04.音が聞こ
『祓い屋』
それは、妖怪、悪霊、呪いなどの怪異現象を退治・解決することを専門とする、非公式または裏稼業の除霊師や退魔師のことである。
なんて、wikiのような説明文が頭の中に浮かんだ。
そして、落花を見て首をひねる。「こいつが?」と。
「って、いきなり言われても困るよね…でも、嘘じゃなくて、本当で…あ、ほ、他の人には言わないで欲しいの!なんでって言われると困るけど、ば、バレたくない、から?笑われたりとか、嘘つきとか言われても困るし、あ、でもなんで君に言ったのかって不思議になるよね…?あれ?な、なんでだろう?なんか、言わなきゃって、それで、それで……」
黙っていると、落花はつらつらと言い訳を並べ始めた。
もはや早口だし、こっちを見ていないし、とにかく長い。
あまり内容は理解できなかったが要約すると、誰にも言わないで欲しいという事だろう。
「…でも君のことは信用してるというか、なんか他の人とは違うなって思うというか…」
「とにかく誰にも言わなきゃいいんでしょ?」
「…!うん、そう!」
「言ったところで信じてくれるわけもないからね、いいよ」
「そ、そうなんだけど、はっきりと言わなくても…」
そこまで言って、言葉が途切れる。
シン…とした音に混じって、困惑した音が聞こえた。
「?君は、信じてくれるの?」
「変なことを聞くね。目の前で君がしたことを見た…聞いたんだから信じるしかないでしょ」
「あ、そっか」
「それに、嘘の音は聞こえないから」
人が嘘をつく時は案外わかりやすい。
どんなに取り繕っても、音が違えば一目瞭然だ。
落花の言葉には、一切の嘘は含まれなかった。それ以上の言い訳はあったが、それだけ。嘘をつくという発想すらないのではないかと思うほどだった。
理由が分かったのだから、もうここに用事はない。
踵を返して帰ろうとすると、またもや腕を掴まれた。
「待って!」
「…なに?もう用事は無いけど」
「え、無いの?他に聞きたいこととか、なんか、他にあるじゃん!?」
「興味無いよ」
「嘘でしょ…」
と言われても、本当にもう聞きたいことはない。さっさと帰りたいからこの腕を離して欲しいのだが、離してくれない。
腕を思いっきり振っても離す様子は無いし、むしろ、力が強くなっている気さえした。
「ねぇ、離して」
「ほ、本当に聞きたいこととかないの?なんで祓い屋やってるの?とか、どんなことしてるの?とか、知りたくないの!?」
「興味無い」
バッサリと切り捨てる。
何度も言うが、興味ないのだ。落花がなんで祓い屋をやってるのかも、どんなことをしてるのかも知ったところでメリットが無いのだから、聞くだけ無駄。
だと言うのに…
「やだやだ、聞いて!お願い聞いて!興味なくていいから、聞いてよー!」
何なんだコイツ…
「愚痴でいいから聞いて、誰にも言えないし、誰にも相談できないし、それどころか普通の子達とはちゃんと話せないし…!君だけなの!お願い!まだ帰んないで!」
本当に何なんだ…
「とにかく、手を離して……帰らないから」
そういうと、渋々離れて行く。少しの間だったはずなのに、掴まれていた感覚だけが腕に残っている。
それが少し気持ち悪くて、自分の手で擦りながら席の1つに腰掛ける。
「それで?」
「?」
「話すんでしょ?座りなよ」
たった一言で、嬉しそうな音に早変わり。
さっきまで悲痛な音がしていたのに、その音なんて元から無かったかのように消え去った。
「あ、あのね、私ね……」
聞いててわかったが、落花のコミュニケーション能力はとても低いらしい。
要領得ないし、会話って知ってるか?という感じである。自分が言えたことではないが…
それでも、何とか聞いた話を整理すると、こういうことらしい。
家が代々、祓い屋の名家であった。
幼い頃から英才教育を受けていたせいで、生者と死者の区別がつかなくなってしまい、朝のようにクラスメートとの関わりが下手くそなのだという。
しかも…
「祓うのは、ちょっと苦手なの。解放するとか、成仏させるってわかってるけど、それって私たちの都合だし、彼、彼女たちにとって、それが救いになるのかも怪しいから…」
等と、完全に死者に同情している始末。
だから、生者と死者の区別がつかないのではないかと思うが、口には出さなかった。
「君…あ、えっと名前なんだっけ?」
「……響」
「うん、ありがとう。響くんは、死者が分かるんだよね?
祓うって、どう思う?」
「どういう質問それ。死者が分かるだけで、祓うとか出来ないから答えられないんだけど」
「そ、そうだよね……えっと、じゃあ、もしも響くんが死者になったとして、この世界にまだ未練がある。その時、私たち祓い屋の都合で祓われたらどう思う…?」
ヒヤリとした。
どんな設定だ。しかも未練がある前提。
こっちの都合を無視した行動、そんなことをされたら…?
「別になんとも思わない」
「え?」
「その設定では僕は死んでるんだし、未練があろうとなかろうと、祓われたあとなんてなんの感情もないでしょ?」
死者に感情があるかどうか。
答えは分からない。確かに死者の都合を無視して祓うなんて!と怒る輩も居るかもしれないが、既にこの世に存在しないのだ。怒ったところで、泣いたところで、変わることのない事実なのだ。
「そんな相手に、情を持つだけ無駄だと思うよ」




