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第五話 1 「足りない火力」

 第二層に来るようになって、五日が経った。


 最初は手こずっていたゴブリンメイジも、今では二人で対処できるようになっていた。トクナが動きを引きつけ、詠唱を乱し、単調な攻撃になったところを受けながら反撃を入れる。セラが距離を保ちながら回復を維持する。勝ちパターンが見えてきた。


 それでも、奥へ進むたびに壁を感じた。


 敵が硬くなっている。一体仕留めるのにかかる時間が長くなり、その分消耗も積み重なる。セラの回復が追いつかなくなるほどではないが、削られ続ける感覚が抜けなかった。


「今日も奥まで行きますか」


「はい」





 第二層の最奥付近で、それと出会った。


 最初、壁の一部が動いたと思った。それが立ち上がったとき、トクナは大きさを測り間違えていたことに気づいた。


 二メートルを超える体躯。岩のような肌。手に持った棍棒は、それだけで人間の胴体ほどの太さがあった。


 オーガだ、と直感でわかった。ゴブリンとは種が違う。


「トクナさん」


 セラの声が、少し硬かった。


「距離を取れ。回復を切らすな」


「はい」




 戦ってみてわかった。皮膚が硬い。


 ナイフを叩き込むたびに手応えはある。刃は通っている。しかしダメージが少な過ぎた。岩に小石を投げているような感触だ。オーガのHPを十削る間に、トクナは三十削られる。棍棒の一振りが重く、まともに食らえば吹き飛ぶ。かわし続けながら削るしかないが、かわすだけで体力を使う。


 セラの回復が必死でそれを埋める。

 だが長期戦になるほどセラのMPが削られていく。


 五分が経った。オーガはまだ立っていた。トクナが肩で息をしながらセラと目を合わせると、セラは首を横に振った。すでにMPを使い切っているようだった。


「撤退する」


「——はい」


 セラの返事に、安堵と悔しさが混じっていた。




 走りながら通路を引き返す。オーガの足音が遠ざかったところで、二人は立ち止まって息を整えた。


「あの攻撃力、私たちには無理でした」


 セラが膝に手をつきながら言った。


「ああ」


「私のMPが足りなくて、もうちょっと回復できてれば……」


「俺の火力も足りなかった」


 攻撃が通らなかったわけではないが、木の棒で岩を叩いているような感覚だった。被弾を減らせれば——とも思ったが、それは口にしなかった。


 セラが何か言いかけて、止まった。


「もっと火力が出る方法、ありますかね」


「探す」


 それだけ答えて、トクナは歩き出した。





 その夜、宿に戻ってアイテム袋を広げた。


 ガチャ石、素材、欠片、武器の残骸——雑然と詰め込まれた中身を一つずつ取り出して並べる。整理は久しぶりだった。


 端の方に、剣が出てきた。


 幅の広い片手剣。刃に青い紋様が浮いている。ステータスを確認すると——★2だった。


(そういえば、以前持っていたな)


 最初にセラとガチャを回したときの一本だ。★2はそこそこレアで、凸できる見込みがないと思って放置していた。



【★2 片手剣「ロングソード」】

【攻撃力:30】

【スキル:なし】



 スキルはまだ解放されていないが、ナイフよりも攻撃力は高い。戦闘向けのスキルがつくのではないか、という期待があった。


 さらに探すとアイテム袋の中に同じ剣がもう三本入っていた。


(いつの間に)


 思い返すと、宝箱から出てきた武器の中に、たまに似たような剣が混じっていた気がする。ナイフや杖ばかりに目が向いていて、流して袋に入れていた。


 四本まとめて合成する。



【★2 片手剣「ロングソード+3」】

【攻撃力:36】

【スキル:なし(解放まであと7)】



 あと七回。強敵を前に壁を感じていたが、どんなスキルがつくのかわからないが——楽しみにしている自分がいた。





 翌日からガチャを回すとき、意識が変わった。


 回復杖とナイフだけでなく、ロングソードが出るたびにアイテム袋に入れておく。宝箱から出てくる武器も、以前より丁寧に確認するようにした。


 三日後、合成できる数が揃った。



【★2 片手剣「ロングソード+9」】

【攻撃力:48】

【スキル:なし(解放まであと1)】



 あと一本。



 その日の夕方、宝箱からロングソードが出た。


「また同じ剣ですね」とセラが言った。「集めてるんですか?」


「凸してる」


「どんなスキルが出るんでしょうね」


「わからない。でも攻撃系じゃないかと思ってる」


「わかるんですか?」


「勘だ」


 合成する。光が弾けた。



【★2 片手剣「ロングソード+10」】

【攻撃力:44】

【スキル:鈍化(ダメージを与えた敵の移動速度・攻撃速度を低下させる)】



 デバフだ。攻撃のたびに敵の動きが鈍くなる。直接的な火力ではない。

 しかし——動きが遅くなった敵には、より多くの攻撃が入る。避けやすくなる。硬い敵でも、時間をかけて削れる。セラの回復の頻度も減らせる。


 火力を「上げる」スキルではなかった。でも足りない火力を「補う」スキルだった。


「出ましたか?」


 セラが覗き込んでくる。


「ああ。この剣で攻撃すると敵が遅くなる」


「……それって強くないですか?」


「たぶん有効だと思う。早く試してみたい」


 あとはこのデバフがオーガに効く事を祈るのみだ。




 同じ夜、ナイフのステータスも確認した。


 宝箱とガチャを繰り返す日々の中で、くすんだナイフも積み重なっていた。合成を繰り返した数を数えると——



【★1 短剣「くすんだナイフ+25」】

【攻撃力:33】

【スキル1:見えない宝箱が見えるように+1】

【スキル2:探索強化(周囲の隠しアイテムの感知範囲が拡大する。アイテムのドロップ数がわずかに増加する)】



 スキルが強化され、さらに新しいものが解放されていた。「見えない宝箱が見えるように+1」——より質の高い宝箱が見えるようになる、ということだろうか。試してみるまでわからなそうだ。





 翌朝、外に出た瞬間に違いがわかった。


 これまで足元や壁の継ぎ目あたりにしか光が見えなかったのが、家の屋根や地面の奥からも宝箱の気配を感じる。光の数が増え、濃さでレア度もわかる気がした。


 さらに——壁の奥に空間がある、とわかるようになった。ダンジョンに入ると、なにもない壁の向こうに宝箱の輪郭を感じる。つまりそこに空間がある事もわかった。


「今日は宝箱を見つけるのが早いですね」


 セラが不思議そうに言った。


「そうかも」


「なんかコツがあるんですか」


「……なんとなくわかるようになってきた」


 嘘ではなかった。ただ全部でもなかった。

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