27.生者の音は光に似て
「千鶴ちゃんって、いつも楽しそうだよね」
体育の休憩時間に、突然、朔ちゃんからそう言われ、首を傾げた。
ニコニコしている朔ちゃんこそ、なんだか楽しそうだ。
「そうかな?」
「なんか、いっつも笑ってるし、元気だし」
「どんな授業も、全力だもんね」
「やっぱり、望もそう思う?」
さすが双子と言うべきか、いつ示し合わせたのかと思うくらい、言う言葉や手振り身振りが全く同じだ。
少し違うとすれば、声の高さや、使っている利き手くらい。朔ちゃんは右利きだけど、望ちゃんは左利き。でも、どちらも使えるとか言ってた気がする。まあ、今は関係ないから置いておこう。
「なんでそんなに楽しそうなの?」
「授業とかダルくない?」
「う〜ん? ダルくはない……とは言わないけど、知らないことを知れるのって楽しくない?」
「え〜? わかんないわ〜」
「朔は勉強苦手だもんね。私もその考えはあんまり分かんないけど」
「え、まじか……わかんないのか……」
ちょっとショック。でも、この感覚は本当に勉強が好きじゃないと分からないことなので、仕方ない。
仕方ないけど、少しだけ拗ねておく。
唇を尖らせて、あからさまに、『私は拗ねています』感を出しておく。
「え〜、拗ねないでよ」
「ごめんね、千鶴ちゃん」
「別に拗ねてないし〜?」
笑いながら私を慰める双子。なんだかそれが面白くて、私も次第に笑えてきた。
「こら、サボっちゃダメだよ」
体育館のステージの下で、キャハキャハ笑う私たちに近づいて注意するのは、クラス委員長の凪ちゃん。
「あ、見つかった」
「バレちゃったね」
「ごめんね、凪ちゃん。でもこれ休憩だから!」
双子は、「キャー!」と言いながら私に引っ付く。私は、凪ちゃんにごめんねのポーズをしながら謝ると、仕方ない子供を見るような目で見てから、肩をすくめる。
「千鶴ちゃんの休憩はわかるけど、朔ちゃんと望ちゃんは休憩必要ないでしょ?」
「あ、委員長酷ーい! 私だって、疲れてるんです〜」
「体育は疲れるんだよ」
「二人のチームは、まだ試合してないでしょ」
今日の体育は、バドミントン。しかもダブルスで。
縦4つのコートで、男女別に試合をしている。
私はついさっき終わらせたのだが、双子はこの後。だから、凪ちゃんが二人の言葉に呆れるのも仕方ない。
「お〜い、双子! 試合始まるからさっさと来い」
「あ、呼ばれた」
「しょうがない、やりますか〜」
先生が呼ぶ声に渋々立ち上がり、コートに向かう二人に「頑張れ」と声をかけると、二人して全く同じタイミングでVサインを送ってくれた。やっぱり双子って、凄いな。
「凪ちゃん、お疲れ様」
「ありがとう、千鶴ちゃん。千鶴ちゃんの試合見てたけど、凄かったね」
「ありがとう。いやいや、凪ちゃんの身のこなしも最高でしたよ」
さすが薙刀部と言うべきか、凪ちゃんの動きはとても鋭く、そして滑らかだった。
「特にあのスマッシュ! どうやったの?」
「あれね、まぐれなの。多分もう一回は出来ないかな」
「そっか〜、もう一回見たかったのに〜!」
小さくジタバタすると、凪ちゃんは上品に笑う。その笑い方が可愛くて可愛くて! デレっと顔が溶けてしまいそうになった。
コソコソお喋りをしていると、男子コートで、わっと歓声が上がった。
見ると、何故か男子たちはシングルスをしているようだ。しかも相手は先生。対戦しているのは……
「あれって、澪くん?」
「澪くん、だね。何してんの? どういう状況?」
状況は分からないが、とても見たいしとても気になる。
「行く?」
「行こ!」
即答してから、男子コートに二人で向かう。
ステージから一番遠いコートでやっているので、端の方を通ってコートに辿り着くと、20-20のデュース戦になっていた。
男子生徒のガヤと、女子生徒の悲鳴のような声。
私と凪ちゃんも澪くんを応援するために、声を出した。
「澪くん、頑張れ〜!」
「頑張れ!」
声が届いたのか分からないけど、一瞬、こちらをチラリと見たような気がした。
サーブは先生。放たれたシャトルは速く、鋭かった。
それを澪くんが打ち返す。
「あのシャトル、当たったら痛いよね」
「絶対痛いと思う」
なんて、私たちは呑気なことを話していた。
澪くんは、別にバドミントン部ではない。というか、運動部ですらないのにバドミントン部の顧問の先生と渡り合えていることが凄かった。
結果を言うと、先生の勝ちだった。
澪くんはめちゃくちゃ善戦したけど、先生の方が先に30点に到達してしまったのだ。点数上限がなかったらどちらが勝っていたか分からなかったけど、すごく白熱した試合だった。
「澪くん、お疲れ様」
「おつおつ〜!」
「すごかった、お疲れ様」
「澪くん、お疲れ様! も〜、凄かった! 本当に文化部だよね? バドミントン部の幽霊部員とかじゃないよね?」
「ありがとう、皆。そして、千鶴さんの圧が強い……。ちゃんと文化部だよ。先生には入らないかって誘われたけどね」
そりゃ、あんな試合をしてしまったのだ。誘われない方がおかしいだろう。
「この先、しつこく誘われそうで憂鬱だよ……」
と、嘆く澪くんだが、負けず嫌いなため、次試合をする時も、手を抜くことはないと思った。
お喋りをしながら教室へ戻っていると、響くんが近くに来て、「お疲れ様」と言ってくれた。
ずっと見ていたみたいだけど、どこから見ていたのか分からなかった。
それに、隣に立つまで響くんに気づけなかったことが、すごく不思議だった。




