12.死者の音は静
「ねぇ、響くん」
「なに?」
「この状況は、何なんでしょうか?」
「僕も知らない」
今日は、旧校舎と新校舎を歩き回っていただけだった。
会話はない。でも、その静かさが嫌じゃない。
落花は静かにしているという頭がないのか、楽しそうに鼻歌を歌っていた。
それすらも、嫌いじゃなかった。
時々、死者が何人居たのかを当てるゲームをしながら歩いていた。
前は生者と死者の区別がつかなかった癖に、今じゃドヤりながら当ててくる。
「正解」というと、嬉しそうに鈴の音を鳴らしながら優しく祓っていく。
祓い屋なんだから、それくらいでドヤるなと言いたいが、成長しているのを知っているので心の中に留めておく。
珍しく、校庭まで出てきた。
ボールに混じって首が転がってくるのにはまだ慣れないようで、時折悲鳴をあげながら、即座に祓う。その様子に少し笑うと、むくれたように肩をぺしりと叩かれた。特にダメージはない。
そして、校庭の方からぐるっと中庭に回ってきての、冒頭の言葉だ。
死者が居た……のだが、いや、これはなんと表現すればいいのだろうか?
死者は死者なのだが……
にゃーん?……
ちゅん……
わんっ!……
動物なのだ。
確実に生きてはいない。
「か、かわいー!!」
「なんでこんなに居るの?」
「響くん! この子たち可愛い! 飼っていい?」
「ダメに決まってるでしょ」
「なんで!? ちゃんとお世話するから〜!」
そういう問題ではない。
動物霊が学校に居るなんて、珍しい。
滅多に聞かない音に、眉間に皺が寄るのが分かった。
動物は少し苦手……人と違う音がするから。
心音は人よりも速い。
歩く時は、爪が地面とぶつかる音が聞こえる。
声だって、高かったり、低かったり、周波数というのだろうか? それが違う。
不快ではないのだが、落花のように純粋に喜ぶことはできなかった。
「ねぇ、なんでこんな所にいるの?」
この問い掛けは、僕へではないことは分かった。
だが、落花よ。相手は動物だ。人間の言葉が分かるはずもない。分かったところで、答えなど返ってこない。
そんな無粋なことは口にせず、黙って聞いていた。
カー!……
すると、元気の良い返事が聞こえた。
分かっていたことだが、返ってきた返事はカラスの鳴き声。日本語ではなかった。
どこかの魔法使いのように、動物言語を学んだことはない。
こんな時、アニメや漫画の世界なら、こういう動物たちは人間の言葉を話したりするのだが、そんなことも起こらない。
「ふむふむ……
ねぇ、響くん」
「……なに?」
口で『ふむふむ』なんて言う人を初めて見た……いや、聞いた?
ツッコむべきか迷ってから返事をする。
もしかすると、祓い屋という特殊な家業では動物の言葉も勉強するのかもしれない。
「なんにもわかんない!」
「当たり前でしょ。何言ってんの?」
そんなファンタジーなことはなかった。
いや、分かっていたことだ。期待なんてしていない。これっぽっちも……
「で、どうしよっか?」
「どうもこうも、早く祓ったら?」
「えー!? こんな可愛い子たちを!?」
「君、何で祓い屋やってるの?」
見えないので、可愛いかどうかは正直分からないが、可愛いという理由だけで祓うのを渋るのはどうかと思う。
「正直な話、動物霊って時間が経つほど面倒だと思うよ」
「うぐっ……正論パンチ。わかってるけど〜……」
動物は、基本的に本能で生きている。
そのため、霊になった後、凶暴化しやすい。それも僕が苦手な要因だ。
正直にぶっちゃけると、うるさいし、誰彼構わず襲うから本当に困る。
自我を無くしたりした人間の死者も面倒だが、それの比ではない。
本当に早く祓ってほしいのだが……
「えへへ、可愛いねぇ〜」
祓い屋本人がこの調子だ。
デレデレと、嬉しそうな音を出している。動物霊もうるさいが、落花もうるさい。時折、ドンドンパフパフ! という厄介極まりない音も聞こえる。
動物霊は全部で21匹。多すぎる……
猫が6匹、犬が3匹、雀が2匹、カラスが1羽、狸が1匹、蛇が2匹、蛙が2匹、ハムスターが1匹、うさぎが1匹、金魚が2匹……
なんで金魚が居るかは分からない。どうやってこの陸地に存在しているのかも見えないから分からない。
「ねぇ、金魚居るよね?」
「え? 金魚?」
「え、居ない? 音的に魚で、小さめだから金魚かメダカなんだけど……」
「いやいや、響くん。ここ陸地ですよ? 居たらこわ…」
居たんだろうな……
落花の途切れた言葉で理解した。
「な、なな、なんで金魚いるの!? え!? 水! 響くん、水!」
「水よりも祓ってあげなよ……」
「あ! 確かに!」
ポンコツすぎる……こいつをどうすればいいのだろうか。
だが、名残惜しそうにしながらも、死者たちと同じように優しい声で、それでいて芯の強い音で祓っていく。
数が多いからか、いつもより多めにパラパラと、花火が終わった時のような音が聞こえる。
優しい音。この音が好きだと思った。
そして、動物霊たちは一様に、まるで『ありがとう』と言うかのように、優しく鳴いていた。
「うぅ……私のもふもふ……」
「どう考えても落花のではないよ」
21匹を祓い終わった落花は、分かりやすく悲しんでいた。
泣いてはいないようだが、寂しい風の音のようなささやかな音が聞こえる。
「それで、金魚はどこに居たの?」
「私の足元……」
つまり地面にぺたりと落ちていたようだ。
死んでるからといって、その扱いはどうなのだろうか?
というか、どうやってここまで連れてきたのだろうか?
まさか咥えてきたとか……?
謎が謎を呼んだので、この考えを頭の中から追い出す。
考えたって仕方がない。まずはこの頭からキノコが生えそうなほどジメッている落花をどうにかしなければならないのだから。
(あぁ……切実に帰りたい……)




