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生者の音と死者の音  作者: 狐久里 あみ
死者の音は静寂に似ている
16/32

16.死者の音は静寂に似て

約束通り、昼休みはチャイムが鳴ると同時に教室を出て、空き教室に逃げ込む。

 そのおかげで、話す時間を確保できた。

 落花のストレスも多少なりとも減少したようで、いつもの五月蠅さが戻ってきた……否、戻りすぎている。

 本当に、毎日毎日、リンリンシャンシャンうるさい。

 嬉しかったりすると鈴に似た音が鳴るのは把握しているのだが、その量が異常なのだ。

 たまにファンファーレも鳴るが、これは何か、まだ把握できていなかった。


「響くん、なんか疲れてない?」


「君のせいでね」


「え!? 私何した?」


 自覚がないようだ。当たり前か。

 この音は僕にしか聞こえていないんだから。


 ゔ……ゔぅ……


 低い唸り声が聞こえる。

 その後に、落花の静かで優しい音が聞こえる。


「君さ……」


「いい加減、名前呼んでよ〜」


「落花さ、ずっと祓っててよ。静かだから」


「なんか、色々複雑なこと言ってませんかね? 響さん?」


 普段はこうもうるさいのに、祓う時だけ静かなのはどういうことなんだろう?

 落花の家族もこんな感じなのだろうか?


「落花、何してるんだ?」


 後ろから声がかかる。

 声からして、担任の先生だと思うが、その声はいつもより疲れているようだ。


「先生! 今は探検中です!」


「まだ慣れていないのか?」


「う〜ん? 慣れていないと言うより、校舎が好きで毎日お散歩してる感じですね!」


「良いけど、勉強もしろよ。今度テストなんだから」


「あ……はい!」


 絶対こいつ忘れてた。

 忘れてる反応だった。それがわかった先生も深いため息を吐いて呆れていた。


「忘れてた……」


「でしょうね」


「勉強やだな……」


「? 落花、何か言ったか?」


「なんでもありません! 失礼します!」


 首をブンブン振ってから、僕の手を掴み、逃げるようにその場を後にする。

 先生が不思議そうな音を出して落花を見ているのには、気づかないふりをした。



「やだ〜! テストやだ〜!」


「うるさいよ」


「だってだって! テストだよ? 嫌じゃないの?」


「見えないから後で個別でやるし、別に嫌じゃない」


「え? 個別でやるの?」


「むしろ、一緒に出来ると思ってるの?」


 本当に、落花は僕が見えないことを忘れる。

 見えないことをそこまでアピールしていないが、流石に忘れないで欲しい。

 だから、テストも個別。問題文を読んでもらわないと、解くことが出来ないから。


「あ、だからテスト期間中、僕は教室行かないから」


「え!?」


 ドンガラガッシャーン!

 何を落としたらそんな音が出るんだ? というくらい、大きな音が聞こえた。

 近くの教室で、死者たちが大乱闘を起こしている音が聞こえていたが、それ以上の音だ。

 何となく、面倒くさい予感がした。早めに逃げておこうと、一歩後ろに下がった時、ガシリと肩を掴まれた。


「嘘だよね?」


「本当だけど?」


「やだやだ! 嘘って言って!」


 悲痛な音に、罪悪感が募る。

 だが、仕方がないことなのだ。諦めてもらうしかない。


「しょうがないでしょ、諦めて」


「やだ〜! なんで!? 酷い!」


「いや、酷いって言われても……」


「うわ〜ん!」と言いながらポカポカ叩かれるが、どうしようもない。


「終わったら話せるから、我慢してよ」


「1週間もテストあるんですけど!?」


「あ、放課後のこれもテスト中は無しだから」


「え……」


 とうとう本格的に泣き始めてしまった。

 泣かせるつもりはなかったのだ。まさかこんなことになるとは……

 それよりも、大乱闘の音の方が気になってくる。

 さっき、ガラスが割れる音がしたが、教室内は無事だろうか?


「落花、一旦泣き止んで教室内の死者祓おう?」


「い、1週間も、会えない……やだぁ!」


「落花、聞いてる? それ後にしよ?」


 あ、机が倒れた音がした。

 これ、何人での大乱闘なんだろう? 結構な人数が集まってる気がする。早めに何とかしてほしいたが、落花がこの調子である。


「ねぇ、落花」


「落花じゃないもん!」


「えぇ……」


 もはや意思疎通もままならない。

 幼い子のように泣いているし、たまに聞こえる言葉は、半分くらい何を言っているか分からない。

 大乱闘の音と、落花の泣き声である意味カオスなことになっていた。


「落花は落花でしょ?」


「落花じゃなくて、千鶴だもん!」


「いや、一緒だよね?」


「違うもん! 千鶴だもん!」


「あ、うん、どっちでもいいけど、1回泣き止んで?」


「千鶴って呼んでくれなきゃ、泣き止まないもん!」


 なんて、無茶苦茶な……

 だが、名前を呼ぶだけで泣き止むならいいかと思い


「千鶴」


 普通に呼んだ。

 すると、先程まで響いていた泣き声はピタリと止まった。

 驚くほどピタリと止まったのだ。

 驚いた音はしていない。むしろ、鈴が鳴っているから喜んでいる。

 試しに「落花」と呼ぶと、また泣いた。言い切る前に泣き始めた。


「お前、泣いてなかったな?」


「千鶴だもん!」


「……千鶴、泣いてなかったよね?」


「うん、全然泣いてない。涙の一滴も出てない」


「なんなのお前……」


「あ、でも悲しかったのは本当。その音はしたでしょ?」


 確かにした。

 だから泣いてると思ったのに、泣いてなかった。

 完全に騙された。音で騙されるなんて初めてだった。

 だからすごく、屈辱的だった。怒ってはいない。だけど、本当に「はぁ!?」って感じだ。


「これからは千鶴って呼んでね! じゃないと泣くから!」


「泣いてないくせに……」


 思わず頭を抱える。

 もう、こいつが意味わからない。なんなんだよ……

 千鶴は、そんな僕を笑いながら大乱闘を繰り広げている教室内に入って行った。

 なんかもう、千鶴を置いて帰ろうかと考えるほど疲れてしまった。

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