35.生者の音と死
「そっか……、響くんは年下だったのか」
千鶴は、わざと明るい声を作り、響を見て笑った。そうでもしないと、泣いてしまいそうだった。
響の名前は、入学して間もなく不慮の事故で亡くなった高校1年生の子の名前と同じだった。
千鶴は、なんとなくそうなんじゃないかと思っていたが、いざ現実を目の前にすると、くるものがあった。
「いや、年下ではないけど」
「え〜? だって、去年亡くなったって……あ、同い年か」
「やっぱり、千鶴って馬鹿だよね」
「普通に酷い!」
死者の体は、死んでしまった時で止まる。響は高校1年生で亡くなったため、千鶴と同じくらいの身長をしていた。
生きていたら同い年だった。そう考えると、今こうして同じ目線にいることが、千鶴には少し不思議だった。
放課後、いつも通り一緒に話している。
ただ隣に座って、たわいもない話をしていた。
「響くんの未練ってなに?」
「……いきなりだね」
話のネタが尽きないのか、千鶴はポンポンと響に質問を投げていた。その途中、ふと気になったことを口にした。
「前に答えたでしょ?」
「あれは、かもだったじゃん! かもしれない運転じゃなくて、これ! ってやつないの?」
「なんだ、かもしれない運転って……」
呆れたような声を出しながら、響は考え込んでいた。
数分考えこんだ末、答えが出たのか、響はゆっくり顔を上げた。
「……友達、作りたかったかも?」
「また、かも……でも、いいね! 友達……あれ? 私は? 友達だよね?!」
「はいはい、友達友達」
答えを聞いて詰め寄る千鶴を、響は軽くあしらう。
「でも、他にも友達欲しいよね!」
「いや、別にいらないけど……」
「欲しいよね!」
「……はい」
圧が強い。響は、見えない目を逸らしながら小さく頷いた。
死者よりも生者の方が怖いというのは、こういうところなんだろうな……と、響は思った。
そのやり取りの後、千鶴はしばらく黙って響を見つめていた。
次の日、千鶴は凪たちを集め、響のことを話そうとしていた。
「千鶴ちゃん、どうしたの?」
「うん、えっと、あのね……」
だが、なかなか話を切り出せないでいた。
なんて説明すれば伝わるのか。そもそも、信じてもらえるのかすら怪しい。
モニョモニョしている千鶴を、凪たちは不思議そうに見つめている。
「千鶴ちゃん、なにか困ってる?」
「嫌なことあった?」
耐えきれなくなった双子が千鶴に問いかける。その声は、心配そうだった。千鶴は慌てて首を振る。
だが、困ってないとは言いきれなくて、また口ごもってしまった。
「千鶴さん、そのまま言っていいよ。なにか困ってるんだよね? なら、頼ってよ」
澪の言葉に、全員が頷く。
「千鶴ちゃん、何が出来るか分からないけど、頼って」
凪は、千鶴の手を取ってニコリと笑う。その笑顔で、怖さも緊張も吹き飛んだみたいだった。
「……あのね、私」
千鶴の説明には分かりづらい部分もあった。だが、全員何も言わずに耳を傾けていた。
千鶴は、自分が祓い屋なこと、この学校に来てから話していた響のことを話した。
「つまり、千鶴ちゃん大変だったんだね」
「え、いや、確かに色々あったけど、大変だとは思っていなかったよ」
千鶴は少しだけ笑った。
「響くんがいたから楽しかったよ、すごく」
目を伏せながら優しく微笑む千鶴を、凪は抱きしめた。
「わ、え?」
「ごめんね、なんか抱きつきたくて」
「え、ずる〜い! 私も!」
「私もする!」
凪に同調するかのように、双子も千鶴に抱きつく。その様子を澪は眺めていた。
「澪くんもおいで〜」
「いや、遠慮しておくよ」
澪は朔に呼ばれたが、キッパリと断った。
あそこに自分が入るのは解釈違いだ……と、心の中で思いながら。
ひとしきりぎゅーぎゅー抱きついたあと、凪は千鶴に問いかける。
「千鶴ちゃん、それで、私たち何すればいいかな?」
「え、あ、待って! そのまえに、さっきの話信じてくれるの?」
突拍子もない話だということは、千鶴も理解していた。だから、質問などが来ると思っていたのに……
「え、千鶴ちゃんって嘘つけないでしょ〜?」
「素直だもんね」
「祓い屋という職業は聞いたことあるから、嘘だとは思わないかな」
思わぬ全員の返答に、千鶴は驚きを通り越して、もはや無表情になっていた。
それでも、しばらくすると口元が緩んだ。
「千鶴ちゃん、大丈夫だよ」
凪は優しい顔でそういう。
「ちゃんと、信じるよ」
その言葉に、千鶴の目の奥が熱くなった。涙で潤み、視界がぼやける。
けれど、千鶴は必死に泣くのを堪えた。
千鶴は、四人の顔を順番に見た。
「あのね、みんな。響くんと、友達になって欲しいの」
その声は、少し震えていた。




