18.死者の音は静寂に似ている
テスト期間。
この学校では、5日間かけて全ての教科のテストを行う。このテスト期間中は4時間授業で、昼には帰れる。
学年によって、選択授業も出てくるため、1日に一つだけテストを行い、残りの3時間は自習という生徒もいる。
この期間中は、とても静かだ。
と言っても、死者の声はいつも通り響き渡っているから、うるさいのには変わりない。
僕は普通教室でテストを受けられないため、空き教室で待機だ。
暇すぎるが、毎回なのでしょうがない。
時々、先生が様子を見に来るが、忙しいのか声はかけられない。
これがあと4日も続くかと思うと、憂鬱だ。
だが、最終日の放課後に千鶴と会う予定だから、それを楽しみにテスト期間を過ごすことにした。
休み時間は少し騒がしい。
「テストどうだった?」とか、「やばいこれ捨てる」とか言っている。捨てるのはどうかと思う。頑張れよ……と、心の中でツッコんでおく。
「千鶴は、頑張ってるかな……」
ポツリ、と零れた言葉に寂しさが滲んでいた。
寂しいのかは分からないけど、こんなに一人でいるのは久しぶりすぎて、変な感じだ。
ずっと一人だったから、慣れているはずなのに、千鶴が来てからというものずっと騒がしかったから、この静けさが寂しいのかもしれない。
「早く終わればいいのに……」
心からそう思ってしまった。
早く終わって、千鶴の馬鹿みたいにうるさい音が聞きたいと思った。
恋……とは、また違うんだと思う。
そもそも恋なんてしたことないから分からないけど、そんなものではない。
千鶴と僕の関係は、なんて言葉で表すのがいいのだろうか?
傍から見たら、恋人のように見えるかもしれない。それほどまでに千鶴の距離が近い。
友人……
共犯者……
同士……?
色々あるかもしれないけど、何となくしっくり来ない。
こんな時、千鶴が居れば「友達じゃないの!?」とか騒ぎそうだ。
そんな様子も好きだから、良いけど……
? 好きだと思うなら、やっぱり僕は千鶴に好意を持っているのかもしれない。確かめることはしないけど……
だって、なんだか恥ずかしいじゃないか。そもそも、聞き方も分からないのに、聞くなんてできない。
それに、この感情に名前をつけない方がなんだかいい気がしてならない。
だから、聞かない。聞けない……
今日でテスト4日目。
明日で終わりだから、やっと千鶴に会える。
……これだと、僕がすごく会いたかったみたいになってるが、誰かに言ってるわけではないから良いかと、心の中で割り切る。
テストを返されるのは来週だから、点数は分からないけど、頑張ってくるだろうし、少しは褒めてやろうとか、考えてみる。
開口一番、なんて言われるかも少し楽しみだった。
テスト期間、5日目。
今日でテストが終わる。テストが終わった安心感でふわふわとした音が、至る所から聞こえてくる。
千鶴との待ち合わせ場所は、昼休みによく集まる4階の1番奥の空き教室。
湿度が高いのか、ドアを開けるとむわりと生ぬるい風が頬を撫でた。
窓を開けて換気をしておく。外からは部活動を再開した生徒たちの声が響いていた。
それに混じって、いつも通り、死者の声も聞こえる。
久しぶりに生者と部活をできるからか、いつもより嬉しそうなのには微妙な気持ちになってしまった。
ガラリ、と教室のドアが開く音がする。
足音的に、千鶴だと思う。
「千鶴? お疲れ様」
声をかけるが、千鶴からの返事はない。
不思議に思って振り返り、ドアの方を向くが、見えないから分からない。
「千鶴?」
もう一度声をかけるが、千鶴はドアのところから動こうとはしなかった。
困惑、疑問、それから悲しそうな音が聞こえる。
いつものうるさい音は聞こえない。
テストが思ったよりも難しかったのだろうか? 何か嫌なことがあったのだろうか?
頭を捻るが、分からない。だから、千鶴に聞こうと思って、一歩近づいた。
だが、千鶴はキュッ、と足と床が擦れる音を出しながら一歩下がった。
「なんで? 千鶴、どうしたの?」
「……響くん」
「うん?」
声は弱々しく、今にも消えてしまいそうな音だった。
千鶴は大きく息を吸ってから、意を決したように言葉を紡ぐ……
「響くんは……響くんは! もう、死んじゃってるの……?」
その声はまるで、大切にしていた楽器の弦が切れてしまったような音だった。
僕はその言葉に何も言わず、ただ微かに微笑んだ。
否定も肯定もしなかった。
教室の音が、消えた気がした。
外の音さえ、聞こえなくなった。
まるで、ここだけが世界から切り離されたような感覚になった。
だけど、千鶴の音だけは、鳴り響いていた……
その音は、光に似ていた……




