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生者の音と死者の音  作者: 狐久里 あみ
死者の音は静寂に似ている
17/32

17.死者の音は静寂に似てい

「お前ら、明日からテストだから今日は早く帰れよ〜」


 先生の間延びした声に、生徒たちは面倒くさそうな声を出して返事をする。


 は〜ぁい……


 めんどくさぁい……


 きゃはは……


 生者も死者も騒がしい。

 テスト前日とあって、浮き足立っているのだろう。

 僕にはそこまで関係ないことだから気にしないが、隣のこいつはそうでもないらしい。

 教科書に齧り付いて、ブツブツと呟いている。

 死者の音よりも低い声に、思わず引いてしまう。

 頭が悪いわけではないはずなのに、なぜこうも緊張しているのだろうか? そこまで気負わなくても良いはずなのに。


「私、本番、とても弱い……」


「なんで片言?」


「いや、何となく? でもでも、なんかテストって言われちゃうと緊張して上手くできないというか、なんというか……」


「ただの学力テストなのに?」


「ただの学力テストなのに……」


 本当にこいつのメンタルがよく分からない。

 死者には物怖じしないのに、テストには弱いらしい。


「千鶴なら、基本教科は100点取れるでしょ?」


「500点満点取れますけど!?」


「なんで喧嘩腰? 良いけど、取れるなら頑張りなよ」


「むり……」


 グデーン……


 ドロドロ……


 シュン……


 こいつの音うるさい……

 なんで一気に三個の音が流れるんだろう? とても器用だな、と別のことを考えてしまう。


「なんで無理?」


「誰も居ないところならまだしも、たくさんの人と一緒にやるのと、先生に監視されてるのが嫌」


「監視って……」


 テストなんだから、生徒たちが不正をしないかを見るのは当たり前なのに監視って言うなんて、どうなんだろう?


「家でもたまにテストがあるの……

 その時の監視が本当に怖くて、見られていると上手くできないから、本当に嫌。だから基本的に一人で祓ってきたし……」


「僕が一緒なのはいいの?」


「響くんは、見えてないし、私の行動に興味無いじゃん! もっと興味持ってくれてもよろしくってよ!」


「何その言葉……」


 調子が戻ってきたのか、いつもの音が鳴り響いている。

 騒がしいが、千鶴はこうじゃないと落ち着かない。


「でも、テストでいい点は取っておきたい!」


「なんで?」


「え、な、なんとなく?」


 学生ならテストの点数は気にするか、と一人納得しておく。

 だが、本番に弱いのでは、赤点でも取ってしまいそうな様子だ。


「なにかご褒美あればいい?」


「え!?」


 ガッシャーン……


 何をひっくり返したのだ、と言いたいほどの音量に、思わず耳を塞ぐ。

 すると、肩を掴まれ、ガクガクと揺すられた。


「え、何? ご褒美って何!?」


 僕を揺するのに合わせるように、シャンシャンと音が鳴り響く。千鶴が近いから、耳元で聞こえてとてもうるさい。


「うるさい、離れて」


「やだ! ね、ご褒美くれるの? 響くんがくれるの? 本当に?」


「うるさい」


 言葉は考えてから発することが大事。

 改めて思い知らされた。

 すごく訂正したい。今の会話をなかったことにしたいが、できないため諦めることにする。


「……うん、ご褒美」


「何くれるの?」


「僕が出来ることならなんでもいいよ」


「え!? なんでも!?」


「僕が出来ることだからね?」


「うん! やったー! 楽しみ!」


「500点満点取らなかったら無しだから」


「いや、厳し!」


 当たり前だ。

 本人が取れると言ったんだから取ってもらわないと。

 本当に取れるかは置いておいて、本人がやる気を出したのだからある意味よかったかもしれない。


「じゃあ、響くんにもご褒美をあげよう!」


「何その上から目線」


「流石に500点満点取れなんて言わないから〜! テスト終わったら、私が何でも叶えてあげるよ!」


「……なんでも?」


「あ、私ができることで頼みます」


 メリットもデメリットもない提案に首を傾げるが、貰えるものは貰っておこうと思う。


「わかった。楽しみにしてる」


「私も楽しみにしてるね!」


 ルンルン! と、見えていたら音符が頭の上で踊っていたことだろう。



 そんな千鶴と別れて、ご褒美を考えてみる。

 何をしてもらおうか?

 何をしてもらいたいだろうか?


 一つだけ、叶えてほしい願い事はあるが、千鶴が了承するかは分からない。

 だが、自分の願い事よりも、千鶴がどんな願い事を僕に言うかの方が、よほど楽しみだった。

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