33.生者の音
響は学校の屋上で、星を見上げていた。
だが、目が見えない響には一つも星が見えなかった。ただ、真っ暗な世界が広がっているだけ。
目を閉じでも開けても、見える世界は変わらない。
いつから見えなくなってしまったのかを、響はずっと考えていた。
「……元々、見えなかった。それはないか」
記憶がある。響には、生前の断片的な記憶があった。
ただ、詳細なことは分からない。何故か記憶が飛んでいたのだ。死んだ時、頭に強い衝撃でも受けたのかもしれない、と本人は呑気なことを考えていた。
生前の記憶。
それは、アニメや漫画のこと。
小学生の頃のこと、中学生の頃のこと。
家族のこと。
この学校のこと。
パズルのピースのように、バラバラに思い出される。
それを一つ一つ組み合わせようとするが、足りないピースが幾つもあった。
「めんどくさ……」
投げやり響の言葉は、暗闇に溶けていった。
考えることを放棄した響は、ゴロリと寝転がる。響の耳に聞こえる音は、とても静かだった。
生者も死者も、眠りにつく。どういう訳か、この学校の死者たちの大半は、夜にはいない。居るのは、彷徨って辿り着いた奴ばかりだ。言葉を話すことはなく、ただ、唸り声や泣き声を出しているだけ。
昼間よりもよっぽど静かだった。
「千鶴、何してるかな……」
ふと、千鶴のことを思い出す。
響に悪気がなかったとはいえ、悲しませてしまったのは事実だった。
「月曜日、来るといいけど……」
前のように避けられたら、と考えるが、頭を振りその考えを追い出す。
その時はその時と割り切ってしまえば楽なのだが、響にはできなかった。それくらい、千鶴という存在は、響の中に居座っていたのだ。
「双子の方かと思った……」
まさか、凪が千鶴に言うとは思わなかったのだ。
言うならば、双子のどちらかが言うのだと思っていた響だが、委員長の性格を思い出し、無くはない可能性だったと、改めて気づいた。
よく周りを見ている凪が、千鶴に視線を向けていたことを、響は知っていた。もちろん、千鶴が響と話しているところも見ただろう。「誰と話しているのか?」と、そう思ってもおかしくはない。
だが、その言葉だけで、響が死者だと気づいてしまった千鶴も千鶴だ。
言動は馬鹿だが、頭が良い千鶴。初めから違和感があったと言うから、侮れないな、と響は思った。
「お願いごと、言いそびれた」
それは、千鶴と約束していたテスト後のご褒美。
実際、響はテストを受けていないため、無効と言われればそれまでだが、千鶴には特に何も言われていなかった。
ただ単に響のことが衝撃過ぎて、忘れていた可能性もある。
「あんな音させるんだから、このお願いは怒られそう」
少し笑いながら、そんなことを言う響。そのお願いが何なのかは、響本人にしか分からなかった。




