 こんなに近いと、落花の音が沢山聞こえた。


「綺麗な音だね」


「へぁ!?いきなり何!?」


「いきなり顔を掴んできたのはそっちなんだけど」


 そういうと、パッと手が離されズサササ…と後退りをされた。

 音が遠くなったことが、少しだけ気に食わなかった。

 だけど、先程までよりもずっと早い心音が聞こえる。


「ねぇ、心臓の音早くない?大丈夫?」


「だ、だだだ大丈夫!大丈夫だから!」


「いや、でも…」


「もう、聞かないで!」


 なんて無茶を言うんだろうか。

 聞かなければ生活すら出来ないというのに。

 結局、その後すぐに解散した。もう面白いほど、挙動不審の落花は、途中小石につまづいて転びそうになりながら、家へと走り帰って行った。

 僕はその様子に首を傾げた。


「変な奴…」

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