↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生者の音と死者の音  作者: 狐久里 あみ
生者の音と死者の音
34/35

34.生者の音と

月曜日、千鶴は寝不足のまま学校に登校していた。

 あくびをしながら教室に入り、声をかけてくれる友達に笑顔で手を振り返していた。

 席に着く。いつもは既にいるはずの響が席にいないことに首を傾げながら、昨日父親に聞いた話をまとめていた。

 家でもまとめていたようだが、時間が足りなかったらしい。


 それもそのはず、あの後千鶴はご飯を食べてから父親の書斎へと向かった。

「詳しくは話せないけど……」と前置きをしてから話し始める千鶴に、父親は真剣な表情で耳を傾けていた。

 説明下手な千鶴の話を理解するのには、相当骨を折りそうだが、流石は父親。ものの数秒で理解し、一つ頷いてから、


「今日はもう遅い、明日起きたら来なさい」


 と言い、千鶴を部屋へ返した。


 朝、千鶴が起きると、既に父親は起きており、どこかへ電話をかけていた。


「おはようございます、お父様。どこへ電話をかけているのですか?」


「おはよう、千鶴。昨日お前が話してくれたことを知りそうな者にな」


 そう言う父親は、また電話をかけている。

 すると、来客を知らせるベルが鳴った。母親が出ると、すぐに来客を伴って戻ってきた。それを皮切りに、数分おきに一人のペースで、どんどん人が集まってくる。

 父親の友達の妻の友達の友達の旦那の母親……という、もはや他人では? というような人まで家にやってきた。


 集まったのは、祓い屋、神職、拝み屋、陰陽師、除霊師など、その道に詳しい者たちだった。

 千鶴が疑問に思っていた『事故の影響は、死後にも適用されるのか?』について、朝まで話し合いが続いた。


 結果は『無きにしも非ず』という、なんとも微妙な答えだった。

 仕方がないと言えば、仕方がないのだと、千鶴は思った。死者に関わり、知ろうと思うことなど、ほとんどない。だから、響の事例はとても珍しいものなのだった。


 ここまでまとめた千鶴は、机の上に体を投げ出すように伏せた。ホームルームが始まるまで、仮眠を取ることにしたようだった。騒がしい教室だが気にせず目を閉じた。


「……る」


 誰かが呼んでいるようだが、千鶴は眠気が覚めず、目を開けられないでいた。小さく身動ぎ、少し唸る。


「……づる、……千鶴、起きて」


 目を薄く開くと、そこに居たのは響だった。

 響は、ため息を吐きながら、もう一度「起きて」と言った。

 顔を上げて辺りを見渡すと、既にホームルームが始まっていた。

 慌てて顔を上げると、響が「何度も起こした」と、少し不貞腐れたように言った。千鶴は小さな声で「ありがとう」と告げると、響は静かに席に座った。

 自身が死者であることを理解してから、響の行動が自由すぎて、千鶴は思わず笑ってしまう。

 いつもなら、席に座りながら起こしてくれるのに、今日は千鶴の目の前に立っていたのだ。生者ならば怒られるが、死者なので全く問題ない。死者だからできることだった。


「ありがとう、響くん」


「いいけど、寝不足?」


 千鶴は響の言葉に苦笑いを返す。なんて言えばいいか思いつかなかったようだ。

 特に気まずさもなく会話を続ける。


「そうだ、あのね、聞きたいことがあって」


「なに?」


「響くんの名字ってなに?」


「……すごい今更だね」


「返す言葉もありません……」


 今更だと言われようが、千鶴は知らなきゃいけなかった。答えてくれるかドキドキしながら響を見つめていると、バチッと目が合った。響は見えていないと分かっているのに、千鶴の胸は高鳴った。


「……うるさい」


「何も言ってないですが!?」


 いつも通りのやり取りに、響は少しだけ笑っていた。

 そして、千鶴を見て、


音無 響(おとなし ひびき)だよ」


 と言った。


 千鶴は泣きそうになった。そして同時に、「やっぱり」と思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。