31.生者
千鶴は、家に帰ってから学校の近くで起こった事件について熱心に調べていた。直近のものから、10年くらい前のものまで。
ネットで響の名前を入れて、ヒットしたものをノートに書き写す。そして、次の日には街の大きな図書館へ赴き、新聞などを使って探す。
朝から夕方まで図書館に居座り、調べ物をしていた千鶴は、ふと思い出したかのように顔を上げた。
「私、響くんの名字知らない……」
図書館にいるにも関わらず、唸り声を上げながら頭を抱えた。
「うぅ〜! 最悪! てか、なんで今思い出したの私!」
「お客様、図書館ではお静かにお願いします」
「あ、ごめんなさい!」
注意しに来た図書館員さんにペコペコ謝りながら、今になって思い出したことを反省していた。
長く一緒にいたはずなのに、今更ながら響に名字を聞いていないことを思い出した。もっと早く思い出せばと思っても、あとの祭り。事件や事故の被害者の名前に響があっても、それが千鶴と過ごしていた響かは、分からないのだから。
「……うぅ、もう、私のバカ」
小さく独り言をつぶやき、帰る準備を始める。
最短で響の名字を知ることができるのは、明後日だ。明日も休みだから、どうしようかとぐるぐる頭を悩ませていた。
重い足取りで、家へと帰る。
学校の近くで起こった事件や事故は、思いのほか多かった。そりゃ、霊道の近くなのだ。たくさん起こっていても、不思議ではない。
霊道の近くで事件や事故が頻繁に起こるのは、昔からだ。
ただ、死者が多く集まったことで、霊道が出来たとも言われている。そのため、死者がいるから霊道があるのか、霊道があるから死者がいるのかは、未だによく分かっていなかった。
トボトボと歩きながら、調べた事件や事故について考える。
響という名前の子が被害者になった事件や事故は、10年前から今日までで5人。そのうち、写真が公開されていない子は3人だった。
未成年ということもあって、プライバシーの観点から写真の提供がされていなかった。
「一人が、6年前で高校2年生。一人が、3年前で高校2年生。最後の一人が、1年前で高校1年生……いや、高校1年生の子は多分違うから、外していいか」
独り言のように、ぶつぶつと呟きながら歩く千鶴。傍から見れば、危ない人に見える。だが、今の千鶴には、他人を気にする余裕なんて無かった。
一刻も早く、響について知りたいのだ。
いつ死んでしまったのか……
どこで死んでしまったのか……
何が原因で死んでしまったのか……
千鶴にとって、知るという行為はただの自己満足だった。特に意味なんてない。
それでも、生きている側として、響を知っている者として、知りたかったのだ。
好きな人のことを、少しでも多く……




