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生者の音と死者の音  作者: 狐久里 あみ
生者の音は光に似ている
21/33

21.生者の

昼休みにあんな思いをしたのに、私は全然懲りないらしい。

 もう、他人事のようなことを思ってしまう。


 だって、その後もチラチラと隣の子を見てしまうのだから。話しかけたくても、話しかけられなくて……せめて、名前だけでも知りたくて……。

 いや、分かるよ? クラス名簿を見れば分かる。だけど、違う。隣の子の口から聞きたい。あわよくば、そのままお話したい! なんて、下心がないわけじゃない……


 うだうだしているうちに、放課後になってしまった。

 クラスメイトたちは、楽しそうに会話をしているけど、私はその輪に混ざれない。

 隣の子も混ざりに行く様子はないから、私と同類なのかもしれない!

 だから、一緒に帰ろうと誘おうとしたけど、上手く言葉が出てこない。


「ねぇ……! あの、その……君は、帰らないの……?」


 凄く声が小さくなった。下手したら、周りの子たちの声にかき消されてしまうような小さな声。

 これ、絶対聞こえてないやつ!

 だって、返事がないから。

 もう一度言うべきか、このまま帰るべきか……迷っているとたった一言「……帰るよ」って、答えてくれた。

 もうそれだけで嬉しくて!

 さっきまでの悲しかった気持ちがどっかに吹き飛んでしまった。

 だから、「あ、じゃあ、私と一緒に帰ろ!」と、言おうとした時、上からすごく重い何かが落ちる音が聞こえた。

 反射的に、これはダメなやつ……と理解した。

 それと同時に、ちょっとは空気読め! なんて、キレそうになった。

 もう、やっと勇気が出たのに! せっかく答えてくれたのに!


 私は、隣の子に「ごめん」と言ってから走った。

 『廊下を走ってはいけない』なんて、小学生でも知っているのに、構わず走った。

 早く終わらせて、隣の子と帰りたかったから。

 もしかしたら、すぐに帰ってしまうかもしれないけど、少しの期待を寄せていた。


 音の発生源にたどり着くと、そこにはドロドロとした黒い人影がいた……。

 何かを食べているのか、口元がもごもご動いていた。

 笑ってるような、泣いているような、よく分からない音が聞こえる。


「もう、大丈夫だよ」


 怖くても、恐ろしくても、それを表に出してはいけない。

 祓い屋なら、最後まで笑っていろ。

 それが、家の教え。


 だから私は笑って、優しい声で話しかける。


「今、還してあげるね」


 手で、印を組む。

 

 願わくば、貴方の来世が幸せでありますように……


 と、願いながら。


「どうか、安らかに」


 目を閉じて、黙祷する。

 私はいつも、この時に思う。本当に、この行為は死者にとって最善な選択なのだろうか……と。

 後悔はしないようにしている。しているけど、祓った後はスッキリしない。

 心の中に、モヤモヤとした変な気持ちが湧き上がってくる。

 これじゃあ、あの子のところに戻って、「一緒に帰ろ!」なんて言えない。

 そんな気分になってしまった。

 会いたかったのに……


 ガタン……


 私しかいないはずなのに音が聞こえて、驚いた。

 振り返ると、そこに居たのは隣の子。


「え、あ、なんで……?」


 なんとも間抜けな声を出してしまった気がする。

 でも、そんなことを気にしていられないほど、衝撃的なことを言われた。

 ついてきた……のは、もうしょうがない。私が悪い! だって、あんな風に消えたら誰だって気になるし……私だって気になる。

 でも、まさかの、見てないけど聞いていたって何!?


「き、聞いてた? 見てないなら……いいの、か? いや、でも聞いてたって……どいうことだ?」


 頭の中がパニックになった!

 もう、ぐーるぐると、いろんなことが浮かんでは消えていく。

 そのせいで、目の前に立たれていることにも気づかなかった。

 だって、この子本当に静かで、気配も薄いから!


「さっきの、何?」


「な、何って何?」


「パラパラって音がした。花火が終わった時の音みたいな感じの。それから静寂になった。君は、何? ここに居たヤツに何したの?」


 息を飲んだ。

 だって、だって! こんなに話してくれるなんて思ってなかったから! すごく嬉しかった!

 でも、思ったより聞いてて驚いた。

 なんて説明しようか迷っている。言ってもいいのか、ダメなのか……

 本来ならダメなのだろうけど、この子になら、なんとなく話してもいいと思ってしまった。

 意を決して言おうとしたら、「いいや」と言われて慌てた。

 違う違う! 違うんです!


「ま、待って!」


 帰られたら困るから、思わず腕を掴んでしまったけど、男の子に触れたことなんて今までなかったから、余計に慌てた。

 お兄様たちとは違う、普通の男の子。

 すごく細い腕……私より細くない!?


「なに?」


 全てを説明するには、私自身のことを話さないといけない。

 男の子に触れていることにパニックになりながらも、何とか絞り出した声で「祓い屋なの……」と告白する。

 もう、どうすればいいんだろう!

 てか、この手はいつ離せばいいの!?


 そんなことを考えていたからか、隣の子の表情を見る余裕なんてなかった。

 だから、「こいつが?」と怪しむような目をしていたことなんて、気づかなかった。

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