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生者の音と死者の音  作者: 狐久里 あみ
死者の音は静寂に似ている
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11.死者の音は

次の日、落花の挙動不審は落ち着いていなかった。


「お、おは! よう! 響くん!」

 

「……おはよう、声裏返ってない?」


「気のせいだけど!?」


 授業中は集中できていないようで、何度か先生に注意されていた。

 むしろ、注意され過ぎて心配すらされていた。


「千鶴ちゃん、体調悪い? 保健室行く?」


「大丈夫! 全然元気だよ!」


 白峰も気になったようで、授業が終わるたびに千鶴の席に来ていた。

 いつの間に仲良くなったのか、学年首席の榊と双子である水瀬達も落花の周りを囲んで話している。

 水瀬の姉なのか妹なのか分からないが、たまにチラリとこちらを見ていたのは、知っている。


 


「本当に大丈夫か?」


「大丈夫じゃない……凄く痛い」


「まさかドッジボールで、顔面当たるとは……」


「鼻折れなくて良かったねぇ?」


「ねぇ、本当に折れてない!? 私のお鼻健在?」


「千鶴ちゃん、落ち着いて。ちゃんと健在だよ。ちょっと赤くなってるけど」


 4時間目、授業は体育だった。

「昨日の今日で、体育館に行くなんて……」と落花は独り言を言っていた。

 確かにそうだなと、小さく頷いた。

 授業内容はドッジボール。僕は端の方に座り、完全に観戦モード。やる気は全くない。そもそも見えないので出来ないし……


 ボールが跳ねる音

 女子生徒たちの悲鳴

 男子生徒たちの叫び

 先生が鳴らすホイッスルの音

 靴のキュッとなる音


 混じって聞こえる死者の声。

 鈍いゴンッという音は、今日も聞こえる。

 昨日祓ったはずだが、別のやつらしい。学習能力が無いのか、それとも首が落ちるのを楽しんでいるのか。後者だとしたら、かなり悪趣味である。

 楽しそうに遊んでいる音の中から、落花の音だけを拾う。

 かなり大変だが、結構な時間一緒にいるため、覚えてしまった。どんなにうるさい状況でも、きっと聞き逃すことはないだろう。


 落花は身体能力が高いようで、男子生徒と一騎打ちになっていた。

 落花を応援する声と、男子生徒を応援する声が入り混じる。

 二人の荒い息遣いが聞こえた。


「頑張れ……」


 小さく呟いた声が届かないことはわかっている。

 でも、自然と口から漏れてしまった。


 身体にボールが当たる音が聞こえ、その後に床へ落ちて跳ねる音……

 そして、歓声………


 初日が嘘のように、落花はクラスに馴染んでいた。

 すごいすごいと持て囃すように落花のことを褒めている。そんなクラスメイトたちに驚きながらも、嬉しそうに、鳥が大空を楽しそうに飛んでいる時の羽のような柔らかい声で、答えていた。


 少しだけ、クラスメイトたちが……落花が羨ましくなってしまったのは、仕方がないと思う。


 第2回戦も激闘だった。

 今度は、落花と女子生徒の二人とまたもや男子生徒が残っていた。

 そして、落花は女子生徒を守ってボールを取りに行ったのはいいのだが、まさかの顔面キャッチ。

 バチンと叩かれたような高い音が体育館に響き渡った。

 今度は歓声ではなく、悲鳴。

 ドッジボールのルールとしてはセーフ。だが続行出来るかと言われれば否だ。

 男子生徒は潔く謝罪をして負けを認めた。



「うぅ、痛い……」


「凄い音だったもんね」


「もうね、鼻折れたかと思った。本当に私の鼻ついてる?」


「ごめん、見えないから分からないけど、首が落ちた音しなかったから大丈夫だと思う」


「首じゃなくて鼻の心配してるんですけど!? あと、首落ちるのは嫌!」


 朝のが嘘のように、いつも通りだ。

 顔面に当たったせいで、頭も正常に戻ったのだろうか?


「もう避けないんだ」


「うぐっ……その節は申し訳なく」


「別に怒ってないけど」


「でも、嫌なことしちゃったし」


 落花も落花で気にしていたようだ。

 本当に気にしていないけど、なんとなく意地悪をしたくなった。


「うん、嫌だった。寂しかったなー」


 微妙に棒読みになったのはご愛嬌だ。

 慣れないことはするもんじゃないな。

 さて、どんな反応をするのかと期待をしていたのだが、鐘が鳴ったような、鈴が鳴るような音が聞こえてきた。

 それも、結構な勢いで鳴らした時のけたたましい音。

 

「……なんでそんなに嬉しそうなの」


「待って! 聞かないで、本当に今は不謹慎すぎるぅ……」


 段々と小さく萎んでいくような声量だった。

 意地悪は、意外と? 成功したようだ。

 だけど、思ってた反応ではないので、僕も困る。

 じーっと、多分落花の顔ら辺を見つめていると、唸るような声が聞こえる。

 まるで死者のような声だ。恐ろしい……


「うぅ……だって、寂しいって! 寂しいって言った!」


「言ったけど、喜ばれるようなことじゃない」


「そうなんだけど! でもさ、寂しかったってことは、私が、その、恋しかったってことで良いんでしょ……?」


 僕は落花の言葉を理解するのに時間がかかった。

 いや、そうはならないのでは? 必死に考えるが、どんな言い訳をしても、そういうことに辿り着いてしまう。

 僕は勢いよく顔を背けた。なんだか、これ以上落花の方を向いてはいけない気がして……


「え、なんで顔背けるの? こっち見て? おーい?」


「うるさい」


「そんなこと言わないでよ! で、そういうことでいいの? いいんだよね?

 私と一緒に居れなくて寂しかったんだ! そうなんだ!」


「違う」


「えー? じゃあ、どういうことなのさ!」


 本当にうるさい。

 こいつは今が昼休みだということを理解しているのだろうか?

 結構見られているのに、気づいているのだろうか。

 だけど、教えてなんてやらない。

 せいぜい、後で恥ずかしい思いをすればいい!

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