22.生者の音
いきなり、「私は祓い屋です」なんて言われて、どう思ったんだろう?
反応がないことに不安になって、聞かれてもいないことを言い始める。
止まることのない言葉に、私自身も引いた。
なんでこんなに言葉が出てくるの!
早口でまくし立てるように話してしまって、後から落ち込むのは目に見えている。それでも、この子には伝えておきたくて、たくさん話してしまった。
「とにかく誰にも言わなきゃいいんでしょ?」
「……! うん、そう!」
私の言葉を遮るように返された言葉に、頷く。
すごい! あんな要領得ない言葉を理解するなんて!
喜んでいるところに、「言ったところで信じてくれるわけもないからね」なんて、グサリと刺さる言葉を言われたのには、さすがに傷ついた……それは、そうだけど……
でも、その言葉に首をひねる。
「? 君は、信じてくれるの?」
そう言うと、「目の前で聞いたんだから信じるしかない」と言われてしまう。
しかも……
「嘘の音はきこえないから」
なんて言う。
嘘の音? とよく分からないことを言われたけど、信じてくれるならなんでもいい!
信じてもらえたことと、たくさん話せたことが嬉しくて、思わず顔がニヤついてしまった。
喜んでいると、隣の子はもうここに用事はないと言わんばかりに、踵を返して帰ろうとする。
いやいやいや!
「待って!」
「……なに?もう用事は無いけど」
無いの!?
驚きのあまり、心の声が漏れてしまった。
「え、無いの? 他に聞きたいこととか、なんか、他にあるじゃん!?」
「興味無いよ」
今日一番の衝撃的な出来事だった。
え、私祓い屋っていう特殊な職業してるのに、興味無いって何ですか?
普通は、気になるもんじゃないの? どう考えても気になるじゃん!
なんて思っているけど、友達にこうやって祓い屋だと明かしたことがないから、普通が分からなかった。
あわあわしている内に、掴んでいる腕を振り払おうとされる。
今離したら絶対に帰る。だから、離せない! むしろ離したくない!
「ねぇ、離して」
「ほ、本当に聞きたいこととかないの? なんで祓い屋やってるの? とか、どんなことしてるの? とか、知りたくないの!?」
「興味無い」
バッサリ切り捨てられた言葉に涙が浮かぶ。
悲しいどころの話じゃない!
だって、やっと見つけた同じ者を認識できる人!
まだ話したいことがあるのに、興味無いなんて言われたら普通に泣く。
だから、駄々を捏ねることにした。初対面だろうと、同い年だろうと関係ない!
「君だけなの! お願い! まだ帰んないで!」
切実な、心からのお願いだった。
すごく冷めた目で見られようと関係ない! だって、その時はすごく必死だったから。
結果的には、帰らないでいてくれた。とても優しい……
でも、「手を離して」と言われたから、渋々、手を離した。まだ掴んでいたかった。だって、なんだかいつの間にか消えちゃいそうな雰囲気がしたから。
消えてしまった温もりにシュンとしていると、椅子を引く音がした。
顔を上げてみると、座って話を聞く体勢になっている。
「話すんでしょ? 座りなよ」
もうその一言で、嬉しさが大爆発。
向かい合うように座って、愚痴のような、相談のようなことを話す。
相槌なんてない。本当に聞いているのかも分からない。
でも、目の前にいて、私だけを見ていてくれて、それだけが嬉しかった。
だから、心の中で考えていたモヤモヤまで話してしまった。
「祓うのは、ちょっと苦手なの」
なんて、祓い屋としてあるまじき言葉だ。
分かってるけど、多分、私には祓い屋は向いていない。
ふと、気になることがあって、聞きたくなった。でも、名前を知らないから、まず名前を聞く。
そしたら、一言だけ。名前だけを教えてくれた!
響
響くん……すごく綺麗な名前だなって思った。
「響くんは、死者が分かるんだよね? 祓うって、どう思う?」
後から振り返ってみたら、本当にどういう質問なんだろうか?
こんなこと、いきなり聞かれても困るし、響くんは別に祓い屋じゃないんだから……
それに、響くんにも同じことを言われてしまった。
だから、質問を変えた。
「じゃあ、もしも響くんが死者になったとして、この世界にまだ未練がある。その時、私たち祓い屋の都合で祓われたらどう思う……?」
未来の私がいれば、「なんてことを聞いているんだ私!」って怒鳴りたくなることを、平気で聞いた。
だって、その時の私はまだ響くんについて知らなかったから。
正しい答えが欲しかったわけじゃない。同情してほしかったわけでもない。
本当に、純粋な疑問。
その問いに、響くんは本当に興味がなさそうな顔で「別になんとも思わない」なんて答えた。
(いやいやいや、なんとも思わないわけなくない!?)
なんて思ったけど、響くんらしいとも思ってしまった。
「未練があろうとなかろうと、祓われたあとなんてなんの感情もないでしょ?」
って……
「そんな相手に、情を持つだけ無駄だと思うよ」
って……
厳しいなって思った。
でも、それが正しいのかもしれないと、心のどこかで思った。
私が間違っているわけではない。でも、死者に情を持ったところで、相手は死んでるんだからどうしようもない。
私たちは神様なんかじゃないから、死者を死者として祓うことしかできない。
なんだか、響くんの言葉を聞いていると泣きそうになった。
でも、泣いてたまるか! とも思った。
「死者に同情して生者との区別がつかなくなってたら、意味無いよね」
自嘲気味に笑いながら言うと、響くんに「分かってるのに、なんで同情するの?」と問われてしまう。
「……良い死者もいるから……かな……?」
考えて出てきた答えは、これだった。
良いとか悪いとか、決めつけたくないけど、死者にも善悪がある……と思う。
だから、私は勝手にその人の終わりを決めたくなかった。




