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生者の音と死者の音  作者: 狐久里 あみ
生者の音と死者の音
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32.生者の

家に戻った千鶴は、先にお風呂に入ってから、図書館で調べたことを部屋でまとめていた。

 名字を知らなくても、できることをしたかったのだろう。千鶴の部屋には、紙が散乱していた。

 途中で訪れた千鶴の兄たちや母親は、驚いたような表情を見せていたが、千鶴の真剣な表情を見て、そっとその場を後にしていた。

 千鶴は、彼らが来ていたことすら、知らないだろう。


「6年前の子も、3年前の子も事故死……」


 新聞やネットに書かれていたのは、曲がってきたトラックに気づかず、そのまま接触し、打ちどころが悪く亡くなったという事故の内容だった。

 

 確かに、校門近くには見通しの悪い道があることを、千鶴は思い出した。

 校門を出て左に進み、少し歩くと、右手から車一台が通れるほどの細い道がある。反射鏡も設置されていない。その道から突然出てきたトラックと、生徒がぶつかった――ということだろうと、千鶴は考えた。


 だが、そこまで考えて、疑問が浮かぶ。


「響くんが、そんな不注意するかな?」


 千鶴から見た響は、落ち着いた男の子だった。

 そのため、いきなりトラックが出てきたとしても、轢かれるとは考えにくい。


「元々盲目なら、有り得る……?」


 だが、以前に漫画やアニメの話をした時、響が『見たことある』と言っていたのを思い出し、元々盲目だった可能性は低いと考えた。

 ウンウン唸りながらごろりと寝転がり、天井を見上げながら響のことを考えた。


 今、何をしているのだろうか……どこにいるのだろう。まだ学校かもしれない。一人で寂しく休みが明けるのを待っているのかもしれない。

 考えれば考えるほど、無性に響に会いたくなった千鶴は、ガバッと勢いよく起き上がった。だが、時計を見て、またゴロリと寝転んだ。

 時計は22時過ぎを示していた。もう少し早い時間ならば会いに行けたが、流石にこの時間に外へ出るのは危ない。


「私は全部遅いな……」


 自嘲気味に笑いながら、目を瞑る。

 目を開けていると、涙が溢れてきそうだったから。


 カチカチと、時計の音だけが部屋に響いていた。


「……そういえば」


 そう言いながら起き上がった千鶴は、床に散乱している紙を集めながら、目当てのものを探していた。

 高校1年生だからという理由で外した、3人目の響という生徒の資料。

 彼も事故死……だが、轢かれて亡くなったわけではなかった。


「工事現場の鉄柱が外れ、近くを通っていた『音無 響(おとなし ひびき)』くんの上に落ちた。顔の上半分が潰れ、即死だった……か」


 当時、通学路近くの家が改装工事を行っていた。学校側は十分注意して通るように言っており、工事現場の人たちも、通る生徒たちを気にしていたようだ。だが、どんなに注意していたとしても、100%事故が起こらないわけではなかった。

 最悪なことに、その事故に巻き込まれたのは、まだ入学して間もない生徒だった。


「……顔の上半分ってことは、目も含まれるよ、ね?」


 事故の影響で、死んだ後に見えなくなったり、聞こえなくなったりするという話は、聞いたことがない。

 だが、可能性があるなら調べなきゃいけない。

 千鶴は立ち上がり、少しだけ身を整えてから、父の元へ向かうために部屋の外へ出た。


 その前に、千鶴は扉の前に置かれていたおにぎりとお味噌汁を見つけた。


「これを食べてからでも、いいよね」


 そう言いながらお盆を持ち、再び部屋の中へと戻っていった。

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