21.生者の
昼休みにあんな思いをしたのに、私は全然懲りないらしい。
もう、他人事のようなことを思ってしまう。
だって、その後もチラチラと隣の子を見てしまうのだから。話しかけたくても、話しかけられなくて……せめて、名前だけでも知りたくて……。
いや、分かるよ? クラス名簿を見れば分かる。だけど、違う。隣の子の口から聞きたい。あわよくば、そのままお話したい! なんて、下心がないわけじゃない……
うだうだしているうちに、放課後になってしまった。
クラスメイトたちは、楽しそうに会話をしているけど、私はその輪に混ざれない。
隣の子も混ざりに行く様子はないから、私と同類なのかもしれない!
だから、一緒に帰ろうと誘おうとしたけど、上手く言葉が出てこない。
「ねぇ……! あの、その……君は、帰らないの……?」
凄く声が小さくなった。下手したら、周りの子たちの声にかき消されてしまうような小さな声。
これ、絶対聞こえてないやつ!
だって、返事がないから。
もう一度言うべきか、このまま帰るべきか……迷っているとたった一言「……帰るよ」って、答えてくれた。
もうそれだけで嬉しくて!
さっきまでの悲しかった気持ちがどっかに吹き飛んでしまった。
だから、「あ、じゃあ、私と一緒に帰ろ!」と、言おうとした時、上からすごく重い何かが落ちる音が聞こえた。
反射的に、これはダメなやつ……と理解した。
それと同時に、ちょっとは空気読め! なんて、キレそうになった。
もう、やっと勇気が出たのに! せっかく答えてくれたのに!
私は、隣の子に「ごめん」と言ってから走った。
『廊下を走ってはいけない』なんて、小学生でも知っているのに、構わず走った。
早く終わらせて、隣の子と帰りたかったから。
もしかしたら、すぐに帰ってしまうかもしれないけど、少しの期待を寄せていた。
音の発生源にたどり着くと、そこにはドロドロとした黒い人影がいた……。
何かを食べているのか、口元がもごもご動いていた。
笑ってるような、泣いているような、よく分からない音が聞こえる。
「もう、大丈夫だよ」
怖くても、恐ろしくても、それを表に出してはいけない。
祓い屋なら、最後まで笑っていろ。
それが、家の教え。
だから私は笑って、優しい声で話しかける。
「今、還してあげるね」
手で、印を組む。
願わくば、貴方の来世が幸せでありますように……
と、願いながら。
「どうか、安らかに」
目を閉じて、黙祷する。
私はいつも、この時に思う。本当に、この行為は死者にとって最善な選択なのだろうか……と。
後悔はしないようにしている。しているけど、祓った後はスッキリしない。
心の中に、モヤモヤとした変な気持ちが湧き上がってくる。
これじゃあ、あの子のところに戻って、「一緒に帰ろ!」なんて言えない。
そんな気分になってしまった。
会いたかったのに……
ガタン……
私しかいないはずなのに音が聞こえて、驚いた。
振り返ると、そこに居たのは隣の子。
「え、あ、なんで……?」
なんとも間抜けな声を出してしまった気がする。
でも、そんなことを気にしていられないほど、衝撃的なことを言われた。
ついてきた……のは、もうしょうがない。私が悪い! だって、あんな風に消えたら誰だって気になるし……私だって気になる。
でも、まさかの、見てないけど聞いていたって何!?
「き、聞いてた? 見てないなら……いいの、か? いや、でも聞いてたって……どいうことだ?」
頭の中がパニックになった!
もう、ぐーるぐると、いろんなことが浮かんでは消えていく。
そのせいで、目の前に立たれていることにも気づかなかった。
だって、この子本当に静かで、気配も薄いから!
「さっきの、何?」
「な、何って何?」
「パラパラって音がした。花火が終わった時の音みたいな感じの。それから静寂になった。君は、何? ここに居たヤツに何したの?」
息を飲んだ。
だって、だって! こんなに話してくれるなんて思ってなかったから! すごく嬉しかった!
でも、思ったより聞いてて驚いた。
なんて説明しようか迷っている。言ってもいいのか、ダメなのか……
本来ならダメなのだろうけど、この子になら、なんとなく話してもいいと思ってしまった。
意を決して言おうとしたら、「いいや」と言われて慌てた。
違う違う! 違うんです!
「ま、待って!」
帰られたら困るから、思わず腕を掴んでしまったけど、男の子に触れたことなんて今までなかったから、余計に慌てた。
お兄様たちとは違う、普通の男の子。
すごく細い腕……私より細くない!?
「なに?」
全てを説明するには、私自身のことを話さないといけない。
男の子に触れていることにパニックになりながらも、何とか絞り出した声で「祓い屋なの……」と告白する。
もう、どうすればいいんだろう!
てか、この手はいつ離せばいいの!?
そんなことを考えていたからか、隣の子の表情を見る余裕なんてなかった。
だから、「こいつが?」と怪しむような目をしていたことなんて、気づかなかった。




