第五話 1 「足りない火力」
第二層に来るようになって、五日が経った。
最初は手こずっていたゴブリンメイジも、今では二人で対処できるようになっていた。トクナが動きを引きつけ、詠唱を乱し、単調な攻撃になったところを受けながら反撃を入れる。セラが距離を保ちながら回復を維持する。勝ちパターンが見えてきた。
それでも、奥へ進むたびに壁を感じた。
敵が硬くなっている。一体仕留めるのにかかる時間が長くなり、その分消耗も積み重なる。セラの回復が追いつかなくなるほどではないが、削られ続ける感覚が抜けなかった。
「今日も奥まで行きますか」
「はい」
◇
第二層の最奥付近で、それと出会った。
最初、壁の一部が動いたと思った。それが立ち上がったとき、トクナは大きさを測り間違えていたことに気づいた。
二メートルを超える体躯。岩のような肌。手に持った棍棒は、それだけで人間の胴体ほどの太さがあった。
オーガだ、と直感でわかった。ゴブリンとは種が違う。
「トクナさん」
セラの声が、少し硬かった。
「距離を取れ。回復を切らすな」
「はい」
戦ってみてわかった。皮膚が硬い。
ナイフを叩き込むたびに手応えはある。刃は通っている。しかしダメージが少な過ぎた。岩に小石を投げているような感触だ。オーガのHPを十削る間に、トクナは三十削られる。棍棒の一振りが重く、まともに食らえば吹き飛ぶ。かわし続けながら削るしかないが、かわすだけで体力を使う。
セラの回復が必死でそれを埋める。
だが長期戦になるほどセラのMPが削られていく。
五分が経った。オーガはまだ立っていた。トクナが肩で息をしながらセラと目を合わせると、セラは首を横に振った。すでにMPを使い切っているようだった。
「撤退する」
「——はい」
セラの返事に、安堵と悔しさが混じっていた。
走りながら通路を引き返す。オーガの足音が遠ざかったところで、二人は立ち止まって息を整えた。
「あの攻撃力、私たちには無理でした」
セラが膝に手をつきながら言った。
「ああ」
「私のMPが足りなくて、もうちょっと回復できてれば……」
「俺の火力も足りなかった」
攻撃が通らなかったわけではないが、木の棒で岩を叩いているような感覚だった。被弾を減らせれば——とも思ったが、それは口にしなかった。
セラが何か言いかけて、止まった。
「もっと火力が出る方法、ありますかね」
「探す」
それだけ答えて、トクナは歩き出した。
◇
その夜、宿に戻ってアイテム袋を広げた。
ガチャ石、素材、欠片、武器の残骸——雑然と詰め込まれた中身を一つずつ取り出して並べる。整理は久しぶりだった。
端の方に、剣が出てきた。
幅の広い片手剣。刃に青い紋様が浮いている。ステータスを確認すると——★2だった。
(そういえば、以前持っていたな)
最初にセラとガチャを回したときの一本だ。★2はそこそこレアで、凸できる見込みがないと思って放置していた。
【★2 片手剣「ロングソード」】
【攻撃力:30】
【スキル:なし】
スキルはまだ解放されていないが、ナイフよりも攻撃力は高い。戦闘向けのスキルがつくのではないか、という期待があった。
さらに探すとアイテム袋の中に同じ剣がもう三本入っていた。
(いつの間に)
思い返すと、宝箱から出てきた武器の中に、たまに似たような剣が混じっていた気がする。ナイフや杖ばかりに目が向いていて、流して袋に入れていた。
四本まとめて合成する。
【★2 片手剣「ロングソード+3」】
【攻撃力:36】
【スキル:なし(解放まであと7)】
あと七回。強敵を前に壁を感じていたが、どんなスキルがつくのかわからないが——楽しみにしている自分がいた。
◇
翌日からガチャを回すとき、意識が変わった。
回復杖とナイフだけでなく、ロングソードが出るたびにアイテム袋に入れておく。宝箱から出てくる武器も、以前より丁寧に確認するようにした。
三日後、合成できる数が揃った。
【★2 片手剣「ロングソード+9」】
【攻撃力:48】
【スキル:なし(解放まであと1)】
あと一本。
その日の夕方、宝箱からロングソードが出た。
「また同じ剣ですね」とセラが言った。「集めてるんですか?」
「凸してる」
「どんなスキルが出るんでしょうね」
「わからない。でも攻撃系じゃないかと思ってる」
「わかるんですか?」
「勘だ」
合成する。光が弾けた。
【★2 片手剣「ロングソード+10」】
【攻撃力:44】
【スキル:鈍化(ダメージを与えた敵の移動速度・攻撃速度を低下させる)】
デバフだ。攻撃のたびに敵の動きが鈍くなる。直接的な火力ではない。
しかし——動きが遅くなった敵には、より多くの攻撃が入る。避けやすくなる。硬い敵でも、時間をかけて削れる。セラの回復の頻度も減らせる。
火力を「上げる」スキルではなかった。でも足りない火力を「補う」スキルだった。
「出ましたか?」
セラが覗き込んでくる。
「ああ。この剣で攻撃すると敵が遅くなる」
「……それって強くないですか?」
「たぶん有効だと思う。早く試してみたい」
あとはこのデバフがオーガに効く事を祈るのみだ。
同じ夜、ナイフのステータスも確認した。
宝箱とガチャを繰り返す日々の中で、くすんだナイフも積み重なっていた。合成を繰り返した数を数えると——
【★1 短剣「くすんだナイフ+25」】
【攻撃力:33】
【スキル1:見えない宝箱が見えるように+1】
【スキル2:探索強化(周囲の隠しアイテムの感知範囲が拡大する。アイテムのドロップ数がわずかに増加する)】
スキルが強化され、さらに新しいものが解放されていた。「見えない宝箱が見えるように+1」——より質の高い宝箱が見えるようになる、ということだろうか。試してみるまでわからなそうだ。
◇
翌朝、外に出た瞬間に違いがわかった。
これまで足元や壁の継ぎ目あたりにしか光が見えなかったのが、家の屋根や地面の奥からも宝箱の気配を感じる。光の数が増え、濃さでレア度もわかる気がした。
さらに——壁の奥に空間がある、とわかるようになった。ダンジョンに入ると、なにもない壁の向こうに宝箱の輪郭を感じる。つまりそこに空間がある事もわかった。
「今日は宝箱を見つけるのが早いですね」
セラが不思議そうに言った。
「そうかも」
「なんかコツがあるんですか」
「……なんとなくわかるようになってきた」
嘘ではなかった。ただ全部でもなかった。




