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生者の音と死者の音  作者: 狐久里 あみ
生者の音は光に似ている
20/32

20.生者

初日から色々とやらかしてしまった。


 クラスメイトの子たちが、たくさん話しかけてくれた。

 多分、転校生という存在が珍しいだけかもしれないけど、それでもたくさん質問してくれた。

 全部に答えたくても、死者も混じって質問してくるからどれに答えればいいか分からない。


 ……ねぇ


 ……どこから


 なんて、耳元で話しかけてくる人が煩わしくて、思わず机をバンッと叩いてしまった。

 ハッとして、周りを見ると、皆が引いたような目で私を見ていた。


「……あ、ご、ごめんなさい! あの、その、違くて! 悪気はなくて、なんて言うか……」


 なんて言い訳じみた言葉が溢れてくるが、今までの経験上、もうどうしようもないことは分かっていた。

 口下手な私が、上手い言い訳なんて思いつくはずもないし、挽回することも叶わない……


「あ……」


 やっぱり、みんな離れていってしまった。

 どうしようもなく、椅子に座り込む。隣の男の子は、そんな私たちの様子になんて目もくれず、外を見ていた。


 (少しくらい気にしてもよくない?)


 なんて、心の中で拗ねてみるけど、初対面の相手にこういう態度もいかがなものかと思う。


 ……ねぇ


 ……ねぇ


 ……きこえてる?


 耳元で絶えず聞こえる言葉に、とうとう我慢できなくなって、「うるさいよ……」なんて声を出してしまった。

 小さい声だったから、聞こえてないといいななんて思いながら、この死者も散らしておく。


 あ〜あ、最悪だ!

 新しい学校の初日くらいは、上手く接して友達を作りたかったのに……



 授業は好き。だって誰とも話さなくていいし、自分だけの時間だから。

 でも、グループワークとかだと話さなきゃいけないから、それはすごく嫌。

 流石と言うべきか、なんと言うべきか、この学校は結構有名なこともあって、授業の進みがすごく速かった。それでも置いていかれないのは、私が勉強好きということもあるけど、先生の教え方がすごく上手いからだと思う。

「ふむふむ」と口には出さないように気をつけながら勉強していると、隣から「うるさ……」と声が聞こえた。

 初めて聞いた隣の子の声。その声に温度はなかった。だけど、なんだか耳から離れなくて、初対面だと言うのにもっと聞いていたいなんて思ってしまった。

 多分、本当に多分だけど、この時にはもう一目惚れしていたのかもしれない……


「え、わ、私? ごめんね?」


「ねぇ、何がうるさかった?」


「独り言、言ってたかな……?」


 なんて、めちゃくちゃに話しかけてしまった。

 もう一回、その子の声が聞きたくて……

 でも、隣の子は窓の方を見て私の方を見ようともしない。すごい無視されてるな、とか思いながらも気にせず話しかける私。

 こういうところも、友達ができない原因なのは分かっているけど、変えられない。

 どうしようかな? とか思っていると、近くに死者がいるのが分かった。

 今までわからなかったのかと聞かれたら、分からなかったと答えるしかないのがとてもとても恥ずかしい……


「あ、私じゃなくて、こっちか」


 なんて独り言を言ってから、散らす。

 多分、これで聞こえなくなったと思う。

 まさか、私以外にも聞こえてる子がいるなんて! と嬉しくなった。

 この世界の異物なのは、私だけじゃない! なんて、無意識に相手のことまで異物扱いしてしまったことには、気づかなかった。


 その後、昼休みになって隣の子に質問した。「見えてる? 聞こえてる?」って……。

 でも、答えてくれない。そんなに私との会話が嫌なのかな? なんて思いながらも、質問を続ける私。

 後から思えば、絶対ウザかった!

 こんな変な人に話しかけられるなんて、嫌に決まっているのに、構わず話しかける私は、さぞ他の人の目には変に映ったことだろう。


「……私も、聞こえてるし見えてるよ」


 なんて、凄く緊張しながら告白してみるけど、やっぱり反応なんてしてくれない。

 それどころか、私の方を見てくれることもない。

 そんなに外が気になるのかな? とか、別のことを考えてしまう。

 ちょっとでもいいから、こっちを見てほしくて、思わず祓い屋だって言うところだった。

 だけど……


「周り、見なよ」


 その一言で私は固まった。

 声を聞けたことが嬉しかったのに、その一言が私をどん底に突き落とした。

 そろりと周りを見渡すと、みんなが見ていた。

 昼休みに残っていたクラスメイトたちが、私を見ていた。

 凄く恥ずかしかった。それでいて、ちょっとだけ怖かった。

 相手のことを考えないで話しかけていた私のことを、みんなどう思ったんだろう?

 心臓が飛び出してしまいそうなほど、ドクドクと鳴っているのが分かる。

 

 消えてしまいたいくらい、恥ずかしい……


 ……だいじょーぶ?


 優しい死者の声がして、答えてしまった。

 本当はダメなのに、今は誰かに縋りたくて、「……大丈夫、ありがとう」なんて言ってしまった。

 

 やっぱり、私は驚くほど生きることに向いていない。

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