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第四話 2 「おそらく、再会」

 三人で第二層を引き返した。


 リナが先を歩き、トクナとセラがその後ろに続く。会話はほとんどなかった。


 セラが小声で囁いた。


「リナさん、《蒼狼の牙》の人なんです。ずっと一緒にいたんですけど、あまり話したことはなくて」


「強いのか?」


「はい。パーティーで一番戦えてたと思います」


 リナの背中が、かすかに強張った。



 第二層の出口が近づいたころ、さっきの分岐に戻ってきた。右の壁の継ぎ目から、金色の光がまだ漏れていた。


(ほとんどの人には見えてなさそうだし、後で戻ってくればいいか。)


 トクナが考えていると、その手前に人が立っていた。


 痩せた男。年季の入った革鎧。《蒼狼の牙》の集まりで見かけたことがある気がした。男はリナを一瞥して、無表情のまま何も言わない。リナも何も言わなかった。ただ頷いて、男の隣に立った。


「助けられた」


 男が言った。リナへ向けてではなく、トクナへ向けて。


「一人で大丈夫だった」


 リナが吐き捨てるように言う。


 男は気にする様子もなく、トクナに目を向けた。


「ガイだ。こいつはリナ」


 自己紹介だった。それ以上は何も言わない。

 一秒の間があった。


 ガイの視線が、壁の一点に向いた。金色の光が漏れているあの場所だ。


「この先に見えない宝箱がある。お前たちへの礼だ、探してみろ」


 低い声だった。


 トクナは反射的に壁を見た。


 すでに見えていた。さっきから気になっていた場所だ。それが顔に出たのか、視線の動きで察されたのか——気づいたときには、ガイがトクナをじっと見ていた。


「……見えるのか」


 確認するような言い方だった。


 トクナは答えなかった。肯定も否定もできなかった。この男が何を知っていて、何を聞こうとしているのか、まだわからない。


 黙ったままのトクナの顔を、ガイがしばらく見ていた。


 それからかすかに頷いた。


「そうか」

 それだけ言って、踵を返した。「帰るぞ」とリナに言う。リナが短く「ああ」と答えた。


 曲がり角に消える直前、リナが一度だけ振り返った。セラを見た。それからトクナを見た。何も言わずに、前を向いた。


 二人の背中が、暗がりに溶けていった。




「……今の人、《蒼狼の牙》の幹部の人ですよね」


 セラが小声で言った。


「ガイって言ってたな」


 トクナは宝箱のある方へ歩き出した。


「どうしました?」


 答えずに壁の石を押すと、かちりと音がして開いた。宝箱が現れる。セラが目を丸くした。


「なんで宝箱があるってわかったんですか?」


「ガイが教えてくれた。リナの礼だとさ」


「でも、なんで見えない宝箱の場所を知ってたんでしょう」


 トクナは答えなかった。


(あの男にも、見えている)


 確信に近かった。ただそれを口にする言葉が、まだなかった。




 宝箱を開けると、魔法石が五個と、見慣れない欠片が一つ入っていた。光の粒子になって消える宝箱を見ながら、トクナは冒険者ギルドの壁を思い出した。


 あのとき、ガイが視線を止めた場所。自分にしか見えないと思っていた緑色の宝箱。


 ガイはあのときも、気づいていたはずだ。なのに回収していなかった。


「すごい、魔法石が五個も」とセラが声を上げた。


「ガイさん、たまにアイテムを持ち帰ってきてたんですよ。こういうことだったんですね」


 トクナは短く「ああ」と答えて、欠片をアイテム袋に入れた。





 ギルドに戻って報告を済ませると、受付嬢が少し改まった顔で言った。


「第二層まで行かれたんですか。お二人で」


「少しだけ」


「気をつけてください。第二層からは、ソロでは対処しきれない場面が増えます」


 トクナは頷いた。結構実力があると言っていたリナも一人だったから罠にかかってしまったのかもしれない。


 セラがトクナにだけ聞こえるくらいの声で言った。


「リナさんがいたら、と思いました」


「ああ」


 それ以上は言わなかった。ちらりとギルドの壁を見ると、例の宝箱の光がまだそこにあった。





 セラを宿に帰らせてから、トクナは一人でギルドに戻った。


 すでに受付は閉まっていた。受付嬢があくびを噛み殺しながら窓を閉めているところだった。


「今日の営業は終わりですよ」


「忘れ物をしちゃって」


 受付嬢が苦笑いしながら中に入れてくれた。


 トクナはまっすぐ壁際に向かった。石の継ぎ目を触ると、蓋が開く。中から魔法石と素材が出てきた。


「こんなところに宝箱があったんですね」


 受付嬢が後ろで驚いた声を出した。


 少し迷ってから、「ガイが教えてくれた」と言った。


「ガイさんが?」


 受付嬢が首をかしげてから思い出したように言った。


「そういえばガイさんって、宝箱を見つけるのが上手いって有名なんですよ。固有スキルらしいんですけど——あ、あまり人には言わないでくださいね。固有スキルって隠してる人も多いので」


「固有スキル」


「武器のスキルとは別に、人によって最初から持ってるスキルがあるんです。珍しいですけど」


 トクナはアイテム袋を閉じながら、自分のステータスを確認した。固有スキルの欄は——空白だった。


(固有スキル、か)


 ガイの能力は武器スキルではないのか。しかし疑問は残る。固有スキルがあるなら、なぜ《蒼狼の牙》の中で使い続けているのか。わざわざ右も左もわからない人から奪うようなクレスと一緒にいる意味は。クレスに知られていないのか。知られていて、利用されているのか。


 それとも——ガイ自身が、何かを選んでいるのか。


「お疲れさまでした」


 受付嬢が眠そうな顔で言った。トクナはギルドを出た。



 夜の石畳に、足音だけが響いた。

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