↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生者の音と死者の音  作者: 狐久里 あみ
生者の音と死者の音
30/32

30.生

二人は、少しの間立ち尽くした。

 教室と廊下、二人の間をドアが区切っている。まるで、境界線のように。


 先に動いたのは、響だった。

 ゆっくり、"足音"を鳴らしながら、千鶴に近づく。千鶴は、俯いたまま動かない。


「千鶴」


 響が千鶴の名前を呼ぶが、千鶴は一切反応しなかった。

 響は、仕方ないというように肩を竦めてから、千鶴の手を引っ張り、教室の中へと引き込んだ。


「え、うわっ!」


 いきなり引っ張られたことに驚いた千鶴は、転びそうになったが響に支えられ、転ぶことはなかった。千鶴は響に文句を言おうと口を開いたが、言葉になることはなかった。

 千鶴のそんな様子を気にすることなく、響は千鶴の手を引っ張る。そして、千鶴を椅子に座らせる。

 響も向かいの椅子に座り、千鶴を見つめる。


「どうしてわかったの?」


 その声は、責めるような口調ではなかった。ただ、単純な疑問。


「結構、生者らしく振舞ってたと思うけど」


 その言葉に、千鶴が小さく頷いた。だが、響にはそれが見えなかった。


「……凪ちゃんが、いつも誰と話してるの? って、聞いてきて」


「それでわかったの?」


「ううん、違和感は、あった。ずっと、初めて会った時から……」


 千鶴の言葉に、響は見えない目を瞬かせる。そして、小さな声で「そっか」と呟いた。

 響は理解したのだ。初めから、生者ではないと見抜かれていたことを。だが、その上で千鶴が気づかないふりをしていたことも。


「僕より先に、僕が生きてないってわかるの、凄いね。やっぱり祓い屋だから?」


 不思議そうに聞く響の言葉に、千鶴は戸惑ったように顔を上げた。先程までの悲しそうな表情とは一転、困惑した顔をしていた。


「僕より先に……?」


「そう、僕より先に」


「え、待って待って、何言ってるの?」


 千鶴は困惑した。

 響の言っている意味がわからなかったから。


「あれ? 伝わらない?」


「響くん、説明を放棄するの良くない」


「放棄してるつもりは無いんだけど……」


 そう言葉を一度区切る。どう説明しようか迷っているような雰囲気だった。

 そして、微かに笑いながら話を再開した。


「悲しいことに、僕もつい最近、自分が死んでいることを理解した」


「……どういうこと?」


「君……千鶴と会った時までは、僕も生きてるって思ってた。みんなと、千鶴と同じように。

 でも、死者が祓われるところを見てから、千鶴と過ごすようになってから、なんとなく、僕は千鶴たちとは違うのだと知った」


 響の声は、どこか寂しそうで、悲しそうな声だった。千鶴は、そんな響の様子をただ見ていた。


「色々、試してみた。どこまで行けるか、とか。何ならできるか、とか。ねぇ、僕みたいな死者を地縛霊って言うんでしょ?

 学校から、離れられなかった。もっと言えば、学校を中心に半径1kmくらい? なら外には行けたけど」


 千鶴は、何も言えなかった。肯定すれば、認めるようなものだから。

 地縛霊とは、亡くなった場所や建物から離れられず、その場に留まり続ける霊のこと。強い未練や恨みがある者が多いとされていた。


「千鶴、なにか話して。黙ってても何も変わらないよ」


 響の言葉で、千鶴の顔が歪んだ。

 わかっているのだろう。二人とも、わかっている。何も変わらないことは。変えられないことは。


「……響くんは、」


「うん」


「響くんは、なにか未練や恨みがある、の?」


 とても小さな声だった。今にも消えてしまいそうなほど、小さな声で、千鶴は問いかける。

 響は、小さく首を傾げ、人差し指を口に当て考え始めた。


「未練、恨み……どうだろう? あるのかな?」


「質問に質問で返さないでよ……」


 呆れたような声。唇を少しだけ尖らせて、拗ねたような顔をしてみる。響には見ることはできなかった。でも、何かを感じ取ったのか、少しだけ笑っていた。


 響が窓の方を見る。

 二人が座っているのは、窓側の席。響からすれば右側に、千鶴からすれば左側に窓があった。


「……でも、学校生活は送りたかった気がする」


 ふわりと、風が吹いた。窓は開いていないのに、千鶴の髪を撫でるように風が通り過ぎていった。

 そのせいで、響の表情は見ることができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。