05.音が聞こえ
静かだ…
突き放した自覚はある。というか、突き放そうと思って、言った。
表情は分からない。怒っているのだろうか?それとも悲しんでいるのだろうか?音がしない。だが、何も思っていないはずがない。
沈黙が耐えられず、口を開こうとした時。小さな声で、「そっか」と呟かれた声を聞いた。
「情を持つだけ無駄…か………厳しいな…困っちゃう」
あはは、と乾いた声。
「響くんは、お父様やお兄様たちと同じことを言うんだね」
「……」
「よく言われるの、情を持つなって。分かってるけど、難しい。でも、死者に同情して生者との区別がつかなくなってたら、意味無いよね」
「それが分かってるのに、なんで同情するの?」
「…良い死者もいるから……かな…?」
生者ならまだしも、死者にも善人と悪人がいるのだろうか?落花だからこそ、わかる感覚なのだろう。
音だけで判断している自分には、無い考えだった。
死者を表す言葉はいくらでもある。
哀れな存在。
可哀想な存在。
誰にも気づかれない存在。
一人ぼっちの存在。
どれもこれも、マイナスな言葉ばかりだった。
「落花なら、死者をなんて表す?」
「え、あ、名前!」
「…君は、死者をなんて表す?」
「ごめんって!名前呼んで!嬉しい、ちゃんと覚えてくれてたんだ!
それでえっと、なんて表す?うーん?なんて、なんて表すかな?」
ただ苗字を呼んだだけなのに、大袈裟に喜ぶ様子に呆れてしまう。
そしてうるさい。テンションの落差が激しすぎる…
「私なら、同じ生きてる存在って、表すかな?」
「……死者に生きてるって使うなよ」
「え!?ダメ?じゃあ、まだ生きてたかった存在」
「…変なの」
自分で聞いておいて、変な気分だ。
死者を祓う存在が、死者に対して生きてると言うんだから。矛盾にも程がある。
ムズムズして落ち着かず、椅子から立ち上がると、落花から焦ったような声がかかる。
「え、帰る?帰っちゃう?まだ話そ?」
「帰らないから、こっち来て」
見えているかのように席と席の間を通り、窓側へ行き、窓を開ける。
下にはグラウンドが広がっているのだろう。見えないから、音だけで判断する。
「おー!サッカーしてる!」
楽しそうな声が思ったよりも近くで聞こえ少しだけ驚いた。
距離が近い…
人付き合いが苦手な癖して、距離感が近いのはどうなんだろう?
考えても仕方がないことは、一旦頭から追い出しておく。
「ここから見える死者は何人?」
「え?こっから?えーと、3…?」
「5はいるよ」
「え、嘘…」
「嘘ついて何になるの」
「どこ?てか、私が死者だと判断した人は本当に死者?」
指を指して教えることは出来ないから、音だけを拾って教えていくと、小さな声で「うそん…」「え、あの子も死者?」って呟いてる。
本当に祓い屋なのだろうか?少し不安になってきた。
「響くん、どうやって見分けてるの?」
「見えてないから、聞いてる」
「あ、そっかごめんね。それで、どうやって聞き分けてるの?」
と言われても、説明が難しい。
音の違いなんて説明しても、ピンとくる人は少ないと思う。例えば、絶対音感を持ってたら話は変わるけど…
「…木を叩いた時の音と、金属を叩いた時の音って違うよね」
「?うん、違うね…?」
「そういうこと」
「……いやいや、どういうこと?」
伝わらなかった。いい説明だと思ったが、落花は察しが悪いようだ。
自分の説明の悪さは棚に上げておく…
「うーん、生きてる音は生きてるなってわかる音で、死んでる音は死んでるなってわかる音なんだよ」
「響くんって、説明下手だね」
「君に言われたくないよ」
落花の説明も大概だ。
ここに第三者が入れば、五十歩百歩と言われると思うが、居ないので関係ない。
「よく分からないけど、凄いのはわかったかも?」
「……」
「その顔信じてないよね?わかったってば」
どんな顔をしていたのか分からないが、多分疑わしい目をしていたのだろう。実際疑わしかったので。
落花の音が、木の葉が風で揺れるような優しい音に変わった。
「でも、本当にすごいなぁ…なんで教えてくれたの?」
羨ましいと言うような声色で、問いかけてくる。
なんで?
確かになんでだろうか?
教える必要は、どこにも無かった気がする。ただ、何となく…
「君は生きてるんだから、死者に感情を割くより、生者に関心を持った方がいいと思ったから」
暫しの沈黙の後、吹き出すような音が聞こえ、眉を顰める。
声を出して笑う落花は、ツボったようで笑いから戻って来れないみたいだ。
「あー!可笑しいの……
確かにそうだね。生きてるんだから、生きてる人を見ないと。死者については、死んでから考えればいっか」
「それはなんか違う」
「え!?違うの!?」
微妙にズレてる落花の言葉に、ツッコミを入れる。
驚いたように聞か返されるが、もう無視だ。
こんなに話したのは久しぶりだし、疲れたのだ。
だが、なんにせよ、元気になったようでよかった。




